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3-19.【Side:レオノーラ】召喚術の限界に今さら気付く

 どうも、わたしが召喚した者――ユキエといったか――が、自分勝手に動き出しているようだ。


 ユキエには、高度な状況判断力がある。わたしの経験などをきちんと吸収しており、その膨大な知識と相まって、相当な戦力になると思っていた。


 そして実際、昨日までは、わたしには気付かない、あるいは手の届かないところに対して、新しいものを指し示してくれるような言動、そして行動を見せていた。


 ところが、彼女の素振りが、今日になって、大幅に変わっている。彼女が、自分なりの強い意志をもって動くようになったようだ。


 被召喚者の感情、とりわけ集中力が高くなり、行動に対する思い入れが強くなると、召喚者側が被召喚者の状況を把握するのは難しくなる。


 つまり、ユキエが自分から積極的に行動したり思考したりしている場合、わたしには、どのようなやり取りがなされているか、どのような結末になったのか、そのあたりが曖昧にしか伝わらなくなる。


 もともと、召喚者は、被召喚者を直接制御することはできないし、直接働きかけることもできない。


 召喚者が、自分の体に入っている被召喚者に対して行使できるのは、召喚者が見せていい情報を提示すること、そして、被召喚者の活動等を判断して意識を入れ替えることだ。ただし、前者は、提示するだけであって、明示的に見せる方法はない。後者も、被召喚者の暴走を止めることはできても、召喚者の指示や要望を伝えることはできないし、そもそも、被召喚者が強い意志を持った場合には、入れ替え自体が止められてしまう。


 このままでは、ユキエは、わたしに寄生し、わたしの体を使って、わたしの名で、いろいろなことを進めてしまうことになる。


 ここに至って、大失敗をやらかしたことに、やっと気付く。


 この秘術を最初に知った時、一見強力に見える術だけれど、実用性がないだけでなく危険があるばかり、さらに他者へ見せることもできない、そういうものだ、と、父上から言われたことを、今になって思い出す。そう、あの厳しい修行の中で。


 バカか、わたしは。


 本来の目的、それは、いろいろとおかしくなっているこの国を、立て直していきたいと思ったからだ。


 別に、権力者になること自体は目的ではないし、興味も関心もない。でも、この国の状況は、王太子を中心とした上層部が腐敗して無為に走るだけではない。すでに、法服貴族のかなりの部分が、それに順応しようと、積極的に腐海へと喜んで身を投じつつある。


 しかも、他国の手先と化している者が、どんどん増えている。鎖国しているわけではないのだから、諜報ちょうほう員が活動するのは当然だ。しかし、かれらの行動網だけでなく、程度の濃淡こそあれ、ひいき目に見ても同調者の存在が、この国の基盤をむしばんでいる。戦術面で真に警戒すべきなのは、他国勢力それそのものではなく、味方の中に潜む内通者とその予備軍なのに。


 だからこそ、わたしは、覚悟を決めた。呪術という技能を備え、修行を積んだわたしに課せられた使命。それが、この身を賭して、国を立て直すことだ、と。


 そのため、わたしという人物を、王太子殿下の婚約者として権力中枢にねじ込ませ、その先で的確な選択をする方策や指針のようなことを求める。そして、漸進的に体制を動かしながら、賛同者を増やしながら、王国への潜在的反抗者の力を削ぎながら、まずは土を固め、根を張り、幹を伸ばす。そうしてやっと、葉が茂るはずだ。


 少なくとも王都で見る限りは、民の目からは光が消えていない。地方でも、民の反乱や逃散などは起きていないという。それなら、まだ間に合うはずだ。


 しかし、ユキエには、そういうわたしの意図が、全く通じていない。


 そもそも、わたしの“要望”は感情に属していて、知識でも経験でもないから、それは被召喚者が知覚できない、ということなのだろう。


 ところが、ユキエの行動力は、わたしの予想をはるかに上回っていた。


 何せ、朝からいきなり、ファイゼルト侯爵家令嬢、つまり王太子の婚約者であるレベッカ・ハーマン嬢の元に向かったのだから。


 ユキエがレベッカ嬢と話していた時間は、かなり短かったようなので、特に不穏な事態にはならなかったと思われる。でも、相手は完全な敵。いや、こちら側が敵だと思わなくても、先方からは確実に敵なのだ。


 どうして、そこに飛び込んだのか。まさか、何のもくろみも計算もなかったはずはないだろう。


 でも、それが読めない。わからない。そして、知るすべがない。


 揚げ句の果てに、こともあろうに、妹のイザベラに接触した。


 当主の座を乗っ取った、あの義父の、その娘。わたしから、あらゆるものを奪っていく、あの娘。大した能力もないのに、貴族令嬢の列に入り込む娘。


 そして、あの態度だ。わたしをバカにする程度なら、まあいい。それより、わたしに力がないと決めつけ、同情するような視線を向ける。心底、腹が立つ。


 ところが、ユキエの奴、イザベラと意気投合したようで、熱心に話し込んでいる。


 なぜ? どうして? ユキエは、異世界から引き入れた優秀な人材のはず。わたしにはとても理解できない膨大な知識を備えていて、有力貴族の後継者とも対等にやり合える実力があるのは、間違いないのに。


 そんな人物が、イザベラと、同じレベルで話をしている、って?


 まさか、イザベラ、自分の力を、隠していたの?


 困惑しているわたしが、どのような状況なのか、知りたい、と思った瞬間。


 わたしの意識とユキエの意識が入れ替わって。


「――お久しぶり、です。姉様」

ヘタをするとヘイトを集めかねないレオノーラですが、真っすぐで、頭脳面でも性格面でも、決して悪い娘じゃないんです。ただ、猪突猛進に加えて、割とポンコツちゃんなので、周囲をやきもきさせるタイプ。一人にさせちゃいけないのです。

なお、彼女に対するイザベラの評価が妙に高い点について、意外と思われる方も多いでしょうが、これにはちゃんとした理由があります。

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