2-2.情報探しに行き詰まりました
王都の中央ほど近いところに、明らかにそれとわかる教会が建っている。
四つの尖塔を備えて、フライング・バットレスまで見られる。もろにゴシック様式だ。こんなのを見てしまうと、この世界と、わたしがいた元の世界と比較したくなって仕方ないが、首を突っ込んではいけない。好奇心は猫をも殺すというなら、猫より強い力でぶちのめせ、というのがわたしの持論だけど、優先順位を見誤ってはいけない。
この教会から推察するに、信仰されている宗教は、カトリックのようなものと思っていいのだろう。そして、この王国では、単一宗派がほぼ当然のように支配的宗教となっていると考えておく方が安全だ。宗教改革後のヨーロッパのような、あまりにも殺伐とした時代ではない、と考えたい。
さて、宗教施設というものは、ルールとマナーを守っていれば心配いらない、なんていうのは、現代日本人ならではの甘っちょろい発想だと思う。海外の各所で生活した経験でもあれば違うのだろうけど、わたしは海外旅行に二回行っただけだし、そもそも日本以外のの宗教施設なんて、海外旅行で訪れたイスタンブールのモスクが唯一だ。観光客が多い場所で、特に日本人にはフレンドリーなお国柄だから、あまり参考にならん。それでも、訪問にあたってスカーフを用意しておくべし、というぐらいは、事前に調べたしね。でも、この世界には、グーグル先生などいないから、下調べは難しい。そもそも、情報回線も情報端末も存在しない。当然だ。
そうなると、臆病なぐらいに慎重になった方がいいだろう。
明らかに、異国から来た旅人、というなら、まだいい。異教徒に対して風当たりが強いとしても、旅の若い女性一人だけを、白昼堂々取り囲むことは、さすがにないだろう。
しかし、今のわたしの姿は、この王国の住人だ。住人なんて概念はなさそうだけど、民というのは違う気がする。だけど、挙措なんか、貴族らしさなんかかけらもないだろう。結局、これぐらいの言葉しか出てこない。いかん、元の世界の概念を持ちだして理屈をこねくり回すのは、やはり煮詰まっているからだろう。
《教会の中には、何らかの資料がある可能性が高い。聖職者は当然知識人だから、王権との関係をうかがい知ることができる可能性もある……でも、突貫するにはリスクが高いか》
知識人が集まる場所といえば大学だろうけど、この時代だと、神学と哲学に偏っているような気がするし、そんなの何の役にも立たん。元の世界の中世を思い出すと、中華世界やイスラーム先進地域ならまだしも、ヨーロッパ諸国では実学なんて貴職が触れるものではなかった。例外は法律ぐらいだろうけど、そもそも成文法がある保証がないし、あっても公開されていない可能性も高い。
ここまで考えたところで、王宮内に図書館や資料館があるのでは、と気が付く。男爵家の娘という立場で入れるかなあ、と思い、レオノーラの知識を探ると、図書館の入館料は、半日で千ガルンだそうだ。
日本円に直すと、四千円かよ。高いな、おい。わたしがよく使う大○壮一文庫は、一回税込百円だぞ。
まあ、情報料と考えれば気にせず払うべきなのかもしれないけど、何せ、屋敷から持ち出した小遣い銭ぐらいしかない。そもそも、貴族家で現金払いをするのだろうか、という疑問もある。請求書が屋敷に回って面倒臭いことになるのは、嫌だ。
いずれにせよ、今のわたしには大金だ。まずは、どのように利用すればいいのか、ある程度知っておかないと、ムダ金をドブに捨てることになる。
そういうわけで、再びレオノーラの知識にアクセスするが、何も反応がない。わざわざプロテクトを掛ける意味などない。入館料の知識はあるから、それなりに訪れてはいるはず。つまり、道順にせよ手続にせよ、頻繁にしていた結果、流れを体が覚えてしまって、知識としては失われたということかね。
《知識を入手するのが、こんなに面倒臭いとは。ホント、イスラーム世界もどき、いや、せめて中華世界もどきが舞台だったら、ずっと楽だったろうになあ》
うん、何の解決にもならない愚痴が、また出てしまった。これを重ねると、現状への不満が固定化するから、気を付けよう。自戒。
《やっぱり、王族とある程度距離を置いている上級貴族を巻き込めれば、と思うんだけど、まさか、屋敷にノーアポで突撃するわけにもいかんし。突撃!貴族の昼ご飯、とか。うん、無理やね。いっそのこと、貴族の紋章がある馬車に飛び込んで、慰謝料代わりに協力を要請する当たり屋作戦……いや、暗殺と思われて串刺しエンドになるか》
ロクでもない発想しか頭に浮かばない。だめだ、完全に壁にぶち当たった。
うん、視点を変えよう。
情報を得ようとガツガツしているから、いけないのかも。ここはゆったりと、空でも見ながら、頭をスッキリさせた方がいいかもしれない。動けないなら、しばらくは待ちぼうけしておくのもいいかも。待ちぼうけ~、待ちぼうけ~。
そう思って、教会前の広場にペタンと腰を下ろすと。
「ねえねえ、そこのかわいいキミ、よかったら一緒にお茶しない?」
株を守ってたら、そこに兎が飛んで出た。




