3-1.ファンタジー世界のようで違うようでという世界でした
みっかめ。になると、主要登場人物が一通り出てきます。
今回は事実上の説明回です、ご容赦ください。
昨晩は、よく眠れなかった。
だって、まさか、この世界で、たっくんと話すことができるなんて。
体は別の人になっていたけれど、あのやり取り、あの反応、間違いなくたっくんだ。
そういえば、随分昔プレイしたゲームに、某有名アニメーターが若手の頃に手掛けたオープニングムービーがあって、その冒頭、問い詰め女……いや、幼なじみの少女が、再会した少年に対して「思いは、遠く離れてても……」と語るシーンがあったな。
あの時は、結果から原因を無理に結びつけて舞い上がってるだけの、運命に恵まれたアタシってイケテルワー的な女ウザい、と思ったものだけど。
ゴメン。今のわたし、まさに、あの少女そのままだわ。
彼と話せた途端に、気力が湧いてきて、頭が回るようになって、体も動くようになって。現金なものだけど。
それだけじゃなくて、欲ももりもり湧いてきた。
《やるべきこと、じゃなくて、やりたいこと、が出てきたな》
この世界に来てこのかた、行動目標は“生き延びる”だった。言い換えると“破滅を避ける”といってもいい。
それは、あくまでも、死なないためのものだった。生存本能の延長にすぎなかった。
でも、たっくんと会った、会えたために。
わたしには、この世界で“生きていく”覚悟が、決意ができた。
そして“どのように生きていくか”について、考えるようになった。
《ふふっ。こうなると、のんびりしている暇はないわね》
ひとまず、昨日、トビアスに確認した、この世界の状況について、整理しておこう。
・魔法は無く、精霊なども認識されていない。
→魔法が無いファンタジー世界というのが斬新に思えるけど、逆にいえば、元の世界の延長ともいえるため、身の振り方もわかりやすい。
・魔物、魔人、魔王といったものは無い。神に対応する存在としての魔という概念はあるが、神学上のもので、世俗ではほとんど無意味。
→世界全体が討伐対象とするような、万民が同意する共通の絶対悪はないということか。すなわち、世俗権力は、世界史上のパターンに落とし込んで考えてよいことになる。
・精密な測定機器なしでもわかる範囲では、科学法則は地球に近い模様。コリオリの力を確認済み、よって自転していると思われる。星の位置は全く異なり、そもそも月が見えない。
→重力加速度とか大気組成とか、調べたいこともたくさんあるけど、今は自然科学方面へ好奇心を向けている場合じゃないね。
・各分野とも、技術水準はラノベファンタジー標準、火薬は一応あるけど安定した生産方法が未確立、紙は普通に使用可能。ただし、なぜか、データの録音、録画、有線通信が実用化されている。インフラとしては未整備。
→後半がちょいと気になる。拠点間通信はできていないようだけど、短距離の連絡が可能なのか。ファンタジー世界の念話みたいな感じかな。
・エネルギーはほぼ森林資源に依存、このため薪炭材を確保できる地域が経済的に有利。石炭は高級品、石油・天然ガス系は恐らく認知されていない。
→化石燃料が普及していないとなれば、鉱物資源はほぼ金属に限られる。製鉄コストも高そうだ。
・塩は岩塩由来が中心、塩水泉からの採取も多いが、海水塩からの製塩はほとんど知られていない。隣国には海があるが、むしろこちらから塩を輸出しているのが現状。
→塩が重要な輸出資源になっているのか。使いようによって、鉱物資源や食料以上に安全保障上の強いカードになりそう。
・主要都市間は道路で結ばれているが、軌道幅のルールがない上、道路に駅亭などはなく、このため安全な移動や輸送は厳しい。道路の整備は各領主に任されているため、異なる領地間は概して荒れている。
→分権的政治体制のため、中央政権にそこまでの経済力がない、アンド、地方領主が自主権維持のため拒否、といったところね。経済と軍事の両面でデメリットが大きいんだけど。
・国家統治体制は、制度上では王を頂点としたピラミッドを形成。王>宰相=侍従長>上級大臣=国軍総大将>下級大臣=国軍副将=近衛部隊総隊長>幹部官僚=国軍上将=近衛部隊隊長>官僚=上級軍人=近衛兵>吏員=下級軍人、となる。
→王以外の体制は属人的かと思いきや、意外ときちんとした制度になっている。
・王が執務不能である場合は、外交および軍事に関する重要事項は王太子と宰相が共同で、王位継承および王家重要儀式に関する事項は王太子と侍従長が共同で、それ以外の事項は王太子が行う。
→王太子の力がけっこう大きかった。だからこそ、現王太子は王位簒奪や弑逆に走らず、身軽に動きやすい王太子のままでいるのか。
・官僚は貴族子弟が着任するのが一般的で、平民が着任することはめったにない。大臣や幹部官僚は上位貴族およびその子弟、または一部業績優秀な下位貴族が着任。採用試験などはなし。ただし、宮廷作法やダンスの技術などで評価される貴族に、実務に必要な能力も知識もあるはずがないため、有能な者を“秘書官”として業務を代行させ、上位貴族は事実上業務を私物化。このため、税務官僚が大人気。王都に常駐する貴族が多いが、これは王都から出ると社交の場に参加できないため。
→封建制末期の官僚制そのまんまやんけ。新体制を樹立するなら、有能無能以前に、既存の官僚機構は解体して個別に再採用するしかないかな。
・王を最高指揮官とする武官は、王国全体を対象とする国軍と、王宮警護を務める近衛部隊に分かれる。
→国軍がリストラされてるって話だったよね。
・戦争の際には各貴族が動員する騎士が前線を担当することになっている。常備軍などはなく、農民などに武器を貸与して兵に充てるのが一般的。王の命令で参戦できるのは最長一か月。
→国単位で見た場合の軍事統合力は弱い、周辺諸国との関係には領主貴族との調整が欠かせないということ。一定の軍事力を持つ領主貴族を味方に引き入れられたのは、まず正解だった。
・戦争で捕縛された貴族や騎士は捕虜となり、身代金を支払うことで帰還できるのが一般的。
→逆手に取れば、幹部であれば、捕虜に取っておくだけで一定の効果が期待できる。自分側の軍事力を維持しておく必要はあるけど、身代金ではなく外交交渉の材料として有効に使えそう。そもそも、捕虜となるような行動を取った幹部が悪い。
・地方統治体制は、一部の拠点は国王直参の代官が派遣されるが、基本的には領主貴族が支配し、徴税権や司法権を含めた統治を委任される。国境付近の一部の有力貴族には、独自の軍隊を保有することが認められる。
→トビアスのビルジー侯爵家は軍隊保有が認められているというけど、同様の有力貴族は、彼の所を含めて三家だけ。逆にいえば、軍を動員できる貴族はごく限られる。
・貴族の階層は、公爵家、上位貴族である侯爵家、伯爵家、下位貴族である子爵家、男爵家、準男爵に分けられる。準男爵の家は貴族家とは見なされず、当主のみが貴族扱い。
→これもファンタジー世界標準だね。リアルのヨーロッパでは、そんな階層構造はなかった。
・公爵家は、当主に王位継承権が認められる。全員が法服貴族として王宮詰め。ただし、公爵家は二代までで、それ以降は自動的に臣籍降下となる。
→要は、王族に公爵位が付与されているだけか。直系に対する傍系とかか。
・上位貴族は、都市に準じる規模の街を拠点とした領地を保有し、王都にも別途屋敷を構える。幹部官僚またはそれに準じる地位に就く者が多い。
→トビアスのビルジー侯爵家、フリーデのデリンジャー伯爵家は、共に中央での役職は持たず、その意向もないらしい。国境に居る貴族がその態度で目を付けられてないというのも、何だかおかしいけどな。
・下位貴族は、比較的規模の小さい街を拠点とした領地を保有する者と、王宮詰めで官僚または軍人として勤務する者に分かれる。準男爵は一代限り。
→前者は小規模外様大名、後者は御家人のようなイメージらしい。
・貴族家継承についてのルールは厳密ではなく、女性が当主になることもあり、女系相続も可能。
→女性当主が可能となれば、ドゥルケン男爵家現当主が死亡した場合、レオノーラかイザベラが継承できるわけか。どちらが継承するか明確に決めているわけではなさそうだけど。
・国法は存在するものの、実際には王位継承や王族の取扱い程度しか明文化されておらず、慣習法による運営が中心。それも、王家関連以外は、王特権ですぐに覆る。貴族領では独自の司法権が認められているが、国法がある場合は、国法が一応優越することになっている。ただし、外交と対外軍事以外は、事実上領主貴族に任されている。
→おおむね予想通りか。司法が完全に官僚組織に入っているらしい。
・宗教の社会的縛りは割と緩い。教会や聖職者はいるもののあまり組織化されておらず、世俗権力との関係は弱い。無害だが力もなく、ぶっちゃけ無視しても構わない。ただし、各種儀式を執り行ったり見届けたりするため、証人のような役割は持つ。
→これはカトリックとだいぶ違うようだ。
・社会的禁忌もそれほど強くはない。強いていえば、呪術を行使する者は畏怖の対象で、遠ざけられる。
→これがわかれば、だいぶ気楽に動ける。何かやるたびに、悪魔憑きだの、魔女狩りの対象だのとされてはたまらん。
・人身売買は問答無用で厳罰に処せられ、奴隷も犯罪者を除いて一切許されていない。一方で、経済的困窮者に向けたセーフティーネットはなきに等しい。
→リアル中世ヨーロッパに近いと思っていいみたい。
・租税は、職能別ギルドまたは地域代表者が集めて納税する。ギルドには、商業ギルト、職人ギルドなどがあり、それぞれに加盟する者が納入する金額を基に納税額を算出。地域代表者とは、要は農村部の名主など。このため、末端の民には、そもそも納税意識があまりない。
→これもだいたい似たような感じだね。
・冒険者だの勇者だのという職業は存在しないし、一般向けの武器屋なんてないし、神官が聖水で怪我を治すこともない。
→つまらん。Sランク冒険者とか、聖剣とか、そういうのを見たかったのに。あ、勇者は最近ロクなのがいないらしいから、ノーサンキュー。妙な術を使われてこまされたりしてはたまらん。
ふむ、この世界については、だいたいわかった。
《魔法がないという点を除けば、だいたいイメージ通りか。でも、茶店が出ていたから、市民が嗜好品に支出できる程度の経済力はある。識字率がどれぐらいかにもよるけど、王都という狭いエリアなら、三日もあれば“仕込み”をすることも、できなくもない、か》
いずれにせよ、ここまで整理できたのなら、この世界で生きていくための最低限の情報は得られたとみていい。
この先で必要になるのは、味方を守り、第三者を踊らせ、敵を爆ぜさせるための情報だね。




