表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/103

2-7.胸が痛んで嫉妬の念を抱きました

本編はやや短めです。純粋な感情描写が中心で、観察に基づく判断や、新しい情報の発見はほとんどありません。

「見苦しいことをしてしまい、大変失礼致しました……」


 最敬礼の状態で、縮こまって体を固める。もう、こうするしかない。


 だって、意識はどうあれ、体は、男爵家の娘。それが、侯爵家の跡取り息子に、それも婚約者の目の前で、抱きついて、頭を体に擦り付けるような姿勢で、ワンワン大声で泣きわめいたのだから。


 どれぐらいの時間そうしていたのか、わたしにはわからないけれど、何秒かという単位ではなかったと思う。


 わたしから見れば、我を忘れて理性を飛ばしてしまうのは仕方ない、いや、当然だと思う。でも、あの場面を第三者が見れば、どう思うか。考えるまでもない。


 なお、トビアス様は、わたしがすすり泣きしている間に、隣のフリーデ様へ簡単に説明していたらしい。フリーデ様は穏やかに笑みを浮かべているけど、貴族サマの笑顔って、どう解釈したらいいのかわからない。気配を感じるとかそういうのではなく、内心が読めないこと自体が、怖い。


「いや、わたしの……いや、俺の方こそ、驚いたさ。そうか、ゆっきーが……懐かしいな」


 懐かしい、か。


 わたしの胸が、ズキリと痛む。


 わたしの方では、たっくんの初七日がやっと明けたところ。彼が亡くなったことを受け止めることも、理解することもできていない。ただただ、葬儀を始めとしたいろいろな儀式、学校や役所などに対して行うさまざまな手続、そういったことを、頭を空っぽにした状態で進めていただけで、そもそも感情がどうのという状態じゃなかった。


 懐かしいという感覚は、時間の経過によって、過去の記憶と現在の認識が段々別のものに分かれていき、その両者がリンクさせて生まれるものだ。


 つまり、たっくん、いや、トビアスにとってわたしは、あくまでも、過去の存在ということになる。


 わたしと彼の間に、大きな、そして深い、認識のずれが起きている。


 そしてこれは、時間がたとうとも、埋まることはない。


 こんなことは、わたしとたっくんが付き合ってかれこれ二十年、一度もなかったのに。


 涙がこぼれていく。これは、例え擬似的にであれ再会できた喜びとは異なる、悔しさ、歯がゆさによるものだ。


「……はい、わたくしも、嬉しく思います」


「ああ、そのだな、他に人がいない時は、敬語とか、敬称とかは抜きで話してほしい。ゆっきー相手に、よそ行きの言葉は使いたくないから。どうかな、フリーデ、君も、彼女とそう対応してくるかな?」


「ええ、わかったわ」


 思わず、歯がみしそうになるのを、頑張って止める。


 たっくんの記憶があるトビアスと、フリーデは、これまでどのような付き合い方をしていたのかは知らないけれど、少なくとも、この世界で生まれ育っており、同じ世界に居て、それを疑いもなく受け入れている。当然だ。


 でも、わたしは、その共通認識がない。従って、その関係の中に、割り込むことも、加わることもできない。それは、今後、トビアスとの関係がどうなろうと、変わることはない。


 もどかしさが募る。


 嫉妬といっていいのだろう。恋愛感情によるものではなく、生きし環境の歴史を共にできないことに起因する、嫉妬。わたし以外の者が、彼と共有していない時間を過ごしていたばかりか、時間の認識を同じくする“特権”を保有していることに対する、嫉妬。


 だからこそ。


 奇跡が発動して、会いたいという切なる望みがかなっても、さらに別の思いが頭をもたげるのは、自然なことだろう。


 もっと、ずっと、これからも、たっくんと一緒に居たい、と。


 いや、この世界では“たっくん”と一緒に居ることは不可能なのだから、転生したトビアスと、となるけど。


 だから。


「うん、わたしもわかった。だから……提案なんだけど。これから、わたしが生き残るための戦術に、たっくん、いや、トビアスたちを巻き込んで、いいかな?」


 こぼれそうになる涙を必死に飲み込みながら、わたしは、そう切り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ