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結界の魔法使い  作者: おぎしみいこ
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50.結界強化再び

翌朝、エレナが兵舎から持ってきてくれた朝食を食べる。

フレイとのごたごたも一旦休戦でき、実際に最後の魔物の襲撃を見て、やる気は満ち溢れている。この勢いのまま結界強化に挑みたいところだ。


塔の部屋は小さいながらも居心地はよかった。ベッドもいいものが入っていてゆっくりと眠れた。2階に3部屋あり、フレイとはやっぱり隣同士だ。1階の居間で朝食を摂っている。塔へは屋根のある道を通っていくと、ほんの数分で行きつく。この少しの距離が大事なのか、核とは共鳴せずに過ごせた。ただ今は核も弱っているから共鳴していないのかもしれない。今後は核に力をこめることによって、この部屋でも私の力と核が反応しあうかもしれないと思った。その場合フレイはまた魔力酔いのような症状が出るのだろうか。そうなったら兵舎の方に移ってもらわなければならないだろう。


フレイも準備は万端のようだ。顔色も悪くない。

「行きましょう」という私の声で全てが動き始める。


塔にはすでに研究者たちがスタンバイしている。

塔に近づくにつれ、やはりまた気分が高揚し始める。核に私の魔力が反応し始めたのだろう。

ということはフレイにも魔力が干渉してまた気分不良に陥っているのではないかと思い至った。2回目だからか私にも余裕ができたのだろうか。

フレイの方を見ると意外と平気そうだった。作戦は成功したのかもしれない。


実は前回フレイが魔力酔いで倒れてから、なんとしても今回の結界強化に立ち会うために色々と方法を調べ始めた。そして至った結論が「結界の魔法使いの魔力に染まること」。同じ雷属性を持つ王子が平気だったことから、私の魔力を纏うことによって核の影響を相殺しようという考えだった。

初めに聞いた時にはさっぱり意味がわからなかったけど、結局は私の魔力をフレイに流して、それを体内に留まらせるというものだった。方法としては一番初めにしたように、手からフレイに魔力を流すことにした。

直前に一気にするよりは、少しずつ毎日する方がいいのではとなった。初回に私が張り切ってフレイに流し込んだら、魔力酔いの症状が出たためだ。

でも人前でするのはなんだか憚られたため、夕食後にフレイが書類仕事をしている時や、悪夢にうなされてフレイの部屋に行った時、出かける時にはぐれないように手をつないだ時など、隙間時間を使って流し込むようにしていた。ごたごたして数日あまり口をきかなかった時は中断したけれど、昨日は最後の仕上げとして岬の草原でまた少し補充をした。繰り返すことによってフレイに流し込んでも大丈夫な魔力量は増えていたから、耐性がついたのか慣れたのか、よくわからないけど効果がありそうだとは思っていた。


「大丈夫そうだね」

「ええ、あなたの魔力を纏っているからでしょうね」

「作戦成功だ」


フレイも嬉しそうに笑う。よほど結界の強化に立ち会いたかったのだろう。

問題なく塔の中へと入っていく。私が入るとやはり塔の内部がぼうっと光るようだった。階段を登っていく。核に近づくにつれ、私の気分もやはり高揚してきた。

前回同様、風が吹き始める。近づくにつれ、暴風となっていく。一緒に歩いていたフレイもある程度の距離からは近づけず、壁に沿っていた。


「アヤ」


前回同様、脳内に話しかけてくる声が聞こえる。創造者だ。


「よくここまで来てくれたね。ありがとう。今回は前回より少し難しいから気を付けて。前は力を押し込む感じだったと思うけど、今回は勢いよく引き出されていくからそれを制御するんだ。以前引き出されすぎて命が尽きてしまった人がいるから、君も気を付けてね」


なんと、亡くなった人は焦って力を出し過ぎたのではなく、引き込まれるのを止められなかったようだ。


「わかりました。あの、今回私は何回くらい力をこめることになりそうですか?」

「君は今までの中でも一番と言っていいくらい力を入れる器が大きくてね。だから過去の人よりも少なくて5-6回くらいで足りるんじゃないかな」

「わかりました。それでは始めます」


私の言葉を聞いて、研究者たちに緊張が走る。

私は気分の高揚を感じるものの前回ほどではなく、ある程度気持ちを制御できているようだった。多分そうでないと引き込まれるのを止められないのかもしれない。


私は力を右手に移動させ、核に近づいた。


「わっ」


思ったより手前から引き込みが始まった。かざした手のひらからすごい勢いで力が抜き取られていく。約50年ぶりの補充だ。核の吸引力も強いのかもしれない。

高揚感は一気に消失し、恐怖と焦りが出てくる。


どこまでで止めたらいいのか??


引き込まれていく力の速さに、自分の体内に残るものがどれくらいなのかを感知することができない。

できるだけ多く入れたい。でも止めるところを間違えると命まで持っていかれてしまう。

その兼ね合いがわからぬまま、恐怖が増してくる。背中を汗が伝う。体はものすごく緊張しているようだ。

手のひらからはひたすら引き込まれる魔力の速さにただただ恐怖を覚える。


違う!

集中するのは手のひらじゃない。残りの魔力の方だと自分に言い聞かせる。

自分の体の中、残っている魔力を探るように集中する。薬草を乾燥させていったときに感じた、自分のエンプティマークのラインを探る。

どれくらいの時間が経ったのかわからない。自分のことでいっぱいいっぱいだ。

魔力はあともう少しだろうか。


不意に空腹感に近いものを感じたような気がして、慌てて手を引いた。


「今日はそこまでにしようか。ありがとう、アヤ」


創造者が声をかけてくれる。私の空腹感はあながち間違いではなかったようだ。よかった。

安堵のため息をつく。

ほっとしたら一気に力が抜けて、座り込んでしまった。

周囲の風も一気に止む。見るとフレイが心配してこちらに駆けてきた。


「大丈夫ですか?!」


以前と少し雰囲気が違ったのに気づいたのだろうか。高揚感ではなく、恐怖や焦りが大きかったということに気づいていたのだろうか。

疲労感から倒れてしまいそうになる私の体を支えてくれる。


「大丈夫…」


思ったより自分の声が小さくて驚いた。

心配したフレイが私を横抱きに抱える。シモーネに後のことを任せ、塔を降り入り口の衛兵にエレナを呼ぶように伝える。

私は抱きかかえられたままだったが、意識は失わずにいられた。でも自分の手を見ると細かく震えている。全身もものすごく汗をかいていて、風が吹くと寒気がして体が震えた。

フレイによって部屋のソファに座らされる。


「エレナがすぐ来るはずです。着替えてからベッドに横になられた方がよいかと」


アデルが体を拭くために布と桶を持ってきてくれた。エレナは昼食も持ってきてくれたようだった。

フレイは部屋の外へ出て、女性2人によって私は体を拭いてもらい、着替えてベッドに横になる。

顔色が悪いのか手が震えているのがわかるのか、2人ともずっと心配して声をかけてくれる。私は声を出すのも辛くてただ頷くだけだった。

あまり時間が経っていないように感じたが、実際には軽く4時間くらい経過していて昼は過ぎていた。けれど私は食欲がなく、スープだけ飲んで横になる。

でも寒気が引かない。

エレナに相談し、お風呂を入れてもらうことにした。2人がせっせと用意をしてくれる。


ありがたいな…


自分の体調が悪い時に、誰かがお世話をしてくれるというのが嬉しかった。2人が忙しそうに動いているのをじっと見ていると、じきにお風呂の準備ができた。

腕を支えてもらいながらゆっくりと浸かる。


「ふあああぁっ、気持ちいいー…」


思わず声が出てしまう。汗で冷えた体に温かいお湯はとても気持ちがよかった。

あまりに気の抜けた声にエレナもアデルも笑っている。


「よかった…落ち着いた?」


立ち合っていたアデルも、前回とは私の様子が違うことに気づいていたようだ。


「前はもっと押し込む感じで押していて、楽しそうに見えたよ。でも今回は辛そうだった。何か怖がっているというかそんな感じに見えて心配だった」


横にいてくれるアデルに、創造者から聞いた5-6回かかるということや、引き込まれ過ぎたら命を落とすこと、実際にやってみたらどこまでで止めたらいいのかわかりにくくて、怖くて焦っていたことを伝えた。


「じゃああと4-5回これがあるんだね。わかった。今度からはすぐにお風呂に入れるようにして、スープも用意しておくよ。他に何かできることはある?後で手や足を揉んであげようか?」

「あー、揉んでほしい!」


エレナが階下から水とスープのお替りを持ってきてくれる。


「どちらか飲まれますか?」

「スープ!」


お行儀は悪いのだろうけど、私はお湯に浸かったままスープを飲む。コンソメスープのようで、塩味が体にしみる感じだ。

飲み終わると2人が両手をマッサージしてくれる。気持ちよくて身を任せていると、徐々に手の震えも取れてきたようだった。それと同時にお腹もすいてきた。体が温まってくつろぐと、冷たい水がおいしかった。


どうやら私の体は交感神経が高ぶっていたようだ。ずっと緊張状態に置かれて戦闘状態のようなものだったから、交感神経が高ぶりすぎての症状だったみたいだ。

くつろぐことで副交感神経が優位になってくると、体はいつものように戻ってきた。


少し冷めてしまったけど、昼食を食べる。

食べたら案の定眠くなってきて、そのまま翌朝までぐっすりと眠った。


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