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第十一話:覗き人達

忙しい中風邪までひいたおかげで、いつの間にやら一か月も空けてしまいました。


午後8時15分。

散々走り回ったってのに随分近くに居たんじゃない。

白木駅を二周回った時にやっとメールに気づいたせいで、あたしは薄ら汗を掻きながらもようやく新史たちと合流した。

店内に入ったあたしを二人は人差し指を口に当てながら手招きした。

「随分遅かったな?二人ならこの真後ろの席だ。気づかれないよう声は抑えろ」

新史が親指を自分の後ろに向けてそう囁いた。背伸びして向こう側を除くと、確かにさっき見た顔が居る。

しかしまあ、随分仲良く会話してるじゃない。

流石は折笠先輩が連れてきただけの事はある。やるときゃやるのね。

「羨ましいのはわかるが、覗きすぎてばれるなよ?」

性懲りもなく、いらない一言を付けてくる新史を思いっきり睨み、どかっと腰を下ろす。

それを待っていたかのように、新史は小声で話し出した。

「まあ、その様子を見る限り大体の予想は付く。走り回ってて気づくのが遅れたってところだろう。こっちは雄一朗と一緒にすぐに二人を見つけ監視を続けていたが、なかなかいい雰囲気だろう?」

「その名探偵じみた推理は対したもんだけど、苦労してるのがわかってるなら労いの言葉の一つもあっていいんじゃない?」

「む?それもそうだな。ご苦労だった。何度か家まで行っては眺めるだけで帰ってきたり。彼女の父親のデパートにやたら通って万引き犯や態度の悪い客を掃討するほど心配していた友人のためとなれば、お前のことだ。周囲が見えなくなるくらいは許容範囲か。もっとも、後者は店員に出入り禁止を勧告されたそうだがな」

「なっ!?なんでそんなことまで知ってんのよ!」

「何を今更・・・・・・。報道部だからだ」

無茶苦茶な理由の癖に、呆れたように腕を組み溜息を吐く。

その仕草がムカついてしょうがない!

「まあまあ、落ち着いてマキちゃん!後ろに二人がいるって事を忘れないで!」

怒りに両手をわなわなと震えさせていたあたしを折笠先輩がなだめる。

その言葉に一瞬怒りを忘れ衝立の向こうにいる見えない二人に視線をやる。

確かに、これが成功すれば京花はまた学園に戻ってくるかもしれない。・・・・・・けれど、本当にこれでいいのだろうか。新史や折笠先輩達、報道部の面子がかなり調べ上げたうえで計画したことだし、その後のフォローも約束してる。

けど、京花は嘘を付くことになる。

好きでもない恋人と付き合ってるフリ。

それだけで何事もなかったように学園に戻れるのだったら、彼女にはそれぐらい平気なのだろうか。

少なくとも、あたしが知り合ったときの彼女の印象だと、そんなことを長く続けられるようには思えなかった。

「マキちゃん?どうかした?」

「え?あっ、いや。なんでもないですよ。ちゃんと学園に戻ってきたらいいなと思っただけで・・・」

「心配要らないよ。この様子だと二人ともちゃんとやっていける。時間の問題だよ。きっと」

「そう・・・ですよね」

そう言うと、折笠先輩は爽やかに微笑んだ。

なんというイケメン。

その笑顔からは言葉通りの自信を感じる。それでも、あたしの中に残ったわだかまりは消えなかった。

だからか、私は頷くだけで、先輩から目をそらしてしまった。

「・・・・・・そういえば、まだ話の途中だったな」

「・・・・・・何が?」

唐突に新史がそう言い、こっちへ視線を向けてきた。

自分からはぐらかせたくせに何言ってるかと思ったけれど、どうも様子が違ったのでとりあえず首をひねった。

「今回の計画。お前はまだ納得していなかっただろう?駅では途中になってしまったが、別に隠すつもりは無い。ただ、余り人のいるところで話せるような内容でもなかったんでな」

「ああ、その話ね」

そう言えばそうだった。

むしろどうしてそれを忘れていたんだろう。

多分、あの二人があんなに楽しそうに話しているのを見たからだろうけど。

楽しそうに笑ってる京花を見て「これでいいだな」ってなんとなく感じてしまった気がする。

だからか、あんなにむきになっていたにもかかわらず、余り興味が沸いてこなかった。

「あの二人はな・・・」

「もう、どうでもいいわよ。あの子がこれで戻ってく・・・」

「聞け」

被せるように手を振って止めようとしたら、更に被せてきた。

「何をそんなに聞かせたいのよ?こっちはもういいって言ってんでしょ?」

「馬鹿を言うな。お前のような奴でも理解しやすいようセリフを考え、何回か説明するシミュレートをし、その上暴力的なツッコミから身を守るための動きまで考えたのに全部無駄になどできるか!」

「んなもん知るか!ていうかそんなどうでもいい理由すら真顔で言うの止めなさいよ!冗談に聞こえないじゃない!」

「当然だ!冗談ではない」

「実際、マキちゃんが来るまでずっとツッコミをかわす練習してたからね。目立たないように」

「説明無駄になる前提の動きじゃないそれ!って、折笠先輩のっかってどうするんですか!?こういうの止めるのが先輩のポジションでしょ!?」

「いや?どっちでもいけるよ」

「いかないで!お願いですから!」

な、なんなの?

こんなこんな空気だったっけ今?

何でいきなりボケ倒してんの、こいつらは!?

「あーーー、もう!わかったわよ。聞けばいいんでしょっ!聞けば。そのかわり、説明するなら満足のいくまできっちり聞かせて貰うから覚悟しなさいよ!」

さっきとは違う意味でどうでもよくなったあたしは、 テーブルをバシッと叩いて身を乗り出した。

それに新文はたじろぎもしないで、自分の横をぽんぽんと叩いた。

「なら来い」

「おお!大胆ですね部長。どんな心境の変化ですか?」

「新文・・・・・・。ふざけてるなら怒っていいのよね?」

「ち、違うっ!来ればわかる!ふざけてないから怒るな!拳を下げろ!」

「・・・・・・わかったわよ」

しぶしぶ立ち上がって折笠先輩と入れ替わるように移動する。

これで何がしたいのかと思いながら、背もたれにもたれかかると、新文が何かを差し出してきた。

「使え。今いいところだ」

「何これ?」

「イヤホンだ」

「見りゃわかるわよ!これが何だって聞いてるのよ!」

「後ろの会話が聞こえる」

「へ?」

半信半疑でとりあえずつけてみる。と、確かに聞き覚えのある声が聞こえた。

「盗聴してたわけ!?」

「あの男が派手にテーブルをダメにしていたんで、とっさにこいつを仕掛けてその席に移動してもらったのだ。前もって用意していたわけじゃない」

「盗聴器自体は用意してたんじゃない。趣味悪いわよ。それに席の移動なんてそう簡単に店員に頼めるわけ・・・・・・」

「御冷やお持ちしましたー♪」

「あ、どうも。えっと・・・・・・」

冷めた目で新文を問い詰めようとしていたところに、女性の店員が水を持って現れた。

とっさに何か注文しなければいけないかと思ってメニューにを手に取ろうとしたけれど、店員はあたしを見向きもしなかった。

「さっきの話ですけど、今週の土曜日シフト開けてもらったんですよー♪さっそく二人で行きませんか?待ち合わせしたいからアドレスも教えて欲しいなー♪」

「うん。いいよ。じゃあ、今週の土曜に。場所は白木駅でいいかな?」

「わー!ありがとうございます♪楽しみにしてますね!」

あたしが呆気にとられている間に、店員は満面の笑みで下がっていった。

「まあ、そうやったわけだ」

新文は淡々とそう言って特に反応もない。

ってことは、表に出ないだけで、折笠先輩。結構手広いな。それに早い。

やっぱ誰にでも本性ってのはあるのかね。

「仕方なくって奴だよ」

あたしの表情で悟ったのか、またしてもあのイケメン顔はそう言ったが、あの高校生ぐらいの店員の嬉しそうな顔が不憫でならない。

「その通りだ。それに、こいつなら後腐れの無い関係を作るのは慣れている。悪いようにはせんさ」

なんでそんなもんに慣れてんのよ。

っと、ちょっと自慢げな新文にツッコンでやりたかったが、いい加減疲れてきた。

抵抗はあるけど、興味がないわけでもないし。

ごめんね。京花。

渡されたイヤホンを付けた。

さっきまでの笑い声とは違って、落ち着いた京花の声が聞こえた。

『私にはもう、死ぬしかないんだ』


・・・・・・はあっ!?

時期的に体調管理が難しい季節になりましたねー。

これからはまた週一。もしくはより早い更新を目指してまた頑張らせていただきます。

こんな作者ですがこれからも付き合っていけるという根気強い読者さま方、どうぞよろしく。

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