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第一話:糸瀬牧の日常

未だ7月。

この鬱陶しい天気はいつまで続くのやら。

シャツだと寒いが一枚着ただけで熱くてやってらんない。

講義室というのはどうしてこうも空調が下手糞なんだ!

「やってらんない!」

壮学1年糸瀬(いとせ) (まき)です。こんちは。

「ダウン早いねー」

授業が始まり現在10分が経過。

早々に見切りをつけて机に突っ伏すと、隣のガリベンが苦笑してこっちを見た。

「ガリベンじゃない!遠藤(えんどう) 香奈子(かなこ)です!」

「ん?知ってるよ。どしたの急に?」

「いや、あなたに任せると絶対私の紹介なんてしないだろうから、先にね?」

「さすが親友。わかってるね」

「その親友をないがしろにしすぎでしょ」

拗ねたように黒板のほうへ向き直りまたノートをせっせととり始める。

相変わらず真面目なことだ。

ノート作りを高校でとっくにリタイアしたあたしにはとても真似出来そうも無い。

今のあたしにとってノートは落書き帳であり、プリントをはさむためのファイルでしかないわけだし。

「ここにいるだけいてもしょうがないか・・・・・・」

「どうする気?」

あたしの独り言に不穏な気配を感じたのか、香奈子が振り向いた。

「隙を見て脱出する」

「またそれ?これで抜けれる教科フルコンプリートだよ!?」

教授の隙をうかがうあたしに呆れながら抗議してくる。

許せ友よ。

悪いのはこの部屋の空調と面白くない授業とあたしの頭だ。

ちゃんとわかってる。

「テスト前にはちゃんと勉強して単位はとるよ。あたしは一夜漬けの神だ。心配は要らない」

「そんなこと言ったって、結局は大事な知らせ聞き逃したり、演習忘れてたりして気がついたときにはもう手遅れ。なんてことになるの!高校のときと同じ感覚じゃだめだってもう何回も言ったでしょ?」

「うー。まあ、確かにそれは何度も言われたし、あたしもこれからは真面目に勉強してストレスとはおさらばだ!とか意気込んでたときはあるけどさぁ。正直、この現状で真面目に勉強する気になるか?」

そういって講義室全体をぐるっと見渡す。

生存者はわずか数名。

他7割近くが見事に撃沈。もしくはケータイ。

ん?うわ、ゲーム機持参のつわものもおるわ。

「うーん・・・・・・」

さすがの香奈子もこれには返答に困るか。

まあ、そうだろう。

「ぶっちゃけ香奈子この授業面白い?」

「いや、全然」

あっさり肯定された。

まあ、ここまで無駄話に付き合ってる時点でそうだとは思ったけど。

「んじゃ、そういうことであたしはオサラバするよ。何かあったら後日連絡よろしく」

「別にいいけど、どこ行く気?まだ授業残ってるし帰るわけにも行かないわよ?」

「あ」

うん。

確かにそうだ。その後のことをまったく考えていなかった。

そんなあたしの様子をやれやれと溜息を吐いく親友。

あたしは仕方なくその隣に座りなおした。

「部室にでも行くのかと思ったわ」

「それは無いから」

香奈子の呟きを速攻で否定する。

もともと入りたく入ったものではない。

「誰があんなところに好き好んでいくものか!」

「けど、行かなきゃ退学なんでしょ?」

「うぐっ!」

痛いところを突かれた。

確かにそのとおり、あそこに行かなければこの学校自体から追い出されてしまう。

「くそ〜!何でよりによって報道部なのよ!奉仕活動ぐらい他にもいくらでもあるでしょうが!何であたしがあの偏屈眼鏡にこき使われなきゃならないのよ!」

あたしが苦悶の表情を浮かべ机でのた打ち回ってると、隣から小さな笑い声が聞こえた。

「何故笑う!」

「ふふ。だって、そういいつつも牧って本当に嫌なことは絶対にやらないじゃない?でも結局は報道部で手伝ってるってことは、まんざらでもないんじゃないかなーと・・・・・・」

「そんなことあるかぁ!」

思わず大声で否定すると、香奈子はどっちもいいけどね。と視線を戻した。

「私は牧が残ってくれたから、それでいーや」

隣でそう小さくつぶやいた声はしっかりと聞こえていた。

「おい・・・・・・」

ただちょっと恥ずかしかったから。

「おいっ!」

なんて返すか迷ってた・・・。

「おいっ!!!聞いてるのか!」

「何!うるさいわね!!!」

振り向いた先にいたのは・・・教授?

「うるさいのはお前だ!騒がしいからもう出て行け!」

「あー・・・・・・、すいません。ついうっかり・・・」

「うっかりでお前は叫ぶのか?授業中にノートもとらないで何をしてたんだか・・・・・・」

まずい。

このおっさんすごくメンドクサそう。

隣になんとなく視線で助けを求めてみるが、こっちをまったく見ることも無くノートをせっせととっている。

急にそっちに戻ったのはそういうことかこの薄情者!

「聞いてるのか!?ともかく出て行け!お前見たいのは邪魔だ!」

「は?」

なんだとこの薄らハゲが。

「誰が邪魔ですか?」

「な、なんだ?」

「だ・れ・が・邪魔だって?」

「・・・・・・ともかく出て行け!授業にならん!」

ちっ。逃げやがった。

けど、人を邪魔扱いしといてただで済むと思うなよ。

あたしから離れ教壇へ帰っていく教授を荷物をすばやくまとめて追う。

教壇に着いたところで、振り返ると目の前にあたしがいて若干後退っていた。

情けない。

「なんだ!早く出て行け!」

こいつはそれしか言えんのか・・・・・・。

「お邪魔だったようなんで出て行きます」

そして一礼。

それを見て教授に気の緩みが生じる。

その隙を逃さずあたしは一瞬で獲物を捕らえた。

「それじゃ、さよなら」

目の前で生徒が急に自分に迫ってきた。

それだけでがたがたと教壇の後ろでバランスを崩した教授に、笑いをこらえながら、あたしはそういって講義室を出る。

獲物は妙に気持ち悪かったので講義室に捨ててきた。

これで早速欠席一か。

ま、一回ぐらい大丈夫だよね。



牧がいなくなったとたん教授はよたよたと立ち上がり、咳払いをして授業に戻った。

しかし、講義室はもう今のでクスクスという笑い声がそこかしこからもれ、とても授業になるとは思えない。

「私もついでに出ちゃえばよかったかなあ・・・・・・」

なんてことを思いながら、ノートをとる手を止めたとたん、静かにしなさい!と教授の怒鳴り声が響いた。

一瞬は静まり返る。

そう思っていたが、そのとたん講義室は笑いに包まれてしまった。

苛立ちも限界に着たのか、教授はそのまま授業を中断して帰ってしまった。

確かに悪いのは牧なのだけど、あの教授も口が悪すぎる。

自業自得だと思ってほしい。

ところであの人は気づいてたのかな。

牧に自分のカツラをむしりとられていたことに。

あの頭を見せながら笑うなというほうが無理があると思うし、気づいてなかったよね。やっぱり。

「すごいねあの子。知ってる?」

「え?知らねーの!?あれ報道の糸瀬だよ?」

「え、そうなの!?あの同級生全員殴り倒したってゆう?」

「一人でどっかの組と喧嘩したって話もあるらしいよ。あのヅラ取るときの早さみたっしょ?あんなの糸瀬しかいねえって!」

「さっすが報道部だねー」

「見た目はそこそこかわいいのになぁ」

彼女の噂話をしながら教室を去っていく生徒たちの中、私はしみじみ思うのだった。

「やっぱり牧がいると飽きないわ」

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