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第十四話:それぞれの試練

「あなた達。島野浩介と谷内京花さんですね?」

「・・・そうです。あなたは?」

「龍野さんですよね?こんばんわ」

 部長から数歩離れたビルの入り口で、二人はお互いに背を向けてうな垂れていた。

 声を掛ければ一応二人とも顔を上げたが、今にも死にそうな、正確には死にたいほど絶望した表情をしている。

 男子の方は面識があったようで、軽く礼をしてきたので首を振って答えた。その後すぐに俯いて同じように黙ってしまったが。

 呆れてため息が出そうになる。

 私はその感情が表情に出ないよう意識しながら続けた。

「私は報道部副部ちょん・・・ごほんっ!」

 ・・・・・・しまった。

 無言で背中の棒を降ろし、いそいそとカバーを取る。

 剥ぎ取ったカバーを投げ捨てると、気を取り直して棒を垂直に立て地面に叩きつけた。

「私は報道部副部長、龍野観加佐!あなた方には計画を変更し、私と手合わせしていただきます!」

「「・・・・・・え?」」

 目を点にしてそれだけ呟く二人。

 私は構わず男子の方の胸を掴み後ろへ放り投げた。

「うわっ!」

 彼は訳のわからないといった表情のまま、受身も取らずに引きずられ派手に転がった。

「な、何するんですかっ!?いきなり!」

「あなたの相手は私です。ルールはあなた方が私達に一発でも入れられば合格。逃げようとしたら本気で潰させてもらいます」

 棒を目の前に突きつけ睨みつける。

 目の前の女子は完全に脅えきった目でこっちを見つめていた。

「こ、これがなんになるんですかっ!?」

「目的は先程までと一切変わりませんよ?ただやり方を変えただけですっ!!!」

 言い終わるよりも早く棒を上段に構え振り下ろす。

 予想通り身を強張らせただけの彼女は動くこともなく。棒はその右腕を掠めて地面に鈍い音を立て叩き付けられた。

「次は当てますよ」

 感情を押し殺し、本気の恐怖を与える。

 声も出せず地面にへたり込んだ彼女を見下ろしながら、私は次の一撃を構えた。

「待って!」「待ちなさいよ!」

 そこに被る二つの声。

 振り返ると、こっちを睨む男二人の間から糸瀬マキがこっちに飛び付いてきた。

「どおゆうつもりよ!!!京花を殺す気!?」

「そんなわけがないでしょう。彼女達の家庭面の問題を引きずり出してしまった以上。今ここで手を打ってしまおうとしているだけです」

 怒鳴る彼女に呆れながらも周囲に聞こえないよう小声で話す。周りから見れば胸倉をつかまれながら小声で話し合う妙な形になっているだろう。

「それがなんでこうなるのよ!新史といいあんたといい報道部の連中はどうしてこうわけわかんない解決法ばっかりしようとするわけ!?」

「戦闘と言う普段無い条件を作ることで、お互いの見えない一面を見せる機会を作ろうとしているだけです。というか、あなたは部長であり学年も上の人間を呼び捨てにしていいと思ってるんですか!?その態度こそ私にはわけがわかりません!?」

「そ、そんなの今関係ないじゃない!大体あんたと京花の意外な一面見せ合ってどうすんのよ!?」

「子供が危険になれば助けるのが家族でしょう?彼女が襲われれば彼女の親も勝手に参戦してきます。あなたは男子の方の姉を頼みますよ。男子が焦って助けに入るぐらいははやし立ててやって下さい。心配せずともあの女子には手加減もします」

 そこで会話を打ち切って女子の方へと向き直る。

「さあ。いきますよ!」

 が、誰もいない。

 私達が言い合っている間に、彼女はとっくに立ち上がり逃げ始めていた。

「待ちなさい!逃げたら本気で当てると言ったでしょう!?」

「だから逃げ切ろうとしてるんです!!!」

 最もだ。

 しかし、逃がすわけにはいかない。私はすぐにその後を追い、ビル二棟分も走らないうちにその襟首を捕まえた。

「は、放して下さいっ!私が何したって言うんですか!?」

「何もしてないから問題なんです。こうなれば、その弱りきった根性を叩きなおしてしまうというのもいいかもしれませんね。その方が確実ですし」

「や、やめろっ!」

 手足を振るだけの抵抗を無視して彼女を押さえつけていた手が掴まれた。

 やはり来ましたか。

 私がそう思い振り向くと、そこには息を切らしてこっちを睨む男子の姿があった。

「あ・・・、あら?」

「・・・お願いです。決闘でも何でも俺が引き受けますから。彼女に、手を出さないでください」

「・・・・・・浩介」

「え、えーと・・・。あなただけ?」

「はい。俺が引き受けます!」

「いえ、そうじゃなくて・・・」

 真剣な目でこっちを見つめる男子。その後ろに更にこっちへ向かってくる人影は無い。

 こ、これは想定外だ・・・・・・。


「なるほど成程。観加佐ちゃんにしては随分大胆な作戦だけど、面白そうだね。吊橋効果の親子版ってとこ?」

「非日常的な状況下に置くという点ではストックホルム症候群の応用とも取れるな。しかしまあ、現時点で既に誤算が生じておる様だが」

 葦名と筑紫場が龍野を追っていった島野を眺めながら他人事のような顔で雑談していた。

 しかし、確かに龍野の立てた計画にしては大胆だ。

 それに、彼女にしては珍しく先走り故のミスも多い。

 原因はわかりきっている。俺だ。

 彼女に励まされたおかげで調子を取り戻すつもりだったんだが、どうやら余計な心配までさせてしまったらしい。

 部長としての面子を取り戻すためにも、ここはしっかり彼女の計画をサポートするとしようか。

「何あの子?あんな棒持って通り魔?こわ~。ねえねえ京太郎さん。あんなガキ連中ほっといて続きにしよ♪まだ今度の買い物の相談もしてないし~」

「う、う~ん。そうだね~・・・。でもやっぱ俺助けないといけないでしょ。娘が襲われてんだからさ?」

「え~?いいじゃん。どうせ子供も同士のことでしょ?ほっといたって大したことになんてなるわけないって~」

「い、いやー。でもね?・・・そうかなぁ?」

「その人の言う通りですよ。彼女は彼女達でやることがあります」

 体をくねらせながら猫なで声で谷内京太郎にしな垂れかかる島野めぐみ。

 俺が二人に歩み寄ると、島野めぐみは一瞬怪訝な顔をしたが、直ぐに笑顔になって谷内京太郎の手を取った。

「ほらね?言った通りでしょ!じゃ、あたし達は別の店行って続き・・・」

「それも困ります。あなた達にも、ちゃんとやってもらわなくちゃいけないことがありますから」

 俺が声を遮ると、即座に肩を落とし島野めぐみがこっちを睨んだ。

「ほんっとにうるさいガキどもねっ!あんた達の遊びに何であたし達が付き合わなきゃいけないのよ!?」

「理由は簡単。・・・葦名」

「ほいほい♪」

 合図すると、葦名は笑顔で数枚の写真と何枚かの紙切れ。

 それを見た二人の表情が見る間に青くなっていった。

「むふふ。見てわかる通り二人が一緒に飲んでるところの記念写真や旅行に行ったときの写真。ついでにこっちはホテルのメンバーズカード。いやぁ、お盛んですね♪」

 それに鞭打つかのような笑顔で説明する葦名。毎度々こういう時は本当に生き生きしてるなこいつは。

「な、何故それを・・・・・・」

「その理由も簡単。我々が報道部だからです。さ、これで逃げられませんよ?あなた方の相手は俺が勤めさせてもらいましょうか」

 指を目の前で左右に振り、そのまま二人に突きつける。

 これで場は整ったと思いきや。

「ふ、ふざけるなっ!そんなものは偽者だ!それ以上大人をからかえばどうなっても知らんぞ!」

「え?きゃあっ!ちょっと!」

 逆上したのか、顔から滝のような汗を流しながらも真っ赤にした谷内京太郎が葦名へ猛進して来た。

 即座に葦名を羽交い絞めにすると、強引に写真とカードを取り戻そうと手を伸ばした。が、

「うざいわよ。糞親父」

 マキがその手を掴み、捻り上げた。

 さっきまでと違い低く冷たい声で谷内京太郎を一瞥すると、葦名から引き剥がし地面に蹴り倒した。

「うぐわっ!き、君は一体・・・!大人になんてことをするんだい!?」

「自分の娘が襲われてんのに「助けた方がいいよね?」「そうかなぁ?」!?それでも親かっ!?ぶちぎれたわ。新史。こいつらの相手なら手伝うわよ」

 一瞬だけ怒鳴ると、静かにそう言って彼女は倒れた京太郎を見下ろしていた。

「どうやら。こっちは準備が出来たようだな。では私は副部長の加勢にでも行くとするか」

「ああ。頼んだ筑紫場」

 振り返らずに手を振る筑紫場を見送り、振り返る。

 地面に倒れたままやや後ずさりマキを見上げる谷内京太郎と、それを微動だにせず睨み続けるマキ。その二人とこっちを順々に見ながら困惑した表情をする島野めぐみ。

 俺は一度メガネに手を掛けると、三人に歩み寄った。

「さあ、覚悟はいいですか?」

 



 

 


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