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「お、おはよう、ユージム!」

「おはよう。ソーニナ」



 はうぅ……、おはようと口にされるだけでもときめいて仕方がないわ。なんなの、その眩しい笑み! 色んな自分を見てほしいからと、人の姿だったり、耳と尻尾を生やした姿だったり、色んな姿を見せてくれるのだけど、自分を知ってもらおうとするその行動が愛おしい。




 それに屋敷の侍女たちも美しいユージムにキャーキャー言っているのだけど、全然相手にしないの。私付きの侍女が「あんなに優しいのはソーニナ様にだけですよ」と笑ってくれていて、私はとても嬉しかったの。





 私はユージムに嫌われないようにしようとしているけれど、ユージムと一緒に居るとドキドキしすぎて失敗もしてしまうの。でもユージムは、寧ろその失敗を可愛いと言ってくれて。私は可愛いと言われると嬉しいから、ユージムの良い所を見つけると優しいとか、かっこいいとか伝えるようにしている。その度に恥ずかしそうにしているユージムが可愛かった。

 それにしても私自身がこんなに情熱的だとは思わなかった。私は王太子殿下と長い間、婚約者の関係だったけれど、彼のために何かをしようとは特にしてこなかった。最低限の努力はしていたと思うけれど……。そう考えると私がそう言う態度だったからこそ、王太子殿下は他を向いたのかもしれないわね。






「ユージム、私、侍女に習ってクッキーを作ってみたの。ユージムが美味しそうに食べてたの見たから、私が作ったものを食べてほしいって思って」

「ありがとう」





 私って重いわ! 料理長が用意したお菓子をユージムが美味しいと言っているだけで嫉妬なのかもやもやしてしまったもの。私が作ったものを食べてもらえると嬉しいなってそんな気分になってしまったの。

 王侯貴族は料理なんてしないのが普通だろうけれど、私はユージムと結婚出来ることがあったら料理を作ってあげたい! って思ったわ。だってユージムは食べるのが好きなのか、とても美味しそうに食べるのだもの。





 その表情を見ているだけでどうしようもなく幸せだったの。

 でも私が幾らユージムと結婚したいわと思っても、ユージム次第なのよね。番だろうとも本人同士の相性とか次第では結婚出来なかったりもするって聞くし、ユージムが此処にいる間にユージムに好かれたいわ。

 ユージムと一緒に遠出をしたりもした。私も獣人の血を濃く継いでいるから身体能力も高い。貴族らしくないと言われるかもだけど、走り回る事も好きだ。それは獣人のユージムも一緒みたいで、一緒に駆け回った。






 そんな風に令嬢としては信じられない行動をしてもユージムは笑ってる。飾らなくていいと言ってくれる。そのままの私を見たいと言ってくれる。

 獣人の国は本能で生きている人がとても多いらしい。だからこの国では信じられないことだけれども、獣の姿で寄り添いあったりもするらしいわ。それに獣人としての姿を見せている人ばかりらしいから、私もこの国にいるほど浮かない気がするわ。

 ……って、ユージムからついてきてほしいとか、決定的なことを言われているわけではないもの。






「ソーニナは本が好きなんだね」

「ええ。本を読むのも好きだわ。子供っぽいと言われるかもしれないけれど、一番好きなのはこれなのよ」




 そう言いながら私が絵本を見せてもユージムは笑っていた。





「悪い魔女の手で大変な目にあったお姫様が、魔法使いに助けられて幸せになる物語なの。お姫様にとって魔法使いは王子様だと思って、素敵だなって」





 子供の頃にお母様に読んでもらった絵本。お母様もお気に入りの絵本らしくて、何度も何度も読み聞かせてくれた。




 魔女に魔法をかけられてしまったお姫様を、良い魔法使いが救う物語。いつかそういう王子様と出会えたらって子供の頃は無邪気に考えていたものだったわ。それも大きくなって、自分が貴族の令嬢であるという自覚を持ってからはそういう夢を見ることはやめた。

 けれど……私にとって番であろうユージムに出会った。貴族の令嬢なのに、そういう存在と出会えるだけでも幸運なのだ。愛のない結婚なんて沢山ある。




 私は結婚できるかもしれない位置にいる。でもそれを許してもらっていいのだろうか。本当にそんなに幸せな事があってもいいのだろうか。思わずそんな気持ちになってしまう。

 出来れば結婚したい。好きになってほしい。ユージムのことを自分のものにしたいし、私もユージムのものになりたいなどと独占欲丸出しのことを考えている。それでも――、私は好きな人に自分を好きになることを強いたくはない。

 独占欲まみれだけど!! だから、駄目だったら駄目だったでその時はその時! お父様とお兄様の選んだ相手と結婚しよう。そう決意した。







「ユージムはとてもかっこいいですわね」

「素敵だわ」

「美味しいものを食べているユージムの顔を見るの、私大好きだわ」

「ふふ、ユージムといるととっても楽しいわ」

「ユージムの笑顔を見ているとドキドキするの。誰よりも素敵だわ」





 好きになってもらいたいと思ってからの私は、より一層そういうことばかり口にしていた。本心からの言葉だ。




 大好きだなと思うからこそ、好きになってしまうために一生懸命になりたいって思ったから。それにしてもしばらく一緒に屋敷で過ごしていてもやっぱり私はユージムがかっこいいと思う。

 こうしてユージムが私の屋敷にしばらくとどまっているのは、番である私と結婚するか見定めているからでもある。そして私に見定めさせようとしているからというのもあると思う。





 一目あって恋した、好き! って結婚を決めるのもアリだとは思うけれど、それでもこうして互いに理解してからの方が私もいいなぁと思う。





 ……というか私はすっかり、ユージムのことが好きになっている。

 一目見て好きってなったのもあるけれど、その仕草とか、優しい性格とか、その笑顔とかに惹かれているというか……。ずっとずっと、ときめいてばかりだ。



 ユージムはどんなふうに考えているのだろうか。可愛いと言ってくれてるし、笑ってくれているし、優しい笑みを浮かべてくれているし、嫌われてはいないと思うけれど。




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