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「あら、ソーニナ様、今日はその姿なのですね」

「がうがう」




 そんなわけですっかりのんびりすることを決めた私は、王都の屋敷ではなく領地に戻ってゆっくりしている。




 今は、完全に四足歩行の獅子の姿である。この姿だと服を着るのがおかしいので、完全に獣の姿だ。とはいっても流石にこの姿でどこにでもいくわけではない。害獣扱いされて狩られたら大変だもの。

 屋敷の庭や室内をうろつくぐらい。でもベッドの上にこの真っ白な獅子の姿でいると何だか気持ちが良い。鏡に映る自分の姿。人としての姿の私よりも少し大きめの真っ白な毛並みの獅子。

 私にとってこの姿は結構なじみ深いものだ。急にこういう姿になっているわけではなく、昔からこうだから。小さい頃の獅子の姿の私はよくお姉様とお兄様に抱っこされてたのよね。






 なんだろう、私は獅子の姿に小さいころから時々なっていたけれど、それも大人になれば制御が出来るようになるのではないかっていう期待と、あとは王太子殿下が人の姿の私に一目惚れしたから婚約関係が結ばれたのよね。でも大きくなるにつれ、私の魔力も増えてきたからか余計に獅子になることが多くなった。




 でも王太子殿下が獅子の私を受け入れるならそれでもいいって話にはお父様や陛下の間でなっていたらしいけど、王太子殿下からしてみれば、それは受け入れられないことだった。悲鳴をあげられてしまって、ショックだったなぁ。

 なんて思いながら尻尾が垂れ下がってしまう。





「ソーニナ! まぁ、もふもふだわ!! 全身がもふもふなんて素敵だわ。うちの旦那様は、私の耳と尻尾だけがもふもふなのを気に入っているっていうけれど、私はソーニナのような全身もふもふも素敵だと思うわ。ねぇ、抱き着いてもいい?」

「がうがう!」




 一人のお姉様は嫁ぎ先に帰っていったけれど、もう一人のイーバお姉様はまだ私を心配して実家にいる。嫁ぎ先が近いからというのもあるかもしれない。お義兄様はちょくちょくこっちに姿を現わしているし。

 でもイーバお姉様、お姉様の耳と尻尾を気に入っていると言っているお義兄様も完全獅子体の私を事故で見てしまった時に気絶していたわよ。……そう思うとやっぱり私は結婚出来ないかもしれないなんて思った。

 イーバお姉様に思いっきり抱きしめられる。イーバお姉様は気持ちよさそうな顔をしている。






「とてもふかふかだわ。ソーニナと結婚する方はいつでもこれを味わえるのよね。とてもうらやましいことだわ」

「がう……」

「落ち込んでいるの? ソーニナ。大丈夫よ。ソーニナは私の可愛い妹で、誰よりも努力家で優しいもの。私はソーニナが大好きよ。こうして獅子の姿になるのも、貴方の個性で魅力だと思うわ」






 イーバお姉様がそうやって微笑みながら、私の身体を撫でてくれる。

 その優しい物言いに私は嬉しい気持ちになる。優しいイーバお姉様。私は家族が大好きだ。

 婚約破棄をされた私を心配してくれている家族の温かさに私は嬉しくなった。




 

 悠々と過ごしていた私はしばらく、何も気にせずにのんびりしていた。












「――そういえば、あの子と王太子殿下、別れそうらしいわよ」

「え? 私とあれだけ盛大に婚約破棄した理由なのに?」

「ええ。そうみたいよ。ソーニナは最近社交界から離れているから知らないでしょうけれど、獣人の国から貴族が来ているの。番を探しているのですって。とても美しい男性で、あの子もその方に夢中になっているのよ。それで喧嘩しているのよ。面白いわよね」

「あらあら……。真実の愛を見つけたと言っていたのに。それにしてもサーフェお姉様は、辛辣ね」





 今日はサーフェお姉様が私の様子を見に来ていた。サーフェお姉様は、お父様譲りの金色の髪と、私と同じ青い瞳を持つ。その頭からは時々獅子の耳が出ている。でも耳だけだと、大変愛らしく見えるのよね。




「そりゃあそうよ。私の可愛いソーニナと婚約破棄をしたんですからね!! 王太子殿下なんてあの子にフラれてしまえばいいんですもの」

「それでサーフェお姉様、その方は番を見つけられそうなの?」

「いえ、今の所、どんな令嬢に近づかれてもそつない態度だもの。それに番というのは、身分とか関係なしに本能で分かるものらしいの。だから令嬢たちだけではなく、街にも出て行ったりしているみたいだわ」





 番というのは、身分や種族を問わないものらしい。だからこそ、いざ番を見つけてもその相手がもう結婚していたりすることもあれば、一生番に会えないこともあるらしい。その場合は違う相手と結婚したり、独りを貫いたり、色んな未来を選ぶらしい。

 あとは結婚していて、その後番に出会っても結婚相手を尊重したり、色々あるのだとか。

 だけれどもその遠く離れた獣人の国からわざわざその方が此処に来たのは、誰かと結婚するにしても番に出会ってから決めたいと思ったからだそうだ。でも貴族として期限もちゃんと決めているらしい。






「ソーニナも、その方に会ってみない? 獣人のことをもっと知れるだろうし、ソーニナも気分転換になるでしょう?」

「そうね……でも、今の婚約破棄されたばかりの私がその方に近づくと、悪い方向で噂になると思うわ。王太子殿下に突っかかってこられそうですし……」





 あと何より社交界に行かずに引きこもって、領地でのんびり過ごすのが楽しい……! という本音は流石に口にしなかったけれど、サーフェお姉様にはすっかりバレていたらしい。





「ソーニナがそれでいいならいいわ。でも落ち着いたらちゃんと貴族の義務として社交界には行きましょうね?」

「もちろんですわ。サーフェお姉様」





 というわけで私は引き続き、のんびりとすることにしたのだが……、




「獣人の国の貴族の方がこの屋敷に来る!?」



 噂の獣人の国の貴族は、私のいる屋敷に来るらしい。






「獣人の血を深く継いでいるソーニナに興味を持ったらしいよ。あとは番かもしれない可能性は誰にでもあるから会いたいっていうのもあるらしいけれど」

「……分かりましたわ。会いましょう。それに屋敷で会うのならば、社交界で会うよりも騒ぎにならないでしょうし」





 私は獣人の国の方にちゃんとあったことはない。だからこそ会う事自体は全然かまわない。寧ろ興味はある。あと、家にその方がくるとなると、噂になりそうだから、広まったらまた引きこもり生活が継続できるしいいかなって気持ちはある。




 それにしてもそれだけ貴族令嬢たちが夢中になっている貴族かぁ。そう思いながら、男性としての興味はあまりない。というのも、私は今までどんなに綺麗な方にも恋愛的な意味でときめかないだろうなぁという自信があるからである。

 獣人の特性や獣人の国の話を聞けたらいいなぁとそんな風に軽く身構えていた。




 だけれど――、




「はじめまして。私はユージム・ダイスです」




 その黒髪に、黄色い瞳の男性を見た時に、胸が撃ち抜かれてしまった。





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