第五話:谷内京花の衝撃
更新も展開も非常にのんびりとしたペースで進んでいます。
連載物を書くのは実を言うと初めてなので、色々と至らない点はあるでしょうが、それでも耐えられる方はどうぞ見てやってください。
耐えられない方は気になった点を感想などに書いていただければ、もう少しは見れるものになるかもしれません。
今更ですがどうぞよろしくお願いします。
午後6時。
今日はお父さんは遅いみたいで、お母さんと二人の夕食だった。
特に何も言われなかったけれど、やっぱりまだこの間の報道部の人たちのことを気にしてるみたいだ。
報道部が私のことを持ち上げて学園に戻れないようなら、いっそ戻らなくてもいいといってくれてたけれど、きっと今のままで就職したって私は変われない。
だから適当に誤魔化したままだ。
それに、私は報道部がそこまで悪い人たちとは思ってない。
噂では問題児の掃き溜めだとか言われてるけれど、皆が皆ひどい人ではないはずだ。
入学当初の私を受け入れてくれた彼女のように。
いつか学園にまた行った時に、そのときでも彼女は私を受け入れてくれるだろうか?
「学園か〜・・・・・・」
溜息とともに部屋に入る。
明かりをつけてベッドの上の大きなイルカに抱きついた。
これでもう2ヶ月近くも学園には行っていない。
きっともう前期の単位は絶望的だ。
進級ぐらいはできても二年前期は地獄のように忙しくなる。
下手をすれば一年ぐらいは覚悟しなければならない事態だ。
「はぁ・・・・・・」
先のことを考え憂鬱になっているところに、着信を知らせる携帯がなった。
「電話?」
メールならともかく学園に行ってもいない私に電話してくる相手なんてそうそういない。
表示された番号も知らないものだった。
無視してもいいのだが、誰なのかぐらい確認しておかなければ気味が悪い。
「はい・・・、もしもし?」
『もしもし?壮学報道部の新史ですが。谷内京花さんで間違いありませんか?』
報道部の新史?
一応覚えてる。
確か前に買い物に行ったとき声をかけてきた人だ。
取材をしたいといわれたからオーケーした。
けれど。
「あの?・・・・・・新史さんに番号教えてはいないと思うんですけど?」
『もう一度コンタクトを取るために必要と思ったので調べさせていただきました。この間お伺いしたときは追い返されてしまったので』
「あ、ああ。この間は母が失礼しました。私のことを思ってのことだったみたいなので・・・・・・」
『まったく気にしていません。しかし、取材は諦めるわけにはいきませんので』
だからって普通人の携帯番号勝手に調べて連絡してくるかなー。
軽く犯罪だと思うんだけどなー。
流石は報道部。
『今からその埋め合わせとして取材を行いたいのですがよろしいですか?』
「え、今からですか?・・・・・・別に予定もないですしいいですけど」
どうせ今からというなら電話ごしに質問するだけだろう。
でも報道部だからなーと、ちょっと不安にもなったけど、家に来るなら後日ってことにしてもらえればいいし、来てくれって言うなら会ってみたい気もする。
『わかりました。それでは・・・・・・』
そう。軽い好奇心もあった。
けれどそれは。
「早速始めましょうか」
かなり甘かったみたい。
「え、え?ええええええええ!」
「しっーーーーーーーー!」
勝手に開いた窓とカーテンの向こうに、見覚えのある眼鏡の男子がいた。
予想を完全に超えた事態に頭が回らなくて、思わず素直に口を手でふさいでしまった。
「騒ぎたい気持ちはわかりますが、ここで見つかるとお互い困ります」
靴を窓枠に置いて、堂々と入ってくるその人にコクコクと首を振って答える。
「とりあえず声は出して結構ですよ」
「あ、はい」
言われてやっと口をふさいでいたことを思い出して、慌てて離した。
ていうか・・・。え?何で?
「では、早速取材に移りますが・・・・・・」
「いやいやいやっ。移らないでください!な、何で新史さんがここに?どうして私の部屋の窓から入ってきて、何で私の番号知ってるんですか!?」
て、番号の方は聞いたっけ?
いや、でもあれは。
「報道部だからです」
「あ、ああ。えっと・・・・・・、番号のほうはもういいです。何で窓から・・・」
「報道部だからです」
「それも!?」
せ、説明する気はなしですか?
このまま流していいことじゃないですよねっ?
「で、まず確認しておきたい情報からですが・・・」
うわぁ、はじまちゃった。
「何か気になることでも?」
色々考えてるうちにボーっとしてしまったみたいで、手帳を取り出してめくっていた新史さんがこっちを覗き込んでいた。
「あ、いいですよ。別に。何ですか?」
まあ、下にはお母さんたちも居るし。
大丈夫だよね?
私が笑顔でそう返すと、新史さんは手帳と私を交互に見た後、急に真剣な顔になって私の前に座った。
「それでは谷内京花さん。あなたは体調不良を理由に学園を2ヶ月近くも欠席していますが、仮病で・・・・・・、間違いありませんね?」
「えっ・・・・・・」
表情が引きつったのが自分でも良くわかった。
好奇心でこの人と接するのは甘い。
さっきそう思ったのに、どこかでまだ何かを期待していた自分を恨んだ。
この人は、知ってちゃいけないことを知ってる。
「あ・・・・・・の・・・・・・」
自然と顔が俯く。
声も思い通りに出てくれない。
出たとしても、何を言えばいいのかわからない。
「どうやら。間違いなさそうですね」
新史さんの顔を見られない。
けれど、私の態度でそれが確信されてしまったことはわかった。
知ってる?
みんな?
皆?
皆がみんな知ってるの?
「あ、あのっ!」
「これはまだ記事としては扱っていません。これを知っているのも、学園で報道部の数人だけです」
慌てて顔をあげると、新史さんは私の考えを見透かしたようにそう答えた。
眼鏡越しに私を見るその眼が、睨まれているのかと錯覚するくらい真っ直ぐだった。
その眼を見ていると、暴れていた動機が収まっていくのを感じた。
不意に首筋が涼しくなって、初めて自分が汗をかいていたことに気づいた。
「何が・・・、聞きたいんですか?」
冷静になって、ようやく会話ができる気がした。
今までのどこか舞い上がってしまっていた感じがもうない。
これは大事なことだ。
それを知っているこの人が、どうしてそれを確かめにここまで来たのか、ちゃんと確かめなきゃいけない。
けれど、改めて新史さんの顔を見たとき、私はまた言葉を失った。
「準備ができたようですね?」
彼は笑っていた。