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第三話:糸瀬牧の憂鬱

7月下旬。

久々に気持ちのいい朝だ。

朝から雨に憂鬱にさせられてた日々ともこれでおさらばっ!

久々の朝日とともに、清々しくいざ登校!

「・・・・・・といければいいんだけどねー」

あー・・・行きたくない。

どうも牧です。

二回目なんでもう「マキ」でも問題ないよね?

カタカナのほうが変換楽だし。

現在朝7時。

いつもなら授業寸前に起きて顔だけ洗ってダッシュのはずなのに、今日はシャワー浴びて朝食食べてしっかり着替えたというのにまだ時間が余っている。

・・・・・・ん?いつもパジャマで登校するのかって?

違う違う。登校できる格好でいつも寝てるの。

あれ?

それだと着替えたらパジャマで登校?

いやそんなばかな。

・・・・・・どうでもいいや。

今はそんなことより。

「あの記事どうなってんのかな・・・・・・」

そうなのだ。

昨日嫌々ながらも参加した部活で作った記事。

それがどうにも気に入らなかったあたしは、そいつを破り捨てて逃走してきてしまったのだ。

あの記事が完成しなければ報道部は廃部。

もちろんそこに所属していた部員たちは解散となり、それはあたしらみたいにあそこがあるから学園に留まれてた奴らには退学と同じなのだ。

「しかも頭に来たとはいえきれーに粉々にしちゃったからなー。別なの作って間に合ったとしても、あたしだけ責任くらって退学ーって言われても反論のしようがないよー」

登校するなり「退学!」などといわれて追い返されるのかと思うとそりゃ行きたくもなくなる。

しかも最悪あたしのせいで報道部の奴らまで退学となれば、いくらあいつらでもさすがに申し訳ない。

まーどう考えてもあたしが悪いから仕方ないんだけど。

だからといってあの記事を認めるほどあたしは無責任な人間じゃない。

あれが張り出されなかったのならと思うと別に後悔することだけでもない。

「・・・・・・うだうだ考えてんのも柄じゃないか。とりあえず確かめるだけでも行ってこないとね」

とにかく記事が張り出されてるかだけでも確認しなければ。

さすがに同じのが張られてるってこともないだろうけど、万が一そうなら、まだ人の少ないこの時間に始末しなければならない。

そう思って記事が張られてるであろう掲示板まで来たのだが、少ないどころかいたのは一人だけだった。

「随分と早起きだな?」

そう、最悪の一人。

「自分がしたことの結果を見にきただけよ。完成は・・・したみたいね。新史」

「ああ、部長を呼び捨てにする上、作業の邪魔までしてくれるすばらしい新入生のおかげで徹夜となったがな」

とりあえず心配が一つ減ったと内心安堵したが、眼鏡越しの睨みつけるような視線がやけに痛い。

言い返す言葉がないのは悔しいが、謝ったりもしない。

それなら最初っからそんなことはしない。

「黙ったままとは珍しいな。てっきりまた力ずくで破り捨てに来たのかと思ったが?」

苦い顔で睨み返してると、大げさに溜息を付いて更に挑発してきた。

どういうつもりか知らないが、こいつらしくないな。

「そう思ってなおあんた一人で待ってるなんて、あたしも随分なめられたもんね」

全身に滾っていた力を抜いてそう返すと、新史の表情がわずかだが変わった。

そんなもんに食いつくとでも思ったか。

数人の集団に囲まれてならまだしも、相手は一人。しかもそれがこいつという状況で挑発なんてされても、警戒して逆に冷静になるってものだ。

「意味は違っても、なめられてたのは本当みたいね」

「ああ、確かにそうだな。生半可な挑発をして悪かった」

謝罪はしても態度に変化は無い。

本当にそう思ってるのかこいつは?

嘘をついてる気はしないが、態度が明らかに違いすぎてまったく信用できない。

「昨日破り捨てた物を性懲りもなく作り直した奴に対して、お前がそこまで冷静だとは正直思っても見なかった」

な・・・・・・に?

改めて掲示板に目をやる。

・・・・・・なんて奴だ。

この記事をあれからの短時間で作ったことは凄い。

だが、あたしが思ったのはそんなことじゃない。

こいつは、昨日あたしがあれだけ否定した記事を躊躇うこともなく作り直し、堂々と大衆に触れる掲示板へ貼り付け、あまつさえ否定した本人が来るとわかってて待ち伏せていたのだ。

「・・・・・・腐ってやがる」

怒りによって声が抑えられる。

ここまでむかつく喧嘩を売られたのは初めてだ。

「こんなやり方ができるほど腐った奴らとは思ってなかったわね!」

「やはり、見えてなかっただけか」

予想通りとでも言いたいのだろうか。

新史はそう言っただけで表情一つ変えずにこっちを見ている。

「他人の恋愛沙汰の記事がそこまで気に食わんか?」

「当たり前よっ!大体その子は他人じゃない!あたしの友達よ!」

記事に張られた写真に写っているのは谷内(たにうち) 京花(きょうか)。四月から既に学園にほとんど姿を見せていない同じ学科の生徒だ。

そして、その上におちょくるようなピンクの太い字体で『熱愛発覚!?』の根拠のない文字。

そう、根拠なんてない。あるはずがないのだ。

「この子はこの学園に入って初めての友達があたしだって言ってた!その翌日に学園に来なくなった子にどうやって学園で恋愛ができるってのよ!?こんなありもしないでっち上げの記事!黙って見過ごせるか!」

「昨日とまったく同じ台詞だな?」

「なっ・・・!」

大学に上がって初めてまともに会話した子。

だからこそ気になり、しかしどうしていいかわからずにもやもやしていたこと。

それをこんな形で穿り返され、あたしは昨日とまったく同じ、パニックにも近い怒りに駆られていた。

指摘されて始めてあたしはそれに気づき、若干だが怒りが引いた。

「・・・・・・あたしにどうしろって言うのよ」

こいつは昨日あたしが破り捨てた記事を変えもせずこうして張り付けた。

なら、ここで同じように破り捨てたところで、またこいつも同じように翌日にはこれを貼り付けているはずだ。

状況を変えるには昨日と違うやり方じゃなきゃいけない。

こいつもそれを見越してこんなことをしたんだろうから、何か望みがあるんだろうよ。

無謀な挑発も昨日と同じようにあたしを怒らせて、さっきの言葉を印象付けるため。

本当にむかつく男だ。

破るだけのあたしより作り直すあいつの方が不利なのだから、このまま続けても・・・・・・とは思ったが、下手をすればこいつは卒業までの4年間ずっと同じことをしかねない。

「この記事の改訂版を作る手伝いをしてもらう。今日の授業が終わり次第ここに書かれた場所へ来い。改訂版ができればこの記事は好きにしてかまわん。作り直しもせん」

新史は記事の横に小さなメモを貼り付けるとそのままどこかへ行った。

あたしは黙ってそれを見送った。

いや、それが限界だった。

少しは冷静になったとはいえ、元々気の短いあたしがここまで頭にきて自分を抑え続けるのは最早限界だったのだ。

「堪えろ・・・・・・。堪えろ・・・・・・」

新史の姿が見えなくなるまでそう呟きながら、飛び出しそうな体を抑える。

その姿が見えなくなってもしばらく腕から力は抜けず、あたしは深呼吸を繰り返した。

そして、ようやく体が落ち着いたとたん、今度は猛烈な悔しさがこみ上げてきた。

「・・・・・・畜生」

存在自体が許しがたいポスターの前で溢れた涙をぬぐい、隣のメモを破り取る。

簡単な地図と住所。

矢印の場所には集合時刻と。

「・・・・・・ここって!」

『谷内低』という文字が書いてあった。




「・・・・・・低?」




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