表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/103

3-15.救いたい人ができました

情報整理回なので、短めです。

 自分の部屋に戻ると、また、ふっと意識が途切れる。気が付くと、ベッドに腰掛けていた。この“現象”に慣れてきたのが、いささか怖い。


《なーんか、疲れた。すっごく、疲れた。初対面の人にたくさん会って、たくさん話して》


 いや、昨日もトビアスやフリーデに会ったけど、トビアスの場合はたっくんとの再会への喜びばかりが先に立っていて興奮してたから、疲れも何もなかった。いや、疲れていたかもしれないけど、そんなの一瞬で吹っ飛んだから。


 わたしは元々、いわゆる陰キャラに属する。ウェイ系とかパリピとか、そういうのとはまるっきり別世界に居る。誰にでも彼にでも気軽に気楽に接することができるというのは、それも一つの立派な能力だろうけれど、わたしにはとても無理。意思のキャッチボールを前提としたコミュニケーションを取ろうとするなら、相応の準備や覚悟、そして胆力が必要だろう。そうでなければ、起こる結果を予測しようがないしね。


 まあ、言い訳なんですけどね。コミュ力低い自覚はあるさ。


 でも、でっかいことに、これから取りかかるんだ。この程度で、疲れただの何だのと言っていてはいけない。


 そういえば、イザベラと話をした後、気が付くと客間に居たというわけで、その間、レオノーラが外に出てきたことになる。


 イザベラに対するレオノーラの認識では、イザベラに対して不公平な取り扱いを受ける他、ことあるごとに下に見られて、いじめられていたというけど。


《間違いなく、見当外れね。姉川の一方的な思い込みってとこ。姉思いの妹が、巻き込まれないように、姉と距離を置いていたんだろう》


 イザベラは、自分の思考を語る時には、目を輝かせ、顔を紅潮させながら、全身に活力をみなぎらせていたけど、それ以外の時には、常におどおどしたそぶりだった。いや、常時、何かにおびえているかのような。


 あまり思い出したくないけど、あのおびえた表情、そして、時折垣間見せていた、妙に低い自己評価。そして、あの頭脳が埋もれさせられている実態。


 そこから得られる“原因”の候補は、それほど多いとは思えない。元の世界におけるわたしの知識から推測すると、それは恐らく、人間としてまったく唾棄すべき、醜悪なものだろうと判断せざるを得ない。


 そして、そのおびえの中で、自分に課せられた使命であるかのごとく、それほど自虐的に見えるほどに、姉の無事を守ろうとしている。それこそ、自分が、肉体的だけでなく、精神的に傷ついたとしても。


《でも、姉を守ろうとするのは、肉親の自然な情というより、それ以上に、悲壮なものが感じられるのよね》


 あの二人の間に何があったのか。和解のためには、その前提から初めて、もつれた糸を解きほぐす必要がある。


 すでに巻き込まれているのだから、わたしも、なにがしかの対応を求められるに違いないな。


 そもそも、あれだけ長い時間、イザベラと話していたのに、わたしは、レオノーラについて、ほんのわずかしか触れなかった。


 別に、触れようとしなかったというわけじゃない。彼女との会話に夢中になってしまっただけのこと。単純に言や、わたしの怠慢だ。


 そして、二人が顔を合わせた後、手帳に何が書かれているかと、確認してみる。


――ヴァレッツ商会のディーナ殿が来訪。ドレスその他一式、明日夜に納入。上物、取引がない大商会に来てもらって正解。


――代金不要、イザベラから支払い完了とのこと。理由は教えてくれない、顧客情報を明らかにはできないというが、イザベラの考えを知っているそぶりがある。


――ディーナ殿は、商会の王都副支店長を務めるだけあって、情報のつかみが早いが、それでもまだまだ、という。何が基準なのか。


――婚約破棄のうわさは順調に拡散しているけど、悪意は王太子へ向かっている模様。


《うわさのリーク元はあんたかよっ!》


 そして、ヴァレッツ商会はこの家の出入り商人ではあるが、それにとどまるものではなく、もっと規模の大きい商会らしい。そういえば、わたしが上位貴族と言ったときも、彼らと付き合いがあることを前提とした口ぶりだったな。あれは、そういう方々とのお付き合いもありますよ、というメッセージだったけど、逆にいえば、ドゥルケン男爵家程度は、通常相手にしないらしい。


《王太子の愛人、後の婚約者から指名されてドレスを仕立てた、ってところね。ドレスは当然、例のパーティーでお披露目するためのものでしょうから》


 ただ、レオノーラとイザベラとの間で、目下どのような状況なのかは、何も書かれていない。


《だいたい、ドレス代をイザベラが支払ったというのは、どういうことかな。レオノーラは知らなかったようだし》


 なんだか、いろいろと気になる。


 それと共に、レオノーラがどこへ向かおうとしているのか、しっかり押さえておかないといけない。王太子への恋心などでないことは、日記の記述で確定したけれど。


 後、大事な場面で人格が唐突に切り替わる、なんてことになったら、目も当てられないから、そういう面での確認も。


 仕方ないな。手帳にも少し追記しておくか。


――知っていると思うけど、貴女の妹のイザベラ嬢は、貴女を、そしてこの国を守ることを大目標としている。大ざっぱな方法は聞いていると思うけど、それに対する貴女の姿勢、態度が知りたい。


 クーデターだの立憲王政樹立だの、そんなことを文字化するわけにはいかない。書ける内容は実に少ないのだな。やれやれ。


 それにしても、イザベラという少女、話せば話すほど、この社会でどれだけあんな思考に至れるのか、不思議だ。


 得に、わたしの興味を引いたのは、彼女が守るべき対象として、姉と共に挙げた、国という言葉だ。


《彼女の愛国心というのは、まず間違いなく、時代を何百年も先取りした概念よね。二十一世紀日本に居たわたしには、何の疑問もなく理解できたけど》


 愛国心とは本来、クニを愛するというだけのものだ。しかし彼女が抱いているものは、はん時代的、汎社会的なものではなく、近代以降に成立したナショナリズムと言い換えられる感情だろう。


 E.ゲルナーの論では、ナショナリズムは産業社会を要件として成立するもので、その成立過程においてネーションが形成されたのよね。それを敷衍ふえんすれば、彼女は無意識のうちに、国家=ネーションの成立と認知を求めて、ナショナリズムを強く抱くようになったのか。いや、社会と権力の関係以前にそういう意識を持つなんて、普通に考えれば荒唐無稽でしかないけれど。


《あの発想を考えれば、あながちとっぴともいえないか》


 そして、恐らく、彼女は、今後行動するにあたって、自分がどのような力を持っているかを、知っている。


《それにしても……》


 今日の会話だけでも、どんだけの概念が出てきたか。


 国民国家、国家の独立、法治主義、国民意識の醸成、三権分立、二院制議会、象徴操作、農奴解放と移動の自由、立憲制、戸籍制度の整備……。


 主権在民らしきことも匂わせていたし、ひょっとしたら、議会制民主主義的への移行まで、視野に入れているのかもしれない。


 何にせよ、あの頭脳を埋もれさせておくのは、この世界の損失だろう。


《無理やり引きずり込まれた異世界だけど、ここに留まりたいと思う理由、もう一つ、できたな。……“友人”を救いたい、っていうのは、傲慢ごうまんじゃないよね》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ