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4-27.【Side:レベッカ】母の動きと父のもくろみに挟まれて

 わたくしは本日も、馬車で王宮へ赴き、王妃教育を受けてまいりました。


 もっとも、この段階になって教育をする意味などないと、皆様おわかりになっておられますので、具体的にご指導いただけることなど、何もございません。書類が、そして書物が多く並んでいる部屋で待機し、勉強するという建前ですが、重要なものなど何もなく、公開されている情報ばかり。いえ、書類ひとつにしても、文字の読み書きができればよいというものではなく、規則や作法があるはずなのですが、そのような指導もございません。


 もう、あなたに関わるのは、時間と手間の無駄だ。そう言われているようです。悲しいことですが、何の反論もできません。


 このような状態になった原因は、いうまでもありません。そう、わたくしの婚約者である王太子殿下が、心変わりなさったからです。お相手は、公式には発表されておりませんが、もはや誰もがご存じの通り、ドゥルケン男爵家のご長女、レオノーラ・エグナー嬢です。


――あなたの世界は、今では、余りにも小さすぎる。


 いけません。わたくしの発した、あの愚かな言葉が、まだ、頭の中を駆け巡っております。立場のいかんを問わず、客人を相手にして、ぶつける言葉ではありません。


 そして、レオノーラ嬢が退去された後、母上が、そして母上が退去された後に父上が、わたくしのもとにおいでになりました。


 母上は、びくびくとおびえるような表情でしたが、訪問された方の名前を告げますと、ほっとした顔になられました。


「来たのは、レオノーラ嬢だけですね。それなら、あまり気にする必要はございませんよ。ええ、あの方なら、いろいろと動かれているようですが、どうにか押さえ込めますから」


 いささか物騒な言葉が聞こえましたので、思わず聞き返してしまいます。


「押さえ込める、とは」


「無道には正道で臨めばよいのです。大丈夫です、あなたが気に病むことはありませぬよ」


 気に病むことはないのかもしれませんが、知りたくなることが山ほど出てまいります。その理由は、事情は、背景は。いや、知りたい、ではありませんね。知っておくべきであろう、という事項でしょう。


 しかし、今のわたくしには、それを聞き返す勇気を持ち合わせておりませんでした。


 それを口にすると、いろいろなものが、ガラガラと壊れてしまいそうで。


 それでも、何とか力を入れて、一言だけ。


「ファイゼルト侯爵家は、安泰なのでしょうか……」


「レベッカ。あなたは、侯爵家などという狭いところに閉じこもっていては、幸せになりませぬよ。あなたは、王妃に、いえ女王になるだけの才を備えているのですから」


 そうおっしゃった母上のお顔は、笑みを浮かべてはおられるものの、とても険しいもので。そう、見る者を萎縮させるような、恐ろしい眼光をもって。


「……て、なさ……ふ……、なた……とら……もの……」


 鬼気迫る有様の母上には、それ以上、何も尋ねることはかないませんでした。


 母上が部屋を出られてから、程なくして、今度は父上がお見えになります。示し合わせているかのように、絶妙に時間がずれておりましたが、お忙しい方ですので、偶然のことなのでしょう、恐らく。


 父上は、一見冷静そうな様子ですが、かなり神経質になっているご様子でした。


「今日、例のレオノーラ嬢が来られたそうだが、何か言っていたかね」


「いえ、本当にごあいさつだけでございましたわ。お話はほとんど、フリーデ嬢とのみでしたので」


 そうお答えした瞬間、気付きました。これは父上が望んでおられる回答ではなかったのだ、と。


「……そうか」


 表情はそのままでしたが、内心では、残念だ、とお思いになっていたのは間違いありません。あるいは、わたくしの対応に、失望なさったかもしれません。


 父上は、レオノーラ嬢とのやり取りで、先方がどのような考えを持っているか、それを探っていただきたかったのでしょう。


「それでは、彼女はどのような態度だったかな。レベッカが見たまま、感じたままで構わん。言ってみなさい」


「はい。自信を強くお持ちのようで、堂々とされていました。その一方で、貴族としてのあいさつはおろか、着席も何もできておらず、平民が身代わりになっていたような印象でございました」


「身代わり、かね? しかし、デリンジャー伯爵家が同伴されていたはずだが」


「実際に身代わりだったわけではないと存じます。しかし、レオノーラ嬢とて、王宮へ頻繁に出入りされており、貴族としての礼儀を全く身に付けていないということはあり得ません。愚考するに、貴族としての身分や王家との関係、そういった立場を考慮せずに行動できる、そういうメッセージがあったのではないかと」


 礼儀に欠けているという面では、そう言えましょう。


 ですが、あの方は表情を、そして感情を隠していなかったのに、それがどのような種類のものか、それがわかりません。敵愾心てきがいしんを見せるでなく、挑発するでなく、優越感を見せるでなく、哀れみや同情を見せるでなく。二つの目に、強い意志が込められていたのは確かですが、その先に何を捕らえていたのか、それがわかりません。


 父上と母上の間を含め、当家に関する情報もお持ちの様子でした……とは、口に出しませんでした。


「そうか。しばらく、辛い日があると思うが、無理をしないようにな。わたしも最近は多忙で、なかなか時間を作れなくてすまないが」


「いえ、父上がお忙しいのは、存じ上げております。くれぐれも、ご無理なさらないでくださいませ」


 結局、当たり障りの無いことしか、お話しできませんでした。


 真にわたくしが取るべきは、父上と母上に同じ場へおいでいただいた上で、わたくしが見たこと、感じたこと、考えたことを、包み隠さずお話しすることなのでしょう。


 しかし、わたくしには、それができませんでした。


 母上も、父上も、わたくしを大事に思ってくださっていますし、それは感謝しております。


 ですが、このままですと、三人が全て幸せになるのは、難しいように思われるのです。いえ、正確に申し上げますと、父上と母上のうち一方が、破滅への道を進みそうで、怖いのです。


 何が、このような状況を作り上げたのでしょうか。


 わたくしは、恐ろしい。


 そのようなことを考え、思い悩みつつ家に入ると。


「お嬢様。デリンジャー伯爵家より、明日、面会のお申し出がございました」


 わたくしは、どのような選択をすればよろしいのでしょうか。

この日は主人公や主要人物がコンタクトを取らなかったため、一回休みになっていますが、ファイゼルト侯爵家は大荒れになっています。

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