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結界の魔法使い  作者: おぎしみいこ
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4.歓迎会

連日投稿です。よろしくお願いします。

歓迎会は急でもあったからそれほど大々的にはしない。後日改めてお披露目会をするとのことだった。その時には各地の領主にも声がかけられるらしい。今回は王都にいる重役さんたちがメインで出席する。

人と人の関係は大事だ。これからのお仕事を円滑に進めるためにもがんばらないとね!それにかなりお腹がすいたし!!


私が広間に入るともうほとんど皆そろっているようだった。王様は私の後に入ってくる。王様はテーブルのお誕生日席だ。席に案内されると私は王様のすぐ横だった。周囲には王妃様たち王族が並んでいる。その後からはずらっと重臣と思われるような人たちだ。

私、ほんとにここでいいのだろうか…?

なんだか一高校生が座るのは場違いな気がする。間違えてUNICEFの国際会議に出席してしまったようだ。ああ、ユニセフって何の機関だっけ。


「今日皆にそろってもらったのは結界の魔法使いアヤ殿を歓迎するためだ。ぜひこの機会に親睦を深めていこう」


王様の口上が終わると乾杯があった。私は果実水にしてもらう。

前菜としてカルパッチョのようなものが運ばれてきた。

そうだ、このお城はイタリアンコックが活躍中なのだ!

かなり期待して気持ちが高揚してきた。そもそもローマ時代から食に熱意を持っていたイタリア人だ。フランス料理もイタリア人に刺激されて発展したらしいし。

テーブルマナーは自信がないので前に座る王妃様を見ながら真似をする。

おいしいー!さすがイタリアンコック!

まるで元の世界で食事をしているようだ。しかもおいしいレストラン!これはかなりテンションが上がる。人の三大欲求の中で一番食欲の強い私だから、食事がおいしいというのはとても大事なのだ。でも自分ではほとんど料理ができない。野菜を切るとか片付けとか面倒だった。お兄ちゃんにもこのままでは嫁の貰い手がないぞと、昭和のおじいさんが言いそうなことを言われた。でも今どきは料理のできる旦那さんをもらえば大丈夫なのだよ!

優しそうな笑顔で王様が話しかけてくれる。


「料理は口に合うだろうか。あなたと同じ世界から来た料理人が腕を振るっている。彼はあなたの前に来たばかりだから、この世界で同郷の者に料理を食べてもらうのは初めてだ。今日はかなり喜んでいるようだ」

「お部屋の使用人に聞きました。元の世界の人が料理人と聞いて、とてもお食事を楽しみにしていたんです。もう、すごくおいしくて幸せです!」


スープとパン、メインディッシュの鶏肉のソテーが出てきた。中世のパンはかっちかちだったらしいけど、ここのパンはふかふかしておいしい。焼きたてでほんわりと湯気が上がる。しっとりふわふわしていてまるで日本のパンのようだ。ヨーロッパでもこんなパンは少ないはずだ。バターを塗って食べるとほんのり甘い。

はぁーっ、幸せ!


「アヤ殿は元の世界では何をしていたのか」

「私は学生で勉強中でした。医師になろうと思っていたのですが、なかなか成績が伸びなくて悩んでいるところでした」

「医師というのは?」

「えーっと、病気や怪我の手当てをする職業です」

「この世界では神官による治癒魔法や薬師による手当てが主だから、それらを合わせたものだろうか。医学を行う者といった感じか?」

「私の世界には魔法がなかったのですが、薬の学問が発展していたので様々な薬で治療を行うのが中心でした。だから薬師と同じようなものでしょうか」


この世界では治癒魔法という主に怪我を治す魔法があるようだ。元の世界では外科疾患は手術だったが、それが治癒魔法に相当するのだろう。内科疾患に対しては薬が中心なのは同じようだが、薬学があまり発展していないらしい。他の領地にはこの国以外の地から来た薬師がいる地域があるようだが、この国の人と接することを拒んでいるため知識が広がっていない。

どうやらこの国以外にも他の国があるようだ。面白そうだなと思って聞くと、その存在自身も不確からしい。海には魔物が出るから船で遠くに行くことができない。場所によっては遠方に大陸のようなものが見えるが行った人が帰って来ず、はっきりとわかっていないとのことだった。唯一他の国についての情報を持っているだろう部族とは情報の共有ができていないため、あくまで他の大陸に他の国があるのだろうと推測されているという程度だ。

知らない大陸がまだまだあるなんて!

マルコポーロやリヴィングストンがこれから生まれるのかもしれない、そんな時代なのだ。知らない大陸を目指し探検するのだ。マルコポーロは商売のため、リヴィングストンはキリスト教の布教のため進んでいった。この国だって薬学のため、交易のためにいつかは魔物を討伐しきって外の世界に出ていく日がくるのだろうか。

いや、それともここだけ隔絶されていて他の国の文明の方がはるかに進んでいたとしたら、一気に外の文化が流入してきて文明開化が起こるのかもしれない。それともアヘン戦争のように略取されることになるのだろうか。そう考えると楽しいことばかりではなく、周囲を魔物の海に守られている今の方が平和でいられるような気もする。まるで鎖国時代の日本のようだ。他の大陸に出るときには事前に調査が必要なのかもしれない。でも魔物が海にいる限り出られないし、魔物を討伐してしまうと出られるけど入ってきてしまう。うーん、悩ましい。

1人で物思いにふけっていたらいつの間にかメインを食べ終わってデザートになっていた。しまった、味わうのを忘れていた。しかし目の前に置かれたデザートを見るとそんな過去のことは一気に忘れてしまう。

パンナコッタ来たーっ!

イタリアンデザートとしてはジェラートやアフォガードが好きだが、この世界に冷凍庫やアイスクリーム系のものが存在するかはわからない。ティラミスかパンナコッタかなと思っていたが予想は当たったようだ。添えられたソースは木苺だ。あっという間に食べ終わる。

少しお茶を飲んだ後、部屋を移動して続けることになった。着席では私と話せない人が多いからみたいだ。

移動した先はテーブルに軽食があり、立食でもいいしソファにかけてもいいというスタイルだった。王妃様が私に果実水のグラスを持ってきてくれた。


「アヤ様、お疲れではないですか。もう少ししたら皆アルコールも入るので、その時はもう抜け出しても構いませんよ」


むしろ一緒に抜けましょうと小声で話しかけてくれた。どうやら年配の男性方はアルコールが入ると長いらしい。女性陣はその段階で部屋に下がるようだ。知り合いに声をかけられ王妃様はまたあとで、と私から離れた。


「アヤ様は結界の強化に前向きに取り組んでいただけるとのこと。本当にありがたい」

「結界もそろそろ限界で我々騎士団も徐々に疲弊してきております。とにかく魔物の量がかなり増えていまして」


私に話しかけるというよりは、私の前で皆がそれぞれ好きに話しているだけのようだ。大柄なおじさん達が私の出現を喜んでくれているようだが、いろいろと大変な状況をお互いに愚痴りあっているようにも見える。


「おまえは結界を強化すると宣言していたが、大して考えもせず浅慮なことを言うな」


和やかな雰囲気だったのが、いきなり後ろから不遜な声がした。おじさん達はもう自分たちで盛り上がっていてこちらには気づいていない。

後ろを振り返ると第二王子がいた。なぜかこちらを怖い顔で見ている。

年頃は20代半ばくらいだろうか。王様と同じ金髪碧眼で、こんなに睨んでなければかっこいいと思ったかもしれない。


「やる気がないなら早く帰れ」


なぜ急にこんなことを言われているのだろう。少し眠くはなってきていたが、まだあくびはしていなかったはずだ。そんなにやる気がないように見えるのだろうか?私がきょとんとしていると畳みかけるように話してくる。


「女子供には難しいことだ。無理ならこちらに希望を持たせる前に早く元の世界に帰ればいい」

「殿下」


私が流れをつかめずに困っていると、見かねたフレイが助けに来てくれたようだ。


「アヤ様は結界の強化に対して前向きに取り組んでくださるとおっしゃっているのですよ。そのような言われ方をされますとご気分を害されてしまいます」

「どうせこいつもすぐに泣きごとを言って帰るはずだ」

「そうならぬよう支えていくのが私の役目です」

「前は支えきれずにだめだったではないか」

「殿下、以前の方のことはアヤ様には関係ありません。以前の方ができなかったからと言ってアヤ様ができないと決めつけるのはどうかと思われますが」

「ヴァレリオ」


王妃様も来てくれた。第二王子はヴァレリオという名前らしい。「アヤ様は今日はもうお疲れでしょうから」と私とフレイに退室を勧めてくれる。ヴァレリオは次に王妃様に絡んでいるようだ。フレイがその隙に私を部屋の外へ連れ出してくれた。


「大変申し訳ございません」

「前に来た人と何かあったんですか?」


フレイはため息をついて、歩きながら話しましょうと言った。


「以前来られました女性の魔法使い様ですが、こちらでの生活が合わず毎日泣いてお暮らしでした」


アデルの言っていた、泣いていた人はその人か。泣くほど嫌ならどうして帰らなかったのだろう。


「結界を強化はできそうになかったので皆帰ることをお勧めいたしましたが、その、ヴァレリオ殿下に想いを寄せられておられまして…」


なかなか帰ってくれなかったのだそうだ。そもそも2年前にその女性が来たのは、今の結界が弱ってきてからの初めての結界の魔法使いとしてだった。皆期待もしたし、あわよくば王族と結婚しその力を残してもらえないかということで、ヴァレリオ王子と引き合わせたそうだ。しかしどうしても魔法を使う訓練がいやで、フレイたちが何とかなだめようとするけれど泣いてばかりでどうにもならなかった。それでもヴァレリオ王子にはひとめぼれをしてこの国に残りたいと、結構まとわりついて困らせたようだ。1年後、結局はヴァレリオ王子に説得されその女性は元の世界へと帰っていった。


「あなたには関係のないことですが、殿下もかなり大変だったのです。そういった経緯から女性であるあなたには無理だろうと」


前の女性が無理だったから、今回も女性で無理だろうということらしい。前のように付きまとわれるのも嫌だったのだろう。それでいきなりあのけんか腰とは王子としての器が疑われると思うけど。

なんだかむかつく。

女性だから無理ってなんだ。女性差別じゃないか。私にだってきっとできることはある。きっとあるはず!こんなに困っている国を放っておくなんてできないし!

むしろ俄然やる気が出てきた。女性でもできるんだって証明してやる!


「売られたけんかはもちろん買います!女性でもできるんだって絶対に証明してやるんだから!」


私が鼻息荒く宣言すると、フレイは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。でも今日はお疲れでしょうから、そんなに興奮せずゆっくり休んでもらうのが肝要かと」


私を自室の前まで送ると、明日の午前中に伺いますと言ってフレイは帰っていった。


「おかえりなさいませ」


部屋に入るとマリアとエレナが迎えてくれた。


「疲れたよー」


思わずマリアに抱きついてしまった。食事はおいしかったけど王子がひどかったと愚痴ると、笑いながら手際よく私を入浴させ、寝る用意をしてくれた。


「また明日の朝に起こしに参りますね」


枕元に水差しとコップを置いてくれて、私をベッドに誘導し寝かせてくれる。

柔らかいベッドに体が沈むと、疲れていた私はあっという間に眠りに引きずり込まれていった。


ヴァレリオ王子は意地悪?

後日ヴァレリオ王子視点もあります。5/15あたりになりそうです。

お楽しみに~

次は夕方に投稿します。

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