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3-17.【Side:フリーデ】能力だけでなく度量でも決意でも脱帽

 レベッカ嬢の人となりを、あの短時間で瞬時に見極める。


 そして、レベッカ嬢が発した、いわば貴族的なメッセージを、的確に読み取って、そのための対処を冷静に決められる。


 ユキエは、本当に、平民なのだろうか。


 わたしは、選民主義に陥らないように気を付けているし、日常的な場で平民と会話をする機会を多く設けているつもりだけど、それでも、貴族と平民とでは、会話ひとつとっても、その役割が全く違うと痛感する。数少ない例外は、貴族家に出入りする御用商人ぐらいだ。


 生育環境、生活環境が違うのだから、当然ではあるけど、それだけでなく、会話の前提条件が根本的に違うからだと思う。


 貴族の会話には、大前提がある。言質を取られず、弱点を見せず、上手に誘導し、適切に示唆する。これが基本。敵のいない非公式な場で連絡や指示をする場合はさておき、社交の場などで、素の感情を出す者は、まずいない。そのような行動を取れば、会話の結果で直接不利益を被るだけでなく、貴族らしい教育を受けていないと、嘲笑されるのが落ちだ。これは、礼儀作法などとは別次元の技術。


 それなのに、ユキエは、少なくとも、メッセージを“受け取る”ことには、問題なく成功していた。あっけないほどに。


 しかも、口説き甲斐がある、こちらの知的水準を図っていただけ、と、あっさりと言ってのける。


 会話で大事なのは、まず相手の意図を正確に見極め、それに対応すべき情報を整理し、隙を見せずに言葉を紡ぐ、この作業を瞬時に行うことだ。訓練なしにできるはずがない。


 論理展開が明確で説得力があるものの、その都度立ち止まって考えてしまい、また返答に隙の多いトビアスとは、見事に対照的だ。


 ユキエが語る内容もさることながら、その話し方、論理展開には、驚かされるだけではなくて、とても興味を引かれる。


 それに加えて、トビアスの前世――ユキエがいうところの“タックン”の様子について聞こうとしたのだけれど。


「別にいいけど、あまり面白くないと思うよ?」


 うーん。わたしが彼女の立場なら、“今の女”に対して、自分がどれだけ深い絆で結ばれていたのかを語り、それが今でも続いていると主張すると思う。どれだけ上位に立っているかを相手に対して示し、格の違いを見せつけることで序列を明らかにする。まあ、貴族世界で生きる人間の習性ね。良いか悪いかの問題じゃない。好きじゃないけど。


 ところが彼女は、そのようなそぶりはおくびにも見せない。むしろ、過去について、積極的に言及する気がないように思える。過去はあくまでも、自分の知識や経験の引き出し、というぐらいの認識しかないみたい。


 これは、わたしの勘だけど、ユキエの関心は過去ではなく、未来にだけ向いているのだと思う。召喚という形でこの世界に来た以上、過去はあくまでも過去であって、今はあくまでも未来だけを見ていこうとしている、と。


 多分、それだけ“今の”トビアスに寄り添おうとしていて、そのために全てを注ぐ覚悟を固めているんだろうね。


 そして、彼女がトビアスに接近する過程で、わたしは、排除の対象になっていない。それどころか、ある部分では、あなたがその役割を担いなさい、と。


 何を言っているのか、わからなかった。


 彼女は、別に寛容なわけではないと思う。自分に譲れないところに踏み込まれたら、どのように対応するかわからない。


 自分が自分だけで抱え込んでいる“愛”ではなく、自分が愛した者をこそ最優先で考える。だからこそ、顔色を変えずに、こういうことを言えるのだろう。


 どうしてそこまで、トビアスのために、動けるのかと聞いてみたら。


「どうして、と、言われてもね。理由なんか何もないけど」


 実に不思議そうな表情で返してくる。


「強いていえば、愛する人に尽くすっていうのは、そういうこと、としか」


 その言葉を聞いたわたしは、思わず背筋を伸ばした。


 愛する、という言葉をてらいもなく使ったこともさることながら、尽くすということを当然視していて、質問されること自体がわからない、という反応に。


 ああ、この人には、多分かなわない。正面から向かっても、まずかなわない。ライバル宣言されてしまったけど、これじゃ厳しいな。


 婚約者を支える覚悟を決めて、理解しようとして。わたしはまだ、その段階だ。進んだ先に、愛が芽生えてくることを期待はしているけれど、冷静に見れば、別段恋心のようなものを抱いているわけではない。その面でも、勝ち目はなさそうだ。


 でも、それとはまた違った理由で、やるせない気分になる。


 特に、トビアスが抱えている悩みがわかるから。


 それでも。


 わたしは、彼女へ真摯しんしに向き合おう。


 例えそれが、彼女にどのようなものを残すことになろうとも、どのような形になろうとも。

会って間もない主人公にあっさり感化されてしまったフリーデ。なかなかチョロい娘さんですが、主人公の頭脳を理解し、それについていけるだけの知的能力、そして強い好奇心を持つがゆえです。トビアスが調教したわけではありません。

後半部分では、主人公への半ば信奉者と化していますが、実際、主人公みたいな女性はまず居ません。いや、主人公だって、元の世界だったら、こんなことは言わないと思います。異世界だからこそでしょう。便利だな異世界って。

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