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第十五話:お仕置きその1

作者テスト期間中のため若干の更新速度遅延気味となります。

どうかご勘弁を。

まあ、それでなくてもおそいのですが。

 龍野の計画は既に狂ってしまったが、目的さえ達成できれば結果オーライだ。

 自分達の心のよりどころを手に入れた彼女らに足りないのは他人を怖がらない自信。そして、今の状況を造る要因となったものを乗り越える事。

 用はトラウマの克服だ。

 本来ならそのトラウマを乗り越えて自信をつけさせたいところだが、彼女らはすでにこの二人と向き合うことすら拒絶している。向き合うには少し手を加えないといけない。

 自信の方は龍野に任せるとして、このトラウマどもにはしっかり凹んでもらおうか。

 その後それを乗り越えられるかは彼女達次第だ。

「覚悟しろだと?お前らみたいなガキがそんなもの見せびらかしたところで信じる大人がいると思うのか!?」

 谷内京太郎はようやく体を起こし土ぼこりを払いながら叫んだ。しかし、その前に大袈裟に地面を踏みつけてマキが立ちふさがる。

「そんなもの?それをたった今躍起になって取り返そうとしたのはどこの誰なのよ。あれが本物じゃなくたって見られて困るものだってことはあんたが十分証明しちゃってんの!いつまでもうだうだぬかしてんじゃないっ!」

「くっ!うううう・・・・・・」

 二十歳に満たない女子大生に睨まれて引き下がる三十後半の大人。

 あれは見習いたくないな。

 彼は典型的な子供に興味がない親だ。彼女が中学生に上がった頃までは良かったが、その後家庭を無視し遊び呆ける行動が目立ってきた。

 その結果。谷内京花は自分に引け目を感じ他人に劣等感を抱くきっかけを作ることになった。

 これは正攻法で行こうとは思っていない。

 個人的にこの手の大人は嫌いだ。

 よってそれなりの目にも会ってもらう。

 問題は・・・・・・。

 俺が視線を向けると、島野めぐみはまるで待ち構えていたように口を開いた。

「あいつに頼まれたの?あたしに仕返しでもしてくれって」

 落ち着いている。

 それだけで少し意表を突かれた。

 あれだけ自分勝手なそぶりを見せ、ここに来てもまだ喚き散らしてくると思っていたのだが、どうやら向こうにも何か思うところがあるらしい。

「・・・・・・手間が省けましたよ」

「は?何言ってんのよ?」

「思ったままの事を言っただけです。あなたを彼に向き合わせるとこから始めずに済みました」

 島野浩介の対人恐怖症と言えるものは彼女の彼に対する言動が原因だ。

 自転車に乗れた。

 友達の家に遊びに行った。

 誰かとどこかへ行った。何かをした。

 例え些細なことでも彼にとっての嬉しい出来事を彼の幼いころから彼女は見下し否定してきた。

 「だから?」「当然じゃん」「あっそ」「くだらない」「キモイ」

 彼女にとっては幼く煩わしい彼をあしらうための何の躊躇いもなく言ったそれらの言葉が、彼の精神を傷つけ続けた。

 勿論それらはただのきっかけだ。彼自身にも今に至った原因はある。

 だが、それが未だに彼の乗り越えないければならない壁になっているのも確かだ。

 マキが谷内京太郎に睨みを効かせ押さえている間に、俺が知りえる島野めぐみが弟へしたことを話しながら歩み寄っていく。

 相手が近づけばそれだけ視界の範囲に余計なものを挟めなくなり、相手から視線をそらしにくくなる。

 それでも顔をそむけて片腕で体を抱く彼女は相当俺と話したくないことがあるということだろう。

「何か間違いでもありましたか?」

 黙られても困るので最後にそう問いかける。

 彼女は苦々しくこっちを見上げ、それでもはっきりと言葉を発する。

「やっぱり。だからあいつは恨んでるんでしょ?あたしに仕返ししたいんでしょ!?知ってんのよ?あいつの部屋によく来てるのってあんた達でしょ!?だからあいつの方持ちたいんでしょっ!?」

 最後には叫びながら。彼女は俺を睨み上げた。

 俺は知っている。

 なぜ彼女がここまで声を荒げ、俺を睨み、その胸中にどんな思いをしまっているのか。

 だからこそ、この先を言っていいものか迷いが生じてしまう。

 彼女さえも知らない情報を、彼も知らない情報を、知り過ぎているために迷ってしまう。

 思わず顔をそらしてしまい振り向くと、葦名も俺の気持ちを理解してか複雑な表情を浮かべている。マキと谷内京太郎も何事かとこっちを見ていた。

 視線を戻す。

 彼女はさっきよりも強くこっちを睨み、黙ったままだった。

 情けない。ここまで来て悩むなんて。

 今日は本当に調子が狂いぱなしだな。

 自分にまたも溜息を吐いて、意を決した。

「仕返しではありません。そんな必要などないほどあなたはもう後悔している」

 俺の言葉に睨んでいた目が少し緩む、その表情からはやっぱりかという呟きが聞こえてきそうだった。

「引き籠りで誰とも話そうとはせず、家族にさえろくに顔を見せず。そんな大嫌いな弟をそうした原因が自分にあったと気づいた時、あなたはひどく後悔した。何とか元に戻そうと部屋から無理やり出そうとしたり自分の友達を連れてきたり、果ては知らない女の子と二人きりにさせたがうまくいかず。逆に彼の症状は悪化していった」

「・・・やめてよ」

 俺が言葉を続けていくと、その視線が徐々に落ちていき、俯いたまま彼女の弱々しい声がした。だが、俺は更に続ける。

「あなたは必至だった。自分のせいで弟をダメにしてしまった。自分が弟を救わなきゃいけない。しかし、その反面今まであしらってきた彼に対して急に態度を変えることもできず、助けようとしながらもあなたは彼を避けていた。同じ家にいても鉢合わせ無いよう外出することも多くなり家にも戻らないことがしばしば。それによって親との仲がぎくしゃくしてもあなたはそれを変えなかった。変えられなかった。そうしてほとんど家族自体と距離をおいて生活していたある日、状況が一変した。そう・・・」

「やめてよっ!!!」

 今度ははっきりと、それこそ周囲に響き渡るほどの声で彼女は叫んだ。俯いたまま、僅かに肩が震えだしていた。

「俺達が来た。今まであなたがまともな会話すらできていなかった弟とあっという間に仲良くなって外に連れ出し、バイトまで始めさせてしまった。あなたはそれによって弟を元に戻すという呪縛から解放され、同時に目標を見失ってしまった。自分の責任だと思い続け、家族との関係を悪くしてでもやろうとしたことを俺たちにあっさりと奪われ、あなたは彼を完全に拒絶した。弟でもなく、家族でもなく、ただの島野浩介。一他人として扱うことにした。何もしてあげられなかった後悔と、せめてもう一度同じようなことが起こらないように。そうですよね?」

 酷だとわかっていても、最後まで言い終えた。

 彼女はいつの間にかその場に崩れ肩を揺らしている。あれだけ悲痛な悲鳴を上げても耐えていたものが溢れてしまったのだろう。

 無理もない。正直俺が顔をそむけた時はこっちが先に感傷に浸ってしまいそうだったからだ。

「めぐみちゃん・・・ぐわっ!」

 後ろから谷内京太郎の声と足音が聞こえたがマキに足払いでも食らったのだろう、すぐに派手な音と短い悲鳴が聞こえ静かになった。

 とりあえず、ここは彼女が落ち着くのを待とうとその場を離れようとした時、ズボンの裾が何かに引っかかった。

「待ちなさいよ。それだけ言っといてただ帰るんならやっぱり仕返しよ・・・。お仕置きとかいうのは別なんでしょ」

 それは島野めぐみの手だった。

 彼女はごしごしと顔を拭うと、立ちあがり俺に挑戦的な笑顔を見せた。

 それには照れ隠しも見て取れたが、まさか笑顔まで見せられると思ってなかった俺は内心の驚きを表情に出さないよう努めながら彼女と再び向き合った。

「そうですね。今のは単なる前置きです。あなたに対するお仕置きは、時間の没収です」

 人差し指を立ててそう言うと、彼女は思いっきり怪訝な表情で凝視してきた。頭おかしいの?とでも・・・。

「あんた頭おかしいんじゃないの?」

 やっぱり言ってきた。

「正確にはあなたが今まで谷内京太郎と過ごしていた時間をうちの部室で過ごしてもらいます。あなたの弟に対する態度を変えてもらうには一日二日じゃ足りなそうですからね」

「はあ!?あたしにあんたたちの大学に通えっての!?」

「別に学生じゃない人間が学園内にいるのは珍しくありませんよ?うちの学食なんかは安いこともあって近くの不動産の職員なんかも利用しによく来ますから」

「そ、そんなことじゃないわよ!?そんな面倒くさいことするわけないでしょ?」

「じゃあさっきの話。あなたの友人知人に手当たり次第言いふらしますね?」

「はあ!?!?!?」

「俺達は容赦しませんよ?お仕置きですからね。何なら昔の同級生、担任なんかも入れますか?あなたが大っ嫌いな理科教師の・・・」

「わ、わ、わっかたわ!行くわよ!行けばいいんでしょ!?行くから止めて!頼むから!」

 さっきまでの威勢はどこへやら、慌てる彼女に満足すると俺は踵を返した。

 マキと谷内京太郎は突っ立ったまま呆然としているが、葦名も満足そうに微笑んでいた。

 これでしっかり彼女が部室に来るようになればとりあえずは成功。

 と、そこでマキが突然駆け寄ってきた。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!まさかこれで終わりじゃないでしょうね!?こいつどうすんのよ?あたしの出番は!?」

「焦るな。両方ともこれからだ」

 そう言って谷内京太郎へと向き直ると、彼はびくっとして後ずさった。

 なんとも情けない。

 だが、何故か心が弾む。

 ちょっと今のでテンションが下がり気味だったのだから丁度良い。

 それを悟ってか、葦名もいつの間にか隣に並んでいた。

「待ってました!これぞ私の出番だよね!?」

「流石。こういう場面は目ざといな。だが、やり過ぎるなよ?」

「やり過ぎ?何いてんのよ。あたしだってこの時を待ってたんだから。容赦なんかするわけないでしょ?」

 俺たちのやり取りにマキは腕を鳴らしながら入ってくる。

 三人にそろって睨まれた谷内京太郎は最早動けずその場に固まっていた。

 やれやれ。

「ま、自業自得だ。恨むなよ?」

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