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4-18.政権樹立後の閣僚名簿を作ってみました

 わたしのすすり泣きがやんだ応接間には、沈黙が垂れ込めていた。


「ごめん、なさい……感情的に、なってました……」


 多分、わたしの顔は、ひどいことになっていたと思う。何も話すことができない状態だったわたしに代わってトビアスが、フリーデとイザベラに説明してくれたようだ。


 ただ、気になる点が、ひとつある。それは、イザベラがわたしに、フリーデがトビアスに同情的な態度を示していたことだ。


 それぞれに対する信頼度の違いといえばそれまでだけど、どこか、違和感がある。


「トビアス、フリーデ……何か、わたしに、話せないこと、あるんじゃないの?」


「だとしたら、どうだっていうんだ?」


「ちょっと!」


 冷たく拒絶するようなトビアスの答えに、フリーデが声を上げるが、トビアスは止めない。


「君は、あくまでも、レオノーラ嬢の体に身を寄せているだけの、かりそめの存在だ。でも俺たちは、この世界に居て、背負う物を持っている。同格のはずがないだろう。隠し事をしない、させない関係を求めるなら、前提となる環境がなければ、話にならない」


 ああ、そうか。


 そういうことか。


 だいたい、合点がいった。


 わたし、レオノーラ、イザベラ、この関係はあまりにも不安定で、それを改善するための方法がすぐにわかるわけではない。そもそも、霊魂だけのような存在であるわたしが、自分の認識が中途半端になっている現状では、ね。


 フリーデの反応と合わせて考えれば、だいたいわかる。要は、身動き取れない状況を動かすすべがなく、現状を打開するめどが立たない可能性が高い、少なくとも否定できないということだろう。


「ただ、朗報もある。一応、こちらの方で調べられる範囲では、そうだな、明後日の朝イチには、わかりそうだ。……イザベラ、そうだな、明日にでも、答え合わせをさせてほしい」


「答え合わせ、ですか?」


「ああ。こちらでまとめた情報について、レオノーラ嬢の見解を知りたい。それによって、有希江が、この世界でどのように関わっていけるかを、確定できる……だから、有希江。早まるなよ」


 トビアスの顔は、目や口元を見る限り、過度なまでに冷たく感じられる。


 でも、この声色はわかる。わたしを、心底気遣ってくれていると。


「うん。ありがと。大丈夫とはいえないけど、なるべく、冷静さを心がけるから。……ところで、イザベラとフリーデの話し合い、どうなったの?」


「それはね」


 絶対に無理ですと固辞するイザベラを除いて、象徴君主の候補はなかなか出てこないようだ。


 フリーデから見ても、トビアスは論外だし、フリーデも大衆向けとしては難しい。王太子婚約者のレベッカは性格的に無理。そして、現在の王国で要職にある者は、少なくともトップにするべきではない。


 何とか見込みがあるのが、フリーデの父親であるエドガー様だ。軍人肌で、人心を掌握できる可能性はある。でも、彼が大衆的な人気を得られるとしたら、それはあくまでも功績を挙げた後だ。侵攻してきた周辺諸国の介入を、彼が軍を指揮して見事撃破、救国の英雄に、とかね。新体制への移行期なら、侵略戦争よりも防衛戦争の方が正統性も高くなる。ケマル・アタテュルクになってもらうことも不可能ではない。でも、他国の侵攻なんて避けるべきだし、イザベラにはその心づもりもあるようだから、これは事態が悪化した時の保険にしておこう。


 それ以外の、ビルジー侯爵位を持つカウフマン家、デリンジャー伯爵位を持つクラウスナー家には、そんな役に就ける者は、誰もいないという。


「結局、今の国王陛下はそのままの地位にして、摂政にレベッカ様かな。でも、彼女が政治的判断力を備えているか未知数だし、新しい価値観を認容できるか、わからない」


「レベッカ様を形式上の次席にする場合、ファイゼルト侯爵家は高官から排除する必要が出てきます。しかし、彼女の父君は優秀なお方ですし、実務を考えれば引き入れておきたい人材。できれば、レベッカ様は貴族という閉じた世界の中での地位を持っていただき、ギュンター様には実務行政の長をお願いしたいですね」


「そういったことを考えて、このような役割分担が妥当かな、と」


国王:現在の国王


摂政(国王代理):未定、ギュンターの推薦を考慮


宰相兼外務大臣:ギュンター・ハーマン


財務大臣:カウフマン家と懇意の、財務会計に精通した民間人を登用


内務大臣:クラウスナー家と懇意の、派閥横断的に領主貴族と太いパイプを持つ伯爵家から登用


教育大臣(新設):クラウスナー家と懇意の、平民向け啓蒙けいもう書出版を手掛ける男爵家から登用


軍務大臣(再編):エドガー・クラウスナー


農業経済大臣(新設):カウフマン家と懇意の、農業技術研究に取り組んでいる子爵家から登用


憲法制定委員会委員長(最長二年限定)兼司法制度準備委員会委員長(司法大臣に再編予定):トビアス・カウフマン


国家保安委員会委員長(新設):イザベラ・エグナー


人事委員会委員長(再編):未定、従来の貴族制度を知りながらそれに批判的だった下級官僚を登用


会計検査院長官:未定、経理実務に精通した中堅官僚から登用


最高裁判所長官:法務官僚を経験した民間人を登用、司法制度整備後に任命、初代は国王が指名


王国軍総監(再編):エルヴィン・ルックナー


 だいたい、わたしとイザベラが話し合った内容に準じた役職を設けて、そこに割り振っているというわけか。既存の高官をほとんど使わないのが、またすごいね。能力本位というのは無理があるから、政変で表舞台に立った者の勢威をアピールしつつ、人脈を行使できる者を要所に配置して、二番手クラスに実務家を置く。


 だけど、心当たりのない役職が一つあって、そこにイザベラの名前が。


 そこを指さして、彼女の顔を見ると、死んだような目になってる。


「三家の同盟関係を前提としている以上、エグナー家から誰か出さないわけにはいかないと、半ば強引に」


 まあ、間接的な情報を基に判断しただけでも、レオノーラに国の要職を任せたり、実務を担わせたりというのは無理だと思う。消去法でも、イザベラしかいないというわけか。そして、彼女が許容できるのが、保安部門と。まあ、その道の経験者だし、現場になめられる心配もないしね。


 しかし、国家保安委員会とは、大きく出たな。二十一世紀の日本でいえば、警察、内調、公調を一緒にした感じだろうか。少なくとも、国家公安委員会よりもずっと権限が大きそうだ。


「フリーデはどの役になるの?」


「当面は宰相補佐官あたりで、大臣を含めた高官を横断的に調整する役がいいかなと。父とのバランスを考慮すれば、わたしは厳しいから」


「なるほど、次代の宰相候補、いいじゃない」


「……」


 なんだよ、能面みたいな顔で、じっとわたしの顔を見て。


「それ以外の人物の処遇は、こんなところかと」




王太子:廃位、平民落ち、終身禁錮


国王、および王太子以外の王族:王位継承権剥奪の上侯爵位に降爵、爵位保障の代わりに当主在任を最長二年に制限する、夫婦および成人前の子供以外は別々に居住の上で中堅官僚の補佐として公務に従事させる、生活費相当の年金のみ給付


腐敗高官:基本的に平民落ち、過去の違法行為を立件起訴し刑を執行、証拠がないものや脱法的悪行のある者は難癖をつけて失脚


他の高官:王太子らを止められる立場にあったかどうかを考慮の上、更迭、留任等を判断


官僚や軍人:大幅な配置転換を行うが、悪行をなした者以外は身分を当面維持


法服貴族:向こう三年間について機械的に昇給させるが役職の世襲は認めず、当主後継者の無試験採用もその一代限り、かつ下級官吏または下級兵とし一般採用者と同格に扱う


領主貴族:当主および一族の王都在留と当主の公務就任、使用経費の明確化を前提として一括陞爵、当主のみ高官待遇として扱う




「王太子の愚行は亡国以上の何ものでもないけど、そういう危機感を抱いた人がそんなに居るわけでもないし、好ましくない行いも私的なものと思われているから、厳しい刑罰は避けるべきね」


「意思のありなしに関わらず外患誘致ですから、体刑の上で国外追放というのが妥当ですが、旧体制支持者が擁立する可能性がありますので」


 まあ、どれだけ愚鈍であっても、亡国の国主を担いで正統化を訴えるのは常とう手段だからね。清の復辟ふくへきとか。成功した例はあまり記憶にないけど、内乱は絶対に避けたい。


 イザベラが、あのやからなら問答無用で合法的に葬り去ることができるのですが、と言っているのが耳に入るけれど、ひとまずは聞かなかったことにしよう。


「王族の処置は悩ましいところですが、王太子の暴走を止められなかった罪を取り上げることはできるでしょう。ただし、それぞれの個人に対して罪を問うのではなく、王族という地位にあったことを罪とし、構成員は分断の上で囲い込む」


「気位の高い人間は、頭を下げて人の手を借りることは嫌がるくせに、自分では何もできない、いや、物の役にたたないものです。分断して監視をつけておけば、大丈夫でしょう。当主位を持ち回りにすれば、相互の反目も期待できます。それでも問題を起こせば、堂々と売国奴として処分できます」


 反目を期待、ですか。イザベラの声がウキウキしてるように聞こえるんですが。


「まあ、現状の王族を見れば、口先だけで、体を動かさないどころか、人も動かせない面々ばかりだしね。ほとんどは、軟禁程度で十分かな」


「いえ、唯一気にしておくべき方がおられます。今は亡き先代バルトリッセ公夫人、アンジェ……いえ、イングルード・フリンツァー様」


「あー、あの方ね……」


「はい。イングルード様はミルーデン王国第三王女。ご母堂の身分があまり高くないので王位継承権こそありませんが、現在でもミルーデンの王籍をお持ちのはずです。今回の騒動でも沈黙を守っておいでですが、彼女に近しい貴族も足をそろえて静かにしている点を考慮すると、今回の件に合わせて動く可能性が十分に考えられます。この連中は、単独では大したことをするとは思えませんが、国境付近での不穏な動静を鑑みるに、要観察かと」


「ふむ。それにしても、ミルーデン、か……」


 イングルード、ね。沈黙しているキーパーソンって、不気味だわ。


 そして、イザベラの言い回し。注意する必要はあるけれど、恐るるに足らず、といった余裕が感じられる。


「高官は、表に出せないようなことをしてはいるだろうけれど、政治を進めていく中では、ある程度やむを得ない面もあるわ。本来なら、法に照らして処分するべきだけど、軍事的な政権交代となれば速さが勝負だし、穏便に退場してもらうようにすべきね。後々反政府分子の核にならないように注意は必要ね」


「高官の醜聞や弱点なら、わたくしは一通りつかんでおります。大臣、次官、近衛兵なら全員、幹部官僚なら七割、上級以上の国軍軍人なら六割は馘首かくしゅ可能です。本来、顧客情報の流用は、商売人としてやってはいけないのですが」


 ああ、あちら方面の“商売”か。一件片付けるごとに綿密な情報収集と分析をしているようだし、だいたい、後ろ暗いことがあるから依頼したり目標にされたりするわけだし。手掛かりとなるうわさ話は、別の“商売”でいくらでも手に入るしね。そりゃ、いろいろ集まるわね。


「官僚や軍人は、腐敗している者も少なくはないはずですが、一気に処分すると実務が停止して、統治不能になるから、過去の罪は問わずに身分は保障。でも、環境を一新する必要はあるから、人事は大幅に入れ替え」


「中堅以下は、上の指示で動いているだけか、ほどほどに甘い汁を吸っているかという程度と思われます。今後はそのようなことをしないように引き締め、将来に向けて、信賞必罰で臨みます。誰が見ても眉をひそめる悪行を重ねていたなら別ですが、それは新体制に伴うものではなく、旧体制でも行われるべきだった通常の処分になります」


 専門家が居なくなれば、何もできなくなる。ロシア革命直後に見られた現象ですな。ド素人のボリシェヴィキ党員がナントカ委員会を牛耳ったところで、問題の解決どころか、何が問題でどうすればいいかを理解できないということが頻発したっていう、アレだ。軍事力と警察力で制圧してその場をしのいだりすれば、機能不全が恒常化して悲惨なことになる。現行のアホ王族による統治のほうが、なんぼかマシだろう。


「法服貴族、つまり領地を持たずに王宮勤めで給与を受けている貴族は、もともと公僕という位置付けだから、早急な処分は控えたい。ひとまず、世襲制を廃止するのが先決ね」


「一方的に世襲制廃止を広めると、反発だけが大きくなりますから、激変緩和措置は必要です。官僚や軍人への採用には試験での選抜、昇任は年功および実績での評価を基本にするべきですから、試験での選抜について、期限付きで優遇するあたりが妥当でしょうか。王国設立および維持による功に報いるといった名目で。ただし、採用後は、一般の試験採用組と同じ扱いにして」


 メリットシステムの導入を前提として、経過措置として貴族特権を縮小、その先の世代は努力次第というわけね。年金など、他にも検討すべきことはあるけれど、もともと、やらなくちゃいけないことは山のようにあるはずだ。その中では、重要度は高くても、緊急度は低い。ToDoリストでは赤色チェックを入れてはいても、上位にはしないタイプの案件だ。


「領主貴族への扱いは、一番難しいところね。領地貴族の娘が言っても説得力がないけど、既得権益を一番持っていて、それでいて中央政府が一番権益を奪いたいのが、その権益だから。それでも、権利が大きい分だけ、経済的にはむしろ厳しくなっているところも少なくないの。特に、最近の穀物価格の下落傾向は、王都などでは市民生活の向上になるけど、生産地である地方では痛手だからね。そういう領主貴族を迎え入れつつ、経済的に余裕のある領地貴族をどのように引き込むか」


「もともと、経済力の強い領主貴族が、中央政府に協力する理由は何もないのです。そういう貴族には、中央政府へ食い込める利点を具体的に提示するしか方法はないでしょう。その代わり、関係者を王都に固定させることによって、中央での存在力を上昇、支配地での存在力は下落、中央からの各種支給で家門の維持は可能、そういった担保を用意する必要があります。この策に説得力を持たせるには、経済基盤の中央統制と、軍事力の中央集中化を並行して行う必要がありますが、恐らく、一つや二つは、反対姿勢を示すだけでなく、明確な意思をもって自立を目指すなどの形で反旗を翻すことでしょう。それを前提とした上で、当面の体制を用意すべきです」


 なるほどね。だからこそ、参勤交代のような措置が必要ということか。


《トビアス、この国で“版籍奉還”は現実的に可能かな?》


《経済的に困窮している領主貴族は多いし、そうでなくても財政基盤はぜい弱なところばかりだ。任意で求めたとして、財政を保障するなら、四分の三ぐらいはできるはずだ》


 にゃるほど。領地貴族の自立志向が弱いなら、中央政府がヘゲモニーを取ることはできるな。ドイツ帝国型連邦国家ではなく、明治維新後日本型集権国家にすることもできそうだ。ただし、漸進的にね。


「有力領主貴族で、明確に反旗を掲げるのが居た場合は、どうするの?」


「正面から軍事行動を起こせるところはないと思うから、内部から切り崩しでしょうね」


「大きい貴族様ほど、人間関係でややこしい状況を顕在的にせよ潜在的にせよ抱えていますし、表に出せないこともいろいろあります。突っつける弱点がある以上、譲歩させるのはそう難しくないでしょう。利を引き出そうと持久戦に持ち込む切れ者が居る場合は、その者を排除すれば済む話です」


 そうだね、プロが言ってるんだったら、そうだよね。


「ただし、秘密の保持には、万全を期す必要があります。わたくしには一応ツテがありまして、ビルジー侯爵家とデリンジャー伯爵家の王都屋敷については、周辺に監視網を敷いてあります。こちらは今のところ大丈夫そうですが、ビルジー侯爵家については、すでに侵入を試みている者が複数ございます」


 そっか、対策は万全なんだね。


「それでなくとも、当家の屋敷には、あまり歓迎できないお客様がいろいろ“派遣”されておりましたが、やはりというべきか、ここ一か月ほど、急に増えておりますからね。多くの方には“円満に”お帰りいただき、一部の方には“じっくりと説得”の上でお帰りいただき、ごく一部は……まあ、よろしいでしょう。皆様もお気を付けて」


 ごく一部の方には、どう対応したのでしょうか。イザベラさん、わたし、気になります。


「レオノーラ嬢が動き出す前から、いろいろあったの? 失礼ながら、わたしはドゥルケン男爵家について、あまり存じていなかったのだけれど」


「ええ、もともとドゥルケン男爵家は、出自が特殊ということもありまして、国内の有力貴族からも、いろいろな方が“派遣”されていたようで。熟練の方ですと所属がなかなかわからないのですが、そういう方には、粘り強く“交渉”させていただいております。それはもう、意外なところからお越しになっておいでで。交渉に応じていただけない方には、やむを得ず“お返事”を託して、お帰り頂いています」


 使用人二人の割に、なかなかの警備体制だったのですね。お返事って、お客様の体に直接刻むんでしょうかね、身体的に。


 フリーデは無邪気に感心しているけれど、トビアスは渋い表情。自分の屋敷に侵入者があったということが理由ではなさそうだ。“派遣”してたな、この反応は。


「まあ、事前の防衛策はそれでいいとして。本番では、場を制圧して、国王の身柄を確保の上で王城を支配下に置いたら、すぐに各方面へ通知か。貴族に対しては、だいたい王都の屋敷があるんだっけ?」


「基本的にはそうね。王都に屋敷を持たない小規模な領主貴族もそれなりにいるし、それは国家存立の上であまり関係ない貴族ばかりだから、政変の連絡を受けても、どうせ大した行動は取れないわ」


「なるほどね。後は、相手に応じて、通知する文言を用意する必要があるか。今回の動きでも、貴族への対応が可能な事務方が必要だとは思うけど、誰か適任がいるかな」


 トビアスとフリーデが、うーん、と考え込む。


 さっき再認識したけれど、貴族の使用人に求められるのは、第一に信用がおけることであって、能力は二の次、三の次。結果として、家事や雑用はともかく、事務処理能力が高い者が育たない可能性が高い。特に、ここは王都だ。領地で実務を行う者がいるわけではなく、貴族としての用務は、当主および当主が任命した者が直接行っているのだ。


 仕方ない、これから忙しくはなるけど、トビアスとフリーデに手分けして頑張ってもらおうと思っていると。


「ドゥルケン男爵家の使用人に一人、全面的に信頼できる者がおります。彼なら、わたくしが頼めば絶対にその内容を遂行してくれますし、秘密も確実に守ってくれます」


 そんな声を上げたのは、意外にも、イザベラだった。


「ドゥルケン男爵家の、使用人? あの家の使用人って、確か、二人しか居なかったよね?」


 最下層の男爵家とはいえ、なんぼなんでもこれはないだろうと思ってたけど。


「はい、二人だけです。お一人は、まあ、普通の者ですね。給料分は働いていますが、それ以上は期待しませんし、できません。職務上知り得た情報も、どのように扱っているか、わかりません。彼の前では、ただただ貴族として振る舞っているべきで、それ以上はしてはいけません。ですが、もう一人は、もともと母上に縁のあった者で、現在もわたくしに“臣として”仕えてくれている者です」


「ああ、イザベラ個人に忠誠を誓っている人なのね。……ん?」


 なんだか違和感があるんだけど……うーん、うーん……。


「その者なら、秘密を守れますし、事務処理能力も十分にあります。書類仕事などがまるでできないわたくしですが、彼ならしっかりしたものを用意してくれます。明日にでも紹介させていただきますので」


 しっかりした文書なんか書けませんが、読むだけならできますしね、と。そういう仕事をしてこなかったのではなく、させてもらえなかった、ということだろう。ま、実務能力というのは、実際の書類や規定に触れる機会がなければ、養われるはずもないしね。


 今日の時点でできる話がまとまったかな、というところで、トビアスがすっと立ち上がる。


「すまない、そろそろ、屋敷で片付けないといけないことがあってね。今日はこれで失礼するよ。明日は明日で、忙しくなるだろうけど」


「そういえば、そろそろ、いい時間ですね。すみません、わたくし、この後用事がありますので、このあたりで」


「あ、それなら、わたしも」

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