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3-5.この国の防衛体制をチェックしました

 「注意すべきは、家単位で見た場合、それを構成する人物たちを、一体、一様だと決めつけてはいけないという点ね」


 ある外国に視線を向けた場合、そこの国民が、あたかも一律に同様の行動や感情を向けると考えがちになる。外国に対するマイナス感情が往々にして厄介なことになるのは、国と国民を切り離せないからだ。排外意識が差別意識に直結するのも、結局はこれが原因だよね。


 それは“国”を“貴族家”に替えても、同じだろう。


「「?」」


「家の中枢にいる者が、外国とつながりがあるからといって、その周囲にいる人物は、必ずしも同調しているわけではないわ。ファイゼルト侯爵家のレベッカ嬢と、母であるイルムガルト・リンデンベルガー殿が、その方針において軌を一にしているとは限らないし、対外的にはともかく、内部ではガタガタになっていることもあり得る。場合によっては、レベッカ嬢は味方になっても、イルムガルド殿は敵に回るかもしれない」


「……そうね。デリンジャー伯爵家も、儀礼的な外交を粛々と行っているだけで、こちらも向こうも、ほとんど無関心に近いから。でも、外から見れば、太いパイプがあって事情をよく知っている、状況次第で敵にも味方にもなり得ると思われてもおかしくない。無用な過大評価、といったところかしら」


 外交の一端を担うデリンジャー伯爵家も、そう見られることを意識してはいるらしい。


「まあ、レベッカ嬢に“宿題の答え”を持っていくにしても、親御さんの出方には要注意ね。……そういえば、お二人の家のご当主はどうなの?」


 まず、トビアスが声を上げる。


「うちの親父は、ほぼ俺に任せきりだな。だいたい、俺が描いた制度に基づいて、官僚のトップみたいな立ち所になって、粛々と領地経営に専念しているようなものだ。領地に居る間は現役の領主だけど、貴族家当主としては隠居同然という認識でいい。だから、少なくとも王都の中では、俺が少々暴れても、まず問題はないと思ってくれ」


「事後報告でいい、ってことね。フリーデは?」


「当然でしょうけれど、当主が実務を切り盛りしているから、動くなら、父上に話を通す必要はあるわね。いや、通すというより、手順をきっちりすり合わせてほしい。昨日、ユキエから依頼された件だけど、明日にも父上が当屋敷に来る予定なので、会ってほしいの」


「……ああ、例のパーティーへの参加ね。……お手数をお掛けします」


 伯爵家、それも実質的に辺境伯のような地位ともなれば、出るしかないか。苦笑するしかないね。


「後、他の有力貴族家、特に一定の軍事力を持っている勢力を整理して、対応を検討しておくべきね。公式、非公式に限らず、一般的な警護能力を超えた兵力を持つ家は、それだけで有効な対立軸になるから。逆に、王家の威光に依拠している貴族は、明確に風向きが変わりでもしない限り、離れはしても背きはしないから、敵に回さないという視点では気にしなくていいと思う」


「ああ、それなら心配ない。戦闘能力のある兵を持っている貴族家は、ビルジー侯爵家とデリンジャー伯爵家だけだから」


「……はい?」


 えっと、この国の上級貴族家って、この二つだけじゃないよね? 対外面を考慮する必要がなくても、領内の治安維持のために、一定の武力を持つのは当然でしょ? 


「正確には、常備軍を持っているのが、このニ家ということだ。他の上位貴族でも、軍を編成できる権限を付与されている家はあるが、それは勲章程度の意味合いしかなくて、実際に軍隊を整備しているところは、この二家を除いて皆無ということ。長年にわたって戦争もないから、金食い虫を維持したくないというところなんだろうな」


「金食い虫って……軍事力で周辺諸侯の侵攻抑止とか、そういう発想はないの? それに、封建制の前提として、有事には王権に軍事力を提供する義務があると思うんだけど」


 いや、下手な野心を疑われたくない、というのは、わからなくはないよ。それでも、認められている範囲の軍備は維持するだろうし、小部隊程度の軍事訓練はすると思ってたけど。江戸時代の外様大名だって、それぐらいはやってたよ。相互の大名間をけん制させるためにも、認められていたはずだし。


「そんな金があるなら、家政で消費しようという考えが多いんだ。社交の場で存在感を出そうとすれば、かなりの金がかかるし、軍隊のような野蛮な連中を手元に置きたくない、貴族の武勇は剣術で示せばいい、というのが、一般的な貴族の発想。だから、軍事は王国に任せるという姿勢になる。そんな状態だからこそ、俺たちが軍を整備しても、少なくとも王権上層部には警戒されない、というわけだ」


「……そっか……中央集権を実現してるんだ、この国……結果的に……」


 多分、今のわたしは、遠い目をしているんだと思う。


 自分の歴史観、政治観が、ガラガラと音を立てて崩れていくのを、感じていたから。


「だからこそ、軍事クーデターで政権を奪取すれば、少なくとも短期的には、政権を維持することはそう難しくはないんだ」


「そうなると、国軍を掌握できるかどうかが、鍵になるということか。現在の国軍が、組織としてどのように向いているのかによるけど、対外防衛任務を第一と考えているなら、まるごと抱き込む。そうでない場合は……今からじゃ人材の引き抜きは難しいか」


「その点は、恐らく大丈夫よ。今、国軍は予算だけじゃなくて定員も削減されているけれど、解雇された軍人を、当家とビルジー侯爵家でかなり受け入れているから。彼ら経由で説得するのは、今……そうね、明日の昼頃までに方針を固められるなら、多分できると思う」


 おお、フリーデ嬢ちゃん、マジ有能。こういう場で、タイムリミットから逆算して戦術の可否を考えられる人は、そうそういない。


「軍の他に近衛部隊だかが居るって話だったよね。“現場”での装備と練度が気になるけど」


「直接見たわけじゃないが、練度は最低らしいな。ほとんど全員、儀仗ぎじょう兵的な存在らしくて、パレードでの見目をよくするためのメンバーだから、まあ役に立つことはないだろう。王太子のすぐ周囲と、出入口あたりには護衛が居ると思うが、基本的に防御専門だし、正規の訓練を積んだ軍人が複数人でかかれば、簡単に無力化できるさ。それに」


「それに?」


「パーティーみたいな場には、軍人は基本的に入れないことになっているんだが、その理由が、むさ苦しいから、だと」


「おい」


 この国の要人警護体制、どうなってんのよ。


「まあ、現状で詰められるのは、このあたりまでね」


「このあたりって、思い切り国家反逆の打ち合わせをやってるんだが。まったく、この台風娘が」


「失礼なこというな。いい? 台風っていうのは、熱エネルギーがないと発生しないし、発達しないのよ」


 軽い口調で話したけれど、口に出した直後、まだ、これだけため込んでいるんだな、と自覚。


 ため込んでいる、といえば。


《夜は、ほどほどにしなさいよ。落語の『短命』にはなるなよ》


「おいっ!!」


「?」


 はあ、我ながら、こういう場面で真面目な姿勢を貫けないんだよね。いい特徴なんだか悪い特徴なんだか。

主人公もフリーデも、特に“ふるいつきたくなるほどのいい女”というわけではありません。たっくんは超絶倫でしたが、今のトビアスは果たしてどうなんでしょうか。

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