5.神とは
本日2話目です。
夢の中で神様に会った。
会ったというか話しかけられたというか。景色はただただ明るい暖かい光のみで、声が聞こえてくる。聞こえるというよりは頭の中にじわっと伝わるような感じだ。
「アヤ、聞こえるかい」
その神様と思われる人が話しかけてきた。なんとなく少年のような雰囲気だ。
「はい、聞こえます」
私が答えると満足そうに「伝わったな」と言った。
「急にこの世界に連れ出して悪かった」
なんと、神様に謝られた!
私は驚いて固まってしまった。神様ってそんなキャラなんだ?
「でも結界の強化に前向きに取り組んでくれそうだから嬉しいよ。色々とわからないこともあるだろうから説明をしようと思って」
そう言って神様は話し始めた。
実は神様は複数存在して、「世界」というものは神様の数だけあるらしい。「世界」というか「宇宙」というのだろうか。地球を含めた銀河系からさらに外側、宇宙空間まで含めたものが、神様1人につき1つあるらしい。
えーっ?!それでは宇宙は拡大しているけれどやっぱり果てがあって、外には他の宇宙がいくつもあってそれを神様が見ているなんて!
地球の宇宙研究者からすると大変な話だ。宇宙の果てには何があるのかという疑問に対して、答えは他の宇宙があるのだということだ。神学者も驚きだろう、神様は宇宙1つにつきお1人です、なんて。多神教の国からするとトンデモナイ話だ。いやこの場合のこの人(?)は「創造者」であって私たちの思う「神様」ではないのかもしれない。創造者はこの人で、神様は地球に何人もいるという設定なら神学者にも怒られないのだろう。これ以降はこの人たちを創造者と呼ぶことにしよう。
私が連れてこられた世界を作ったのはこの若い創造者らしい。元の世界を作ったのはもっと年長な創造者。せっかく世界を作ったのだからと皆生き物がいる世界になっている。その進化を見て楽しむらしい。初めからじっくりと、単細胞から多細胞生物になるのを見守る創造者もいれば、少しだけ進化した生き物を他の世界からもらってきて移植する創造者もいる。気に入った生き物を連れてきて住まわせたり、文明を発展させるために職人さんを連れてきたりもする。過去に地球にも異世界の進んだ文明の人たちを入れたことがあるらしい。まだ南極大陸に氷が張っていなかった頃、そこに1つ国ごと移動させてきた。国としては根付いてあちこちにその技術で建築物を建てるのを手伝いに行ったりしていたが、徐々に南極が寒くなってしまったから引き上げさせた。なんでも巨石を操る技術を持った人たちだったとか。
ピラミッドとかマヤの遺跡とかと関与しているのかな…?昔読んだ本を思い出した。南極大陸には隠された文明があったとか、なかったとか。
ここまでくるともう本当の話には思えない。フィクションだ、フィクション!
生き物を交換・移動している世界同士では似たような生き物が住んでいる。人間という生き物が多くの世界にいて、その世界同士で人間を交換し合っている。人間ができなかった世界でも猿人類を移植して増やしたりすることができる。人間になった後は魔法を使う世界、使わない世界というように多様化している。単細胞からおひとりさまで育てた世界には、猿ではない動物から人型になった世界や、透視や予知などの異能がある世界もある。
「そちらの世界には人に化けることのできる鳥を入れたことがあると聞いた」
鳥?ひょっとして鶴だろうか。助けてもらった男のもとに人の形で嫁ぎ、鶴の姿で織物をしているところを見られ去って行ってしまう話。鶴の恩返しだ。
「カメに乗せて他の世界に連れて行ったこともあるらしい」
それは竜宮城に行ったのではなかっただろうか。
どうやら行った先の待遇がすごくよくて、一生分の幸せを使い切ったからと言って帰る時にだいぶ寿命を縮めてもらって帰ったらしい。それが玉手箱の正体か。
あれらはおとぎ話ではなく、史実の伝承だったのだ。不思議な昔話や超常現象などは創造者たちのせいなのかもしれない。ひょっとしたら魔法という概念だって、魔法の世界に行った人たちがこちらの世界で話して広めたものかもしれない。魔法のない世界で魔法というものを考え付くのは難しい。実際行って見てきた人が周囲に話すことで広まっていったのだろう。でも魔法という概念は結構世界中で浸透していることを考えると、魔法の世界に連れていかれた人は全世界各地に何人もいたのかもしれない。
魔物について、どうやって発生したのかも不思議だったから聞いてみた。
「魔物は私の世界で自然発生したものではない。あれは入れられたのだ」
他の世界で進化した生き物らしく、それはそれだけの世界がある。そしてそこから人間のいる世界への移植が流行したことがあるらしい。
「人間は人間だけの世界で放っておくと、人間同士で醜い争いが始まる。だが試験的に魔物を移植すると、魔物と戦うことにより人間同士は争わなくなった」
内政外交戦略でもよくある話だ。国内で分裂が起きそうになった時には、国外に敵を作ることにより国民たちの気持ちを統一するという手法だ。「他国は敵だ」と現代でも言っている国があるように。
学校といった小さな単位すら、クラス対抗戦があるとクラス内は団結する。ただ争いが激しすぎると足を引っ張るような分子に対して弾圧が行われ、逆に人間同士がやはり争うのかもしれないけれど。
結局、魔物はおせっかいな創造者が若い創造者の世界に無理やり入れてしまった。若い創造者はせっかくもらってきて育てていた人間があっという間に滅びそうになり、慌てて他の創造者に相談した。創造者自身が操作して魔物を倒すことはできない。創造者にできることは人の移動くらいだ。そこで考えられたのが、他の世界から「器」を持った者に「力」を託すことにより、魔物を討伐してもらうというものだった。初めのころには数人一気に送り込み討伐を行っていたけれど、なかなか絶滅させることができない。だから諦めて「共存」という道を選ぶことにした。幸い魔物が湧き出ているところは隔絶されている島であったため、入り口となる魔物の島と人間の国とをつなぐ細い道に結界を張ることで人間を守ることに成功した。でもその「力」で張られた結界は時間が経つと「力」が放出されてしまって弱まる。だから定期的に私たちのいる世界から人間を借りてくることが続けられている。
そして今回白羽の矢が立ったのが私だったのだ。
「なんとなくですが状況は理解できてきました。後は「力」の使い方と、帰る方法を教えてください」
「力」の使い方については、創造者は知らないと言った。どうやら自分で使ったことがないからわからないらしい。送られていった人それぞれが試行錯誤の上、習得していっているようだ。だから皆半年から1年かかっているのか。
帰る方法は、神殿から自分に向かって祈ることにより願いが叶えられるとのことだった。神殿を経由することにより多少私の声が創造者に届くようになっているようだ。いつも聞こうと思っているわけではないから、声が届くまで祈るようにと言われた。電話がつながるまでかけ続けてくださいと言われているようで、思わず笑ってしまった。創造者業もきっと忙しいのだろう。
願った場合と、それ以外に死んだ場合にも元の世界へ帰ることになる。基本的に帰るのは消えたところと同じ場所同じ時間になる。希望があれば時間をずらすことなどはできる。
そして移動させた者には必ず夢でこうやって説明をしているようだ。
あれ、ということは、私が遠からず創造者からこういった説明を受け、帰り方を知ってしまうことは王様たちも知っていたのだろうか。だから結界を強化するまで帰り方を教えないという強制をしなかったのは高尚な思想でもお人好しでもなんでもなく、そうするしかなかったからなのか。
そこまで考えが及ぶと、素敵な人たちだから守ってあげないと!と自分が勝手に勘違いして意気込んでいたのが恥ずかしくなった。
わーっ、また勝手な勘違いやっちゃったよ!
よくやるパターンである。お兄ちゃんにも「人はあやが思うよりもっと腹黒い存在なんだよ」と言われ続けていたことを思い出した。でもまあ、たとえあの優しそうな王様が真っ黒な腹黒であったとしても、国の存亡がかかっていて困っているのは変わりない。結果がどうであれ助けるためにがんばるのは変わりないか。むしろ元気にやる気満々アピールをしたため好感度は高かった気がする。
そう、結果オーライだ!いえい!
なんだかいい気分になったころ、創造者の声も途絶え始めた。そろそろ夢も覚めるのだろうか。
「アヤ、健闘を祈る」
私の思念が伝わっていたのか、創造者は面白そうに笑った後、そう言った。