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結界の魔法使い  作者: おぎしみいこ
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6.図書館

おはようございます。

毎日朝と夕に出す予定です。

翌朝目が覚めると陽はかなり高く上った時間だった。厚めのワインレッドのカーテンが掛けられているため、複数ある窓からの光はある程度遮られている。目を開けてから数秒は自分がどこにいるのかわからなかった。ぼーっとして考えていると、目まぐるしく変化した自分の環境をゆっくりと思い出した。さらに夢の内容もしっかりと覚えている。ここまでしっかりと覚えているのは、あれは夢ではなく意志を持って創造者が自分に伝えに来たからなのだと思った。


起き上がると少し体が重い気がした。ゆっくりと伸びをして枕元の水差しからコップに水を入れ、一杯飲み干す。眠気はない。体が疲れているというよりは色々なできごとに頭が疲れているような感じだ。

浴室に行くと浴槽のお湯は適温だったため、かごに入っていたタオルのような布で髪をあげてお湯につかる。

はあ、気持ちいい…

根っからの日本人気質でのんびりしていてはダメな気がしたから、顔を洗ってそこそこで切り上げる。元の世界ではお休みの日でも8時までには起きていた。平日は早朝の雰囲気が好きで毎朝5時起きだ。どんなに疲れていても昼まで寝ていると頭痛が出始める。それに1回食事をしないというのがもったいない!大事です、食事!もう一杯水を飲んでから居室の方へ行くと、マリアとエレナが話をしているところだった。


「おはようございます。よくお眠りだったようですね。ゆっくりとお休みになられましたか」


朝食の時間の少し前にエレナが起こしに来たようだけど、私は全く起きずそのまま眠り続けていたようだった。お腹がすいていることを伝えるとすぐに朝食が運ばれてくる。そろそろ起きるのではないかと思い用意させていたとのこと。すばらしい!用意されたシンプルなワンピースに素早く着替え、席に着く。


「先ほどフレイ様が来られましたが、まだお休みであることをお伝えしましたところまたお昼前に来られるとのことでした。よろしかったでしょうか」


今何時くらいなのだろう、と思って部屋を見回すと、時計がある!この世界ってところどころ文明が進んでいるんだよね。きっと以前に来た結界の魔法使いが時計職人だったりしたのかも。でもまだ時計は高価なようで、一般家庭には普及していないとマリアが教えてくれた。朝の6時、正午、夕方の6時に教会の鐘が鳴るから、それに合わせて人々は生活している。朝の鐘、全く聞こえなかったな。今は9時半だ。だいぶゆっくりとしてしまったようだ。

朝食はサラダにパン、ハムエッグとフルーツだ。まるでアメリカンブレックファースト。今日もイタリアンコックが腕を振るっているのだろうか。彼は一体どんな経歴のコックなのだろう。私は人の経歴などの話を聞くのが大好きだ。今度厨房まで訪ねてみたいところだ。

そして野菜や果物の種類の豊富さ。文明や人類を輸入しているこの世界だ。植物なども他の世界から輸入しているのだろうか。元の世界と大して変わらない朝食が出てきた。飲み物もグレープフルーツジュースである。気分はVIPルームの海外旅行だ。ただしおひとり様でお仕事付き。

食事の後は歯磨き。歯ブラシはさすがにないようだけれど、木の枝の先がふさふさになっている簡易の歯ブラシみたいなものを使う。見た目は堅そうに見えるけど意外といい弾力で、これはこれでありだと思った。この世界、何かと満足度が高いな。


使用人から連絡がいっていたのか、ちょうど準備が終わってほっと一息ついたところでフレイが訪ねてきた。秘書がいる生活ってこんな感じなのかもしれない。時間に無駄がない。2人でテーブルの席に着き、エレナがお茶を淹れてくれた。


「おはようございます。よくお休みになれましたでしょうか」

「…はい、多分」


なんだか微妙な返事になってしまった。眠気がないから眠っていたのだろうけど、あの密度の濃い夢のような創造者の説明があったのだ。あまり気が休まった気分でもない。これもまた全く時間に無駄がない話だ。このペースのままミッションまでまっしぐらなのだろうか。ハイペース過ぎていずれ倒れそう。

思わずため息をついていたようだ。「お疲れのご様子ですね」とフレイは心配そうだ。


「1日2日遅れたところで大した違いはありません。今日はゆっくりお休みになられてもいいかもしれませんね」

「あ、でも何もすることがないのも退屈なので大丈夫です。疲れたらちゃんと言うようにします」


実際何もすることがないのは退屈だろう。今後の方針とか計画とか聞かせてもらえるなら聞いておいた方が安心もできる。あ、あとは図書室の場所とか散歩で行ける素敵な中庭とか案内してもらおうかな。がんばって文字を覚えてこの世界の本を読んでみたいし。どんな本があるのだろう。本好きの私としては王城の図書室なんて興味がありすぎて興奮してしまう!西洋のお伽話で美女が野獣の城に行くお話では、本好きの美女に特大の王城の図書室が与えられていた。そんな図書室を王子様に贈られちゃったりしたら私だってころりと惚れてしまうよ!なんてくだらない妄想をしていたら、フレイが私の心を読んだように言った。


「何かしたいことがあるのですね。教えていただけますか」

「えっ」

「顔に出ていますよ」


恥ずかしくて両手で頬を覆う。いや、覆わねばならないのは頬ではなく顔全体だ。なんて自分で突っ込みながら「すみません」と謝っておく。


「えーっと、今後の方針とか計画とかそういったこととかを聞かせてもらおうかなと思いまして」


顔の筋肉を落ち着かせて真面目な部分だけ話すと、「それだけですか」と微笑みながら聞かれる。


「まあ、あの、図書室とか、本を読むのによさそうな中庭とかも案内してもらえたらな、とか、文字も教えてほしいな、とか…」

「本がお好きなのですね。それでは今日は城内を案内させていただきます」

「いえ、フレイ様はお忙しいのではないですか?あの誰かお時間のある方で構わないのですが…」

「フレイ、とお呼びください。今私はあなた付きの指南役ですから時間は十分にありますよ」

「え…、あの私は教えていただく方ですし、多分あなたの方が年長ですし、その呼び捨てにするのは…」


マリアよりも呼び捨てにしにくい。フレイって家庭教師みたいなものじゃないのかな。先生を呼び捨てって日本人には無理だろう。マリアもフレイを様付けして呼んでいたからきっと身分とか役職が上の方なのだろう。


「フレイと呼んでくださらなければ、私は他の方々に顔向けができなくて図書室にはご案内できません」

「えーっ!なんで?!」


思わず素が出てしまう。図書室の案内を引き合いに出されたのは困る。暇つぶしに行きたい、図書室を贈られた美女の気分を味わってみたい!ぜひ!


「話し方もそのように砕けていても構いませんから」

「わ…わかりました!わかった!フレイ!これでいい?」

「上出来です、アヤ様。では今から参りましょうか」


フレイは自分の希望が通って楽しそうな様子が子供っぽい。この人、大人の落ち着いた雰囲気だと思っていたけれど、違うのかな??それにしても私は呼び捨てなのにこの人が様付けってのもまた居心地が悪くてずるい。じとっと睨んでいると通じたようだった。

「ずるい、といった感じでしょうか」と少し困ったように言う。


「私も譲歩したんだから、フレイも呼び捨て禁止!敬語も禁止!」

「命令であれば仕方がありませんが…、でも話し方については難しくて…職業訓練以降、誰に対してもこの話し方になってしまって」


フレイは第一研究所というところで結界の魔法使いについて研究している研究員らしい。だけど研究所自身が中央神殿所属だから神官でもある。それでこの神官っぽいローブなのか、納得。今の主な仕事は研究と後輩の指導、経理的なやり繰りだが、研究所に入ったころはまず神官の仕事が中心であり、孤児院の仕事や街の人の悩み相談などもしていた。人と話すとき、神官としては誰も差別をしないという趣旨から全員に敬語で話す。そこから友人に対してもこういった話し方になってしまったらしい。

それなら仕方ないか。様付けを外してもらうということで了承した。


フレイについて部屋を出ようとすると、エレナがショールをかけてくれた。日当たりのいいこの部屋は暖かかったけど、外は少し冷えるようだ。部屋を出ると護衛がついてくる。


「アデル!アデルが護衛をしてくれるの?嬉しい!」


護衛の1人はアデルだった。騎士見習いだから1人での護衛はできないが、先輩と一緒にならできるらしい。私と仲良くできそうだからと騎士団長が配慮してくれた、とアデルが嬉しそうに教えてくれた。なんと、リカルドもいるらしい。交代制で後日ついてくれるそうだ。楽しそう!でも護衛は仕事中には私語厳禁とのこと。仕事に差し支えが出るからあまり雑談はできないのだろう。アデルとだったら雑談も止まらなさそうだしね。護衛は常に女性が1人入る。女性しか同伴できない場所もあるからということでそうなっているようだ。


私たちは図書室へと向かう。隣接する中央神殿の研究用図書室も併設しているため、王城の図書室はかなり大きい。王城の中でも中央神殿寄りの位置にあって、図書室というより図書館の規模の建物らしい。閲覧室や会議室、個室の勉強部屋、食堂まで完備されている。元の世界の図書館だとしてもかなりハイレベルなクオリティの設備だ!これは期待できる!例えこの図書館を白馬の王子様に贈られなかったとしても、1日中そこで過ごせたら絶対幸せだ!

王城の建物を出て回廊を通り、隣の建物へと移動する。え、ひょっとしてこれが図書館?!大きい!私のわくわくも一気に膨らむ。

衛兵が大きな両開きの扉を開けてくれる。

中に入ると広い通路だった。吹き抜けで天井が高く、大きな窓から入る光で明るい。右の扉は研究所員や騎士などが使う食堂のようだ。同じように吹き抜けで明るく、人気のある食堂らしい。左の扉は大きな会議室。2階3階は小会議室、個室となる。

通路を進んでもう一つ扉をくぐるとそこは、3階の高さ以上に高く吹き抜けた大きな図書室だった。


「うわぁ、すごい…」


思わずため息が漏れる。

床は寄木張りで、よく磨かれていてつやっとしていた。そして四方の壁沿いに本棚がある。3階建ての高さで本棚が備え付けられており、1階ごとに区切るように通路がつけられていた。すべてこげ茶の木で作られており落ち着いた感じだ。一見暗くなりそうな色合いだが、3階以上の部分にある大きな採光窓からの光が暗さを感じさせない。壁と天井は真っ白で、窓から入った光を柔らかく反射している。

広さは学校の体育館以上だろうか。木製の床には本棚と同色の木で作られた机と椅子が並べられている。椅子は一つ一つが大きく、ひじ掛けもついている。

思っていた以上のクオリティだった。これは元の世界でも文化遺産に指定されるような、修道院図書館とか大学図書館のようなものだろう。スペインの大学図書館の写真をみたことがある。一度は行ってみたい図書館20選とかに入っていたと思うけど、素晴らしいところがあった。サラマンカ大学だったかな。まるでその図書館のようだ。

天井が高く広いわりに室内は暖かく、聞くと床下に温水が通るような仕組みがあり温められているとのことだった。この地域は温水が湧き出やすく、建物の1階を温めるのに使われているようだ。

それって温泉じゃない?!

お風呂には使わないのかと聞くと、街の共同浴場では使われているが、王城では階上に引き上げるのが手間のため使われないとのことだった。ただ使用人たちが使う居住棟や騎士・神官の寮では1階に大浴場があり、そこには使われているようだ。

温泉は王族以外が使っているという矛盾!もったいない!

湧き出るお湯は独特の匂いがあるため、むしろ白湯を使うのが贅沢なのだそうだ。文化の違いだ。


フレイが本棚から1冊本を持ってきてくれ、その近くの席に座るよう勧めてくれた。護衛は入ってきた扉の外と内側に分かれて立つ。


「文字は読めますか」


そう、私はここの言葉を話せるけれど読めないのだった。


「今までの結界の魔法使い様方もそうでした。ですが指でなぞると読めたという方が過去にいらっしゃいます。アヤはどうですか」


A4サイズくらいで5cmくらいの厚さがある、少し古びた本の表紙の文字を指でなぞる。すると頭の中にイメージが伝わってくる。創造者と会話をしたあの時の感覚に似ている。文字を読むというよりは意味が直接脳内に再生される感じだ。


「わかる…!」


どうやらこれは基本的な治癒魔法について書かれた本らしい。表紙を開いて文字が羅列しているページも指でなぞってみた。内容が伝わってくる。掌をかざしてみると、そのページに書かれたことがじんわりと脳内に再生される。1ページに費やす時間は指で文字列をなぞっていくのと同じくらいの速度だろうか。

これは便利だ!目を閉じていても寝ころがっていても暗闇の中でも本が読める!

夢中になって読み進めていると、「読むことができてよかったですね。本は借りて部屋でも読めますよ」とフレイが話しかけてきた。


「夢中で読んでいるところを申し訳ありません。先に説明をさせてもらってもよろしいでしょうか」

「あ、すみません」

「魔法について書いてある本はだいたいこのあたりです。結界の魔法についてはその隣で、この国の歴史・地理などがこのあたりになります」


席からすぐ近くの、先ほどフレイが本を取り出した棚あたりを指して説明してくれる。かなりの範囲をその3つで占めている。1階にあるのは少し古いものの一般的な本らしい。2階以上は新しく発表された本や研究の本で、その中から皆に正しい学説である、有益な情報であると判断されたものが1階に下ろされる仕組みのようだ。古くなった本は地下の閉架書庫にしまわれて必要時だけ出してくる。2階3階の通路に何人かいる人たちは研究者なのだろう。皆神官の服を着ている。新しく発表された学説を検討しているのだろうか。


「魔法についての本をいくつか見繕って借りていきましょう」


4-5冊手に取り、横の小部屋に向かう。1冊1冊がかなり重そうなので、そんなに一気に持てるフレイは結構力持ちだ。慌ててついていくと受付のカウンターのようなところだった。


「借りるときはここで申請してください。本は指定した部屋まで運んでもらうこともできますが、時間がかかるので余裕のある時にお願いするといいでしょう。すぐに読む1冊だけ自分で持ち、残りは運んでもらうという形でもいいと思います。返すときは自分で運んできてこちらに渡していただければ、書架には職員が戻してくれます」


所属と名前を用紙に書き申請する。何枚かもらって自分が書いておきましょうかとフレイが提案してくれたが、自分で書きたいというと後で必要な文字を教えてくれることになった。

かなりこの図書館を気に入った私はまだまだここにいたかったが、またいつでも来られるのでと言われ次に行くことになった。図書館は24時間開館しているらしい!

ビバ!図書館!


私も素敵な図書館でぼーっとして過ごしたいです。

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