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結界の魔法使い  作者: おぎしみいこ
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9.魔法

午後からはアンドレアの講義だ。お迎えが来て連れていかれたのは魔導士団の訓練場だった。魔導士の制服は緑で形は王直属の騎士と同様だったが、騎士の制服よりもだいぶ濃い緑だった。アンドレアは魔導士たちが魔法の訓練をするのを見ているところだった。


「アヤ殿!こちらです」


手を振りながら走ってこちらに向かってくる。やはり全力だ。というか魔導士たちの指導はもう終わったのだろうか?見ると魔導士たちはアンドレアと共にいた女性から引き続き指導を受けているようだった。


「ようこそお越しくださいました!さあ訓練を始めましょうか」


体をほぐすためなのかジャンプを始める。よくわからないが私も真似をしてジャンプすると嬉しそうだ。どうやら一緒にジャンプするので合っていたらしい。腕をぐるぐるしたり体をひねったり、まるでラジオ体操。楽しくなって一緒に盛り上がってノリノリだ!


「素晴らしい!」


何かよくわからないがアンドレアが誉めてくれる。体操は終わったようだ。


「では魔力を動かしてみるところから始めましょう」

「あ、午前中フレイから教わって少しできるようになりました」

「素晴らしい!それでは手のひらから出してみましょう」


私は左の手のひらを上に向け、その上に魔力が出るように念じてみる。また力が入って呼吸が止まってしまった。でも先ほどのフレイが言っていたことを思い出して深呼吸をし、力を抜いた。

手のひらからぽわっともやが出る。


「出た!」

「出ました!」


2人で盛り上がる。手のひらで小さく魔力がもやもやしている。


「…これをどうしたらいいですか?」

「これで火や水、風、雷を呼ぶのです。このまま塔に移せば結界が強化できます」

「これを塔に移したらいいのですか?ひょっとしてもうできますか?」

「まだまだ量が足りません。結界を強化するにはせめてこれくらい」


そう言ってアンドレアの手から出てきたのは、蒸気機関車が煙突から蒸気を噴き出すような、そんな勢いのある魔力だった。勢いで周囲に風が巻き起こる。


「すごーい!じゃあ団長が結界を強化したらいいのではないですか?」

「私の力では無理です」

「こんなにすごいのに?」

「量ではなく種類ですね」


この世界の魔力ではだめなのだそうだ。結界の魔法使いが持っている「力」でないと結界を強化できないらしい。


研究者たちは初めに込めたのが異世界の人の力だったから、それと反発してこの世界の魔力が合わないのかと思ったようだ。少し離れた実験場にもう1組の結界の塔を作り、初めからこの世界の魔力を込めてみたらしい。だがそれでは全く結界として機能しなかったため、やはり異世界人が持っている力の種類が重要なのだろうという結論に達していた。


「だからあなたがこのように出すことが必要です」

「その量を出すのにどうしたらいいですか?毎日出し続けていたら増えますか」

「毎日極限まで出し続けることで自分の中の魔力量自体を高めていくこともよいのですが、放出量はコツをつかむと段違いに増えます」

「そのコツってどのようなものなんですか」

「私は体の中の魔力を回転させるようにしました。他の者は波打つようにしたり、トントンと一定間隔にしたりすると言います。堰き止めて決壊させると表現した者もいます」


多分、魔力量自体は私の中にはもう十分量あるはずだと団長が言った。神に託されてからこちらに来ているのだから、増やすことは可能かもしれないがもう持っているはずだと。

こちらの世界の魔導士たちはもともとの素質はあるが魔力量は訓練によって増やすもので、使い方も後天的に学ぶものらしい。その人がどれくらいの魔力量を持っているのかは先ほどみたいに出すのを水平方向にし、距離を測ることで数値化する。


「まずは持っている魔力を自由に動かせるように訓練していきましょう。その後で火や水などに変換しましょう。ただそれができなくても結界の強化はできるので任意となりますが、できた方が楽しいですよ!」


あ、最後の方に本音が出た。

確かに元の世界に戻ったらできないことなので、こちらではしっかり使いこなして楽しみたいところだ。手から火の龍とか出ちゃったらかっこいいじゃない!雷ドーンとか魔物も一掃できそう。風を操れば空を飛べたりするのかな。あー、飛んでみたい!ぜひ!


「横に向けて出してみてください」

「こうですか」


掌を正面に向けてもやっと出してみる。あ、さっきより出た。30cmくらいかな。


「そうです。頭の中に描く像が大切なので、どのように出すのか考えながらするといいですよ。ちなみに私はこう回転させるような感じです」


右腕を伸ばし、手首より先を右回転させる。先ほどの蒸気のような魔力はそのままの勢いで、でも広がりが少なく直径10cmくらいの円柱状でまっすぐ伸びて、距離はかなり長かった。まるで水が通っている消防車のホースのようだ。


「もっと細くしたらもっと遠くまで行きませんか」

「あまり細くするとこうなります」


先ほどより細く直径5cmくらいの円柱で出てきたが、目詰まりを起こしたホースのように途中で急に途絶えた。


「細いと詰まるのです。さらに先まで通そうと思うと逆に相当魔力を消費するか、技術が必要になります」


空気の抵抗でもあるのだろうか。太く勢いがある方が先まで通りやすく、細いと抵抗を感じるようになるのだろう。太い血管より細い血管の方が詰まりやすいようなものか。


「波打たせるとか堰き止めるとかはどうやるのですか」


それは本人たちにやらせよう、そう言って魔導士たちを呼びに行った。ちょうど魔導士たちは訓練の合間の休憩中なのだろう。三々五々に散って休憩している。団長は近くまで行くと大声で数人の名前を呼んで集めてきた。そしてそれぞれに魔法を打たせる。

波打つ人は出すときに腕を波打たせていた。出てくる魔力は幅10cmくらいの大きなきしめんのようだ。それがなみなみしている。

堰き止める人は「はっ」という掛け声とともにぼんっとソフトボールのようなものが出てきた。一定間隔で出す人は本当にトントントンという感じで濃いところ薄いところがある、10cmくらいの円柱で出てくる。

距離は魔力を飛ばせばいいようで、棒状に伸ばす人もいれば球状のものを飛ばす人もいる。出し方は問わず、どれであっても魔力量が多い方が遠くへ伸びたり飛んだりする。

見本を見せてもらって、また自分で出してみる。が、やはり30cm程度でしかももやっと広がっている。

全然だめだ。

団長もすぐには無理ですよ、と励ましてくれる。今まで0だったのが今日初めて30cmなのだ。むしろ上出来だろう。私すごい!


その後は雑談だった。あっという間に私に対する敬語もなくなった。

魔法が初めて使えた時のことを知りたかったけど、もう覚えていないらしい。それよりはフレイから愛妻家と聞いていただけあって、家族の話が多かった。団長の奥さんは王妃様付きの侍女だ。侍女は使用人のように身の回りのお世話が中心ではなく、秘書的な感じで予定を管理して生活やお仕事を補佐し、時には教師ともなる役割らしい。侍女自身に高い教養が求められる。

若いころから魔力量が多く団長候補と言われてきたアンドレアは王妃様の覚えもよく、王妃様の紹介で奥さんに出会い結婚した。話を聞いていたら、気の強い奥さんが勢いよく飛び出ていくアンドレアをうまくコントロールしている姿が想像できた。子供は娘が3人で、上2人はもう嫁いでいる。年の離れた3番目はようやく婚約が調ったところだという。


「長女にはフレイに嫁いでもらおうと思っていたんだ」


へー、そうなんだ。

昔からフレイとアンドレアは仲が良かったようで、フレイが15歳で王都に出てきたころかららしい。初めはフレイは騎士見習いで、治癒魔法に優れていたフレイには戦闘時に何度か助けられたようだ。


「でも提案するとあっさり断られたよ。自分は多分一生結婚しないってね」


おっと、結婚してブラック企業内でも休暇を取ってもらおう計画がいきなり断念だ。午前中に考えたフレイを休ませよう計画についてアンドレアに話すと、アンドレアは大笑いした。


「あいつは何だっけ、社畜?まさにそれ!仕事から離れることなんてできないな!一度体を壊したらいいんだよ」


昔から休めと言っても全然休まなかったらしい。言い続けても変わらないフレイを見て、アンドレアは一度体を壊して痛い目にあえばいいと言った。だが、心配している感が全面に出ている。息子がいたらこんな感じなんだろうな、とつぶやいた。息子とは父親の言うことをほとんど聞かない生き物だと周囲も言っているらしい。まあ確かに成人した後に「お父さんが言ってたから」という男の人はちょっとやだなと思った。


「でもアヤもそう思うなら何か工夫をしてやってほしい。あいつの長年の憧れの漆黒の魔法使い様だから、アヤの言うことならさすがのあいつも聞きそうだしね」


アンドレアはフレイの体を心配した私を優しいといった。元の世界では労働基準法があり、就労時間は週に40時間と決められているから私には当然だと思うようなことだ。でもこの世界ではそういうものの概念もなく、休息が大事だという考えをする人は少ないのだという。


「僕は妻や子供の買い物に付き合わされるばかりだけど、でもその時にする会話や楽しい食事がとても気に入っていて、癒されているんだと思う」


だからそれをフレイにもと思うらしいけど、どんなに言っても受け入れてもらえない。ずっともどかしく思っていると言った。それ以外の話に関しては結構聞いてくれるんだけどね、と寂しそうに言う。


「あいつは少し家族関係が難しかったから、何かとこじれてしまったのだろうけど」


生い立ちにいろいろあるのかな。

そこまで話したところで副団長だという女性に団長が呼ばれた。副団長が別の仕事で呼ばれたから、魔導士たちの指導を代わってほしいと言われているようだ。

私の指導は休みの日以外の毎日だけど、毎回それほど長くは必要ないからと言われた。明日も同じ時間にお迎えを来させると言って実技指導は終わりになった。


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