表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/103

2-8.漏れたら極刑確実なお話を始めました

やる気モードに移行した主人公、少々人格が変わります。

「「提案?」」


「うん。最低目標は、レオノーラ・エグナー、イザベラ・エグナー両名の生存と、ビルジー侯爵家、デリンジャー伯爵家の地位保全。そして、この国が混乱することを前提として、トビアスが目指し、望む方向を加味する。可能ならば、王太子やその一派を排除して幹部連を刷新、王太子の現婚約者およびその実家の安全確保、短期では収束しないような内乱の回避。場合によっては、体制自体の刷新。で、それらの優先順位は要検討ということで」


 目指す方向がバラバラでは、協力も何もあったものじゃないから、まずは最低限の目標を設定して、それを実現するための方策を探っていく。プロジェクトを始めようとする際、必須の作業だ。


「短期的な策としては、婚約破棄宣言が六日後に迫っている以上、王宮上層部や有力者を懐柔したり工作したりする時間的余裕はないし、良くてもキーパーソンを引き入れるのが精一杯だから、リソースをそちらへ割り振るのは無理だし無意味。それなら、あえて婚約破棄を宣言させた上で、王太子を逆弾劾させて権威を失墜させ、同時に武力で会場を占拠の上で上層部を捕縛、王太子に非協力的で疎外されていた王族あたりを擁立して新政権樹立、あたりかな」


「ちょ、ちょっと待て」


「待たない。で、なぜといえば、王太子サイドについた場合、レオノーラおよびイザベラ両名の身の安全が短期的には保全されても、その基盤が王太子個人への依拠という脆弱ぜいじゃくなものである以上、危機は直ちに訪れると見るべき。例え高官連中や各部門のトップを押さえたとしても、反王太子派が糾合する可能性は十分あるし、そもそも外国の介入も考えられる。特に、王太子の行動からは、貴族間の派閥を考慮している気配がないから、有力貴族が動く可能性は十分あるわ。……どことはいわないけど、“銀の腕”を振るう準備をしているところが」


 あえて、間を置く。多分、今のわたし、かなり冷たい目をしているんだろうな。


「予見可能性と結果回避可能性の検討は、事業におけるリスク判断で必須。法科の学生なら、わかってるはずよ」


「えーっと……」


 あの学校の法学部で勉強していたはずなのに、反応が鈍い。この程度のテクニカルタームは、専門外学生の日常会話の中でも、俗語表現として使っていたのだけど。


 もう、過去の知識になってしまってるんだな。


 また、胸にチクリと痛みが走る。


「話を戻すわ。有力貴族であっても、領地から軍を率いて王都に向かえば、逆賊として討伐対象になり、正当性も何もなく誅殺ちゅうさつされるでしょう。いや、そうされなくても、大義名分が弱いから、現体制を全否定しない限り、その後の支配がどうしても不安定になる。でも、もし王都内で完結する軍事クーデターなら……えっと、既存王権外勢力だから、厳密にはクーデターじゃないか、それはさておき、少数精鋭で要人と要地を確保すれば、実権掌握は十分に可能。この時代なら、暗殺には警戒しても、こういう軍事行動を想定した訓練はしていないと思う。おとり要員が爆発事件やら何やら起こせば、突入もさほど難しくはないでしょう。特に、近衛部隊だっけ、彼らは高位のボンボンで使い物にならないらしいし、実戦以前に、机上訓練も怪しいみたいだしね」


 例の茶店で聞いた話なので、信頼性はそこそこ程度だけど、有事の適切な対応ができないと見ていいと思う。


「二十世紀地球世界なら、情報機関制圧を最優先にすべきでしょうけど、この世界なら、それは二の次よね。王権の強さがどの程度かはわからないけれど、貴族家の権威の強さから集権度を推測すれば、シンプルな権力構造になっているはずだし、即時展開できる暴力装置はそう恐れる必要はない。それなら、多くても十数名程度を弾劾の上で場を制圧すればいい。武力を利用できるなら、これが確実でしょう。会場も王宮外の舞踏場らしいから、事前に調査すれば警備を突破することもできそうだし」


「あ、あの。それは、この屋敷に、一定の武力があるという前提のようだけど、どうしてなのかしら」


 ふむ、フリーデには、ピンとこなかったか。


「ビルジー侯爵家の武力、と指定したわけじゃないんだけどね。まあ、この屋敷内に、一定の私兵がいるというのは、すぐにわかるわ。勝手口から入らせてもらったけど、入ってすぐ脇に積んであった大量の砥石といしと油、あれ、武具のメンテナンス用でしょう。その奥に、球技場のようなスペースがあって、芝がすり切れている。かなりの訓練を積んでいるみたいね。玄関に入ると、ご丁寧なことに出勤簿が置かれていて、わざわざ「内」と「外」と分けてあって。あれじゃ、どんな間抜けでもわかるわよ」


「え……」


「他の貴族家屋敷も、道路から見える範囲で観察したけど、最大で三十名程度なら私兵を抱えているみたいね。純粋に、王都屋敷の防衛目的でしょうけど。でも、この屋敷に居る私兵は、そんな人数ではなさそう。いくら屋敷が大きくても、過剰戦力よ。その規模を維持している理由は、一つだけだと思うけど、違うかな。トビアス殿」


 これは、一種の賭けだ。


「もし、回答しないなら、わたしをこの場で“処分”してほしい。わたしだけでなく、レオノーラ嬢にも、この方策しかないと確信しているから。ここでは“情”を断ち切ってほしい」


 トビアスに、たっくんの記憶があるなら、わたしに対する“情”が絶対に沸く。しかし、わざわざ念を押しておく。たっくんに対する“ゆっきー”の甘えを排除するためだ。


 もちろん、わたしだって、こんな得体の知れない世界で、一生を終えたくない。泥水をすすってでも生き延びてやるつもりよ。


 でも。


 自分が納得いく形で、自分が守りたいものを守るために、自分が自分であると胸を張っていられるのであれば。


 運命を受け入れる覚悟は、ある。


 王国がダッチロール状態になってしまい、破綻国家化した後では、権力を奪取しても、継続的な統治は難しい。トビアスという人物が生き延びるには、今を制するしかないという確信が、わたしにはあった。


 そしてまた、それについて、くだくだしく説明する必要はない、という確信も。


 だから、わたしは、自分を、そして、トビアスを、追い詰める。


 前世の知識を備えて転生して、しかもそれなりの責任を持つべき立場に就いてしまったら、地方でのんびりスローライフとはいかない。生活水準的にも、自己防衛的にも、何らかのアクションを取るだろう。


 しかし、たっくんの場合、あまり目立とうと動くようには思えない。むしろ、領地経営を長期的視点で地味に改良し、その足腰を鍛えるスタンスでいくと思う。


 そして、侯爵家なら、自前の軍を持てるだろうし、それを充実させていく可能性が高い。もともと、ミリタリー系に興味を持っていたから、武器の改良や戦術面で、かなり力をつぎ込んだのでは、と考える。


「……まいった、お見通しか。そうさ、俺は、近い将来の有事を想定して、ここを拠点化していた」


「そ、そうなの!?」


 フリーデは驚愕きょうがくの表情を見せるが、まあ、普通ならそうだろうね。婚約者といっても、屋敷の中を自由に出歩けるわけじゃないし、普通は正面玄関から出入りするだろう。そちらには、目につくものなど、絶対に置くはずがないから。


「懸念もあるけどね。制圧後の、他貴族の動き、そして周辺各国の動き。これについては、多分トビアスの方がずっと詳しいと思う。……まず、ビルジー侯爵家とデリンジャー伯爵家、どちらも有力貴族家よね。その両家の婚姻となれば、目を付けられることは避けられないでしょう。いろいろ揉めることもあったと思うけど、陰に日向に、敵意を出してきたのはどこ?」


「いや、特にないな」


「なかったわね」


 は?


 レオノーラの知識を使って、両家とも国境近くに領地を保有しており、しかもその領地が隣接していることは把握している。


「いやいやいや、どちらの領地も国境に接していて、しかも隣り合った有力貴族どうしでしょ? 少なくとも王家からは、相当に警戒されるはずよ。王権幹部だって一枚岩じゃないだろうし、政争の中で、味方も敵も出てくるでしょうに」


「それがさ、王宮に無関心というか、名誉や出世に興味のない貴族家って、警戒されないだけじゃなくて関心も持たれなくて。婚約についても、書類を送って、押印された控えが送られてきて、それで終わりだよ」


 え。


「何よそれ。細川家と島津家の間で婚姻を認めるようなものじゃない」


「だからこそ、連中は、俺らの動向は、調べようともしていないはず。むしろ、そういう面倒な情報は、適当な段階で捨てられて、上層部には届けないような不文律ができているらしいよ」


「……上層部に都合の悪い情報を中間が止めるのはよくあるけど、面倒な情報だからという理由で上げないって……機能不全に陥ってるじゃない……」


 情報収集を怠って、身内だけで楽しくやろうってのか。


「ちょっと待って。情報を上げないっていうのは、独裁制に典型的な政治状況でしょ。トップへの権力集中が強くてイエスマンで固めて、派閥抗争は表面化していないっていうことなの?」


「いや、お友達政権による恐怖政治、かな。もともと反対勢力もあったんだけど、いろいろな口実で潰されて。普通は、そういう無茶なことをやるなら、それなりの背景と基盤があってしかるべきなんだけれど、反対勢力自体が一枚岩じゃなかったようで、自滅した面もあったらしい」


「ふお?」


「まあ、消去法的に、今の王太子派が残ったということか。改めて考えてみれば、すごい状況だな」


 もう無理やな、この国。


「それで、反応がなかったと聞いて、どう思った?」


 わたしは、あえてフリーデに聞いてみると、少し考えて。


「婚約が成立したという安心感もあったけど、それ以上に、何の確認も条件提示もなかったから、わなかしらと思ったわね。結局、そういったことはなかったけど、それは、もう領地貴族を制御する力がないのか、単にそういう意志がないのか、と。前者だと深刻だけど、後者だと対処のしようがないし、そうなっても巻き込まれないための準備はいるよねって」


 ちらりとトビアスを見る。いろいろ相談していたわけね。


 ふうん、単なるお嬢様じゃなくて、なかなか見るところを見てるじゃない。


「そうすると、他の有力領地貴族も、同様に動いていると見ておくべき、か。他のステークホルダーについても確認したいけど……考えてみれば、肝心なことを忘れてた」


 わたしはぐいと、身を乗り出して、懐に入れてあった紙とペンを取り出す。


「二十一世紀日本との相違、特にテクノロジーと社会的禁忌について、通俗的中世風ファンタジー世界を意識しながら教えれ。マクロ的な政治社会体制、権力構造、軍事制度、対外関係も、組織面と実務面の双方から、可能なら人事慣習も。それから、フリーデ。知っている範囲でいいので、社交界での人的ネットワークで核となる人物とその人的影響範囲、各派閥の背後にある支持者や後援者について、整理をお願い。まずは、そこをつかんでおかないと、詰められない」

蛇足かもしれませんが、主人公が用いた政治用語には、一部微妙な表現があります。これは、主人公が、この世界に来ても、二十一世紀の日本人としての知識に引きずられているためです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ