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5-20.【Side:他国悪徳貴族側近】レッツ売国

「デスノス伯、貴殿の仕事、しかと確認した。感謝する」


「モナンジュ侯、痛み入ります。我らもこれで生き延びることができます」


「これで、双方の利害が一致いたしましたな。わらわも一安心じゃ」


 偉いお人が三人、顔を突き合わせて、くっくっくっ、と笑い合う。


 友好関係を維持して、皆の発展を期するための国境間貴族会談、ね。言い得て妙だとは思うけどよ、悪党同士が手を結んだだけだよな。いや、悪党同志というのが正しいかもしんねえな。少なくとも、モナンジュ侯ってえ肩書を持ってるフェルナン様は、間違いなく悪党だ。


 まあ、侯爵なんていう、ミリューデュ王国の重鎮が、こんなところで悪党として活動してるなんざ、神様だってご存じねえだろ。修行のために、地方領主をやっているのだ、って話してっけど、どうかね。こんなんでも王様の一族で、王位につくこともできるってんだから、王の地位ってのは、下々が思ってるより軽いみてえだ。


 いや、ユリディーヌ王国だって、大差ねえな。ユリディーヌ王国の王弟に嫁いだミリューデュ王国の姫さんが、こんなことやってんだから。


 それでも、手癖が悪いからってんで傭兵団から追放された、俺なんぞを側近に置いてくれたことにゃ、旦那に感謝してる。


――字の読み書きができて、武器が最低限使えるなら、それで構わぬ。罪ある者という自覚があるなら、罪という技術を存分に発揮せよ。


 軍の下っ端兵士なら、命令に従って、支給品の武器をぶん回してれば済むけど、傭兵となりゃ、そうはいかねえ。武器の手入れから何から、自分できっちりやらねえと、すぐに死んじまう。字の読み書きができなきゃ、情報収集もへったくれもありゃしねえからな。


 だからって、影から旨い汁を吸ったりすんのは、もうやめた。それより、拾ってくれた恩ってえもんがある。それなりのことはしねえとな。


 それにしても、よ。ユリディーヌ王都にある公園の片隅で、ヤバい会談をするってえのは、度胸があるっつうか、何つうか。こんなところにゃ誰もわざわざ来ねえし、要所に見張りを置いてるし、取り囲むように目立たないわなを張ってるしってえんだから、用意周到だ。三人以外でここに居るのは、俺と、他に護衛が二人だけだ。


 姫さんが王都を抜け出して辺境まで行くと警戒されるから動けねえってな、わかる。でもよ、隣国の有力貴族を、何のチェックもせんで王都まで自由に来させるって、この国、どうかしてるぜ。デスノス伯っていう有力貴族に随伴してるってもよ、連れてる中に刺客でもいるんじゃねえかって、警戒するのが普通だろうがよ。


 まあ、このユリディーヌ王国ってな、対外的には、もう崩れてんだな。偉い立場になったことなんかねえけど、戦闘以外の場でもいろいろ動いたことのある俺には、そんな風に見当はつく。


「それにしても、我がユルデン王国は、地方の開発などに全く目を向けませんからな。貴殿の私兵を労働力名目でお貸しいただける、定期的に鉱物を買っていただける、しかも王都から何か言われた時には安全を確保していただける。本当に助かりますぞ」


「当方にしても、我がミリューデュ王国での活動に必要な資金を調達するためには、貴殿の協力が必要だ。こちらから売った連中は、どうにでも使ってよいからな。今後ともよろしく頼みたい」


「両国の国王がしゃしゃり出てくれば、妾たちの立場はなくなりますゆえ。国なんていうくだらぬものにこだわっておっては、明日はないからの」


 国、ねえ。俺みてえなはみ出しモンにとってはどうでもいいけど、そんなに気安くポイしていいもんなのかねえ。そうしないと食ってけねえってわけじゃねえだろうし、成り上がれるわけでもねえと思う。まあ、偉いお人の考えは、いろいろあんだろうな。


「クスリはそろそろ大丈夫です。ユルデンの国王はもう完全にボケていますし、宰相や主要大臣も似たようなものですから。愚かな子息どもを通じて飲ませるだけの簡単な策ですが、すんなりいきましたぞ」


「それなら、ミリューデュでもやってみるとするかの。王だけを生かしておき、他の有力者を骨抜きにできるか」


「命を奪ったり運動機能を落としたりせずに、事理の判別だけ徐々に落としていくとは、何とも面妖なクスリよの。とても販売できるものではないし、金になるものではないが、こういう使い方ができればもうけものじゃ」


 まったく、えげつないことばっかやってやんな。それでも、実の親に怖いクスリを飲ませるったあ、どういう神経してんだか。親が使い物にならなくなりゃ、自分がその席につけるって考えなんかね。俺は孤児上がりで親なんか全く知らねえけど、親ってそういうもんなんかねえ。何か違うと思うし、やっぱりそいつら狂ってんじゃねえの。


「ともあれ、どちらの国も、壊してはなりませんぞ」


「うむ、腐るだけにとどめておかねばな」


「腐りかけが一番美味というしの」


「「「わっはっはっは」」」


「……ふうん、なかなか面白いことやってんだねえ」


 聞き慣れない声が響くと、脇にあった庭石がごろんと転がる。


 その下から、よく言えば色気のある、悪く言えばだらしのない格好をした女が出てきた。寝間着のような薄い服の上に、タオルのようなデロンとした布を羽織っただけ。


 この女、どうしてここに居たのか、何が目的なのか、そういうことを考える前に、とんでもねえことを言い出しやがった。


「さぞかし、いいもうけ話なんでしょうねえ。ディルッセン伯、モネリッヒ侯、そして……イングルード殿」


「「「!」」」


 三人が固まるが、今はそちらを気にするわけにゃいかねえ。


 名前をすらすら出したってえこた、このお三方をすでに知ってるってことになる。で、堂々と姿を出してるから、情報収集が目的じゃねえし、暗殺も考えにくい。


 両腕をだらりと下げているから、即座に攻撃をしてくるわけじゃねえだろうが、こいつは油断できねえ。ぱっと見には、ただの娼婦にしか見えねえが、修羅場をくぐってきた相手特有の“匂い”を感じる。


 視線を動かすことができず、俺の後ろに回って、と、お三方に話しかけるが、動く気配がない。


 そっか、素人なら、気おされて、身動き取れねえか。


「あんたたちの悪行、みんな聞いちゃったよ……百歩譲って、人身売買なら、人手を確保するためって言い訳もできるけどね。クスリはだめだろ。人を生きながらにして殺すしか、役に立たない。クスリって、気が付いた時には手遅れにして、相手を絶望させる、最悪の道具さ。顔色も変えずに平気にそんなことができるって、まっとうな悪党のやることじゃないね。外道、鬼畜、そんなんでも生ぬるいかねえ」


 こっちが動けないとはいっても、これ以上べらべら語られては、向こうに主導権を握られっぱなしになる。そいつはまずい。ここは一つ、こっちから話しかけよう。


 そう思ったとき、あろうことか、護衛の一人が、女に突撃かましやがった。


「死ねーっ!」


 こういう手合いって、どうして声を上げないと攻撃できねえんかね。気を奮い立たせにゃもたんような場面じゃねえってのに。


 こいつの得物は、取り回しがしやすいからってんで、柄を少し短めにしたバトルアックス。そいつを振りかぶり、女をけさ懸けにしようと斜めに打ち下ろす。バカ野郎、相手から情報を聞き出す前にぶっ殺す阿呆あほうが居るか、なんていう間もなく。


「……へ?」


 次の瞬間、わずかばかり体を動かした女が、刃の部分を左脇に挟み込んで、アックス本体をみっちりと固定していた。


「あー……思い出した。あんた、二週間ぐらい前に、相手したわ。細くて、短くて、早かったんで覚えてるよ。まあそれでも、何回も突き出せるんなら見どころあるけど、一発だけで身動き取れなくなるってのは、ちっと情けないよね。まあ、粗末なモノしか持ってないヤツは……」


 ぶっ!


 思わず吹き出しちまった。いや、全員、顔を真っ赤にして、体を震わせてる。言われた当人は恥をかかされたと思って、残りの人間は笑いをこらえて。


「……もっと鍛えてから、出直しなさい、なっ!」


 小脇に抱えていたアックスを、そのままの姿勢で押し込み、この早ろ……バカ護衛を突き倒した。ちなみに突いた場所は、ちょうど股間。さらに細くて短くなったかもしれんな。


 当然のように、バカ護衛は悶絶もんぜつしてうずくまるが、これを見た三人は、ひっ、と引きつったような声を出して、背中を向ける。逃げ出す構えだが、そいつあ悪手。


「動くな! 糸かもしれん……っ!」


 この女、アックスを左脇で抱え込んだ時に、右腕を振り回してやがった。何かの仕込みをしたに違いない。バカ護衛に気を取られてみんな気付かなかったようだが、攻撃をしたなら、あの瞬間に結果が出るはず。でも、見た目には、何もねえし、見えねえ。そうなりゃ、糸ぐらいしか選択肢はねえだろ。


「ぐわっ!」


「ぎゃあっ!」


「痛い!」


 悲鳴が聞こえてくる。注意すんのが遅かったか。


 そうなると、どうしたもんか。この女が三人を第一対象にしたのは間違いなさそうだが……残りの護衛も絡め取られてやがるし。俺の周りもヤバい可能性があるが。なら、自爆覚悟で、投擲とうてき具で足止めするぐらいしかねえな。


 俺は右利きだが、これだけの手合いなら、どっちが利き腕なのかぐらい、わかるだろう。そこで、三人が引っ掛かるのとほぼ同時に、ナイフを三本、左手で投げる。あえて急所は狙わずに時間を稼ぎ、縛りを解除するためだ。


 投げたタイミングがよかったんだろう、女はすぐには気付かなかったようで、すぐに体をかわしたものの、一本が右肩の近くをかすめる。せいぜいかすり傷ぐらいで、ほとんどダメージはないようだが、服がバッサリ切れて、下の肌があらわになり、トライデントのタトゥーがのぞく。


「……銀の……トーデス……」


 印象的なタトゥーを持った娼婦の名は、俺も耳にしたことがある。俺は寝たことがねえが、謎めいた女ってんで有名だ。


「はんっ、やってくれるね。このトライデント、折れるものなら、折ってみな」


 鼻で笑うような女にムカつくが、冷静にならなきゃ、相手の思うつぼだ。まず、今の状態を、しっかり観察するのが第一。


 腕の振り方から見て、糸は横方向にしか張ってないはず。あらかじめ用意してたのを、投網みてえに放れば別だが、それならピンと張ることはできねえし、引っ掛かって痛がることはありえん。


 つまり、縦方向の移動なら、問題なさそう、ってことになる。


 右脚を上げて、靴の底で前面をなでるように動かすと、案の定、細い糸が横方向に張られている。体重を乗せても問題なさそうだ。


「――!」


 思い切ってジャンプし、足を糸で踏みつけるようにして勢いを付けて飛び上がる。足だけではしごを登るようなしぐさを繰り返し、足場がなくなると、当然のように体が落ちていくが、最後に足場があったところで再び足を伸ばし、ここを強く踏んで、前側へと飛び降りる。


 反撃しようとするなら、糸を抜けなきゃ話にならん。だが、空中にいる間は、完全に無防備になる。女がすでに柄を握っているバトルアックスを振り回されれば、短剣程度でどこまで防げっか、怪しい。


 破れかぶれもいいところだが、この女、なぜか、攻撃するそぶりを見せねえ。


「へえ……兄さん、やるじゃない。こんな連中に付き従ってるのって小者ばっかと思ってたけど、骨のある男もいるもんだね」


「……」


 そのまま、二人して身じろぎもせず、ただにらみ合う。


 このままじゃラチがあかねえなと思っていると。


「……ふうん。こんな場面で、こんだけ落ち着いて対処できるのって、そうそういないよ。体術よりも、その判断力、大したもんだ。どうだい、あたしに付いちゃこないかい」


「何?」


「こんなつまんない、単に身分が高いだけで勘違いしてる連中に、顎で使われて、満足かい? 近いうちに縛り首になる連中に、付き合う気かい? 義理堅いのは美徳だけど、そのままだとアンタも道連れだよ? その能力を殺してしまうのは、もったいないと思うけどね」


「……何を、考えている?」


「もうすぐ、この国で、大爆発が起きるよ。そこで、大暴れしないか、っての」


「何を言って……」


「気になるんなら、明日以降、ここにおいでなさいな」


 女は、指で緩やかにコインをはじく。


 受け取ったコインは二枚重ねになっていて、その間にメモが挟まっている。ここに、ってことは、アジトが書かれてるってことかい。


 ちっ、とにかくここは、現実的に考えるしかねえか。


 正味の話、ここから無事に逃げおおせる自信は、全くない。それに。


(身分が高いだけで勘違い、か……)


 これまで、何も思わなかったわけじゃ、ねえ。生きていくだけなら、もっといいやり方があるんじゃねえかって、そんなことも、何度もあった。


「……」


「ちっ、もう来たかい……アンタ“は”、さっさと逃げな」


 女が姿をくらますと、ドタドタという足音が迫ってきた。どうやら、周囲の連中は役に立たなかったらしい。


「逃がしてくれた、ってかい……」


 三人と護衛たちを見て、どうしようかと一瞬迷うけど、こうなったら仕方ねえ。


「銀のトータスを追います……あいつ、何か抱えてやがる」


 そう言い訳を残して、俺は、独りでその場から駆け出していった。

骨のある敵キャラって魅力的ですよね。この先、出番があるかどうかはわかりませんが。


いつかめ。には、用語解説はありません。

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