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結界の魔法使い  作者: おぎしみいこ
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2.王様

本日2話目です。

王都は木と石でできた街並みがとてもきれいだった。

私は古い建築物が好きでよく京都や奈良に行ってお寺巡りをしていた。いつか海外に行って遺跡巡りや西洋の古いお城や教会を見て回りたいと思っていたが、なんだかその夢がかなったようで嬉しい。もっとカラフルでかわいい街並みが好みだけど、シンプルな石造りの家に色々な形の扉で、植物を飾っておしゃれな街並みになっている。

そしてここは市場なのだろうか。露天商がいくつもお店を広げていていわゆる中東諸国のバザールというものみたいだ。バザールとはペルシャ語で市場を指したはず。ちなみに通路はゴザルで、お店はドッカーンというらしい。地理の授業で習って友達と大笑いしたのを思い出した。


「アヤの住んでた世界もこんな感じ?ここは市場で王都の中でも一番活気のある通りなんだけど」

「こんな感じのところもあるけど、うーん、住んでたのはもっと硬くて無機質な感じの街かな。ねえあれは何?」


屋台の前で行列ができていた。道にもたくさん行きかう人もいる中での行列だから、そこだけ特に混んでいるような様子だ。看板に文字が書いてあるけど、もちろん読めない。いや、読めない言葉を話す人たちと私はどうやって会話しているのだ?チートというものだろうか。


「あれ串焼きのお店。すっごくおいしくて評判なんだ。でもごめん、今は急いでいるからまた今度でいい?」

「あ、いいよ。むしろ仕事中にお城まで送ってくれてありがとう」


実はかなり行きたい。かなりとてもすっごく。バームクーヘンみたいな大きなお肉をぐるぐる回しながら削いでいる料理もあった。ケバブだったかな。トルコ料理みたいだ。とてもおいしそうな匂いが漂ってくる。少し先の噴水のある広場でみんな座って食べていて、ごみはちゃんとゴミ箱に入れている。

あれ、結構きれいな国だなと気づいた。家並みは中世ヨーロッパ風なのに衛生的だ。中世ヨーロッパではトイレがまともじゃなかったはず。おまるみたいなのにした後に窓から捨てると聞いたことがある。

日本は昔から水が豊富だったから水洗便所もあったらしいし、肥溜めにちゃんと溜めて堆肥として再利用していた。

西洋でもローマ時代は上下水道があったらしいけど、中世ヨーロッパはその技術を受け継がずどうも臭かったらしい。そんな非衛生的な状態だからペストも大流行したのだろう。でもこの国はきれいだ。まるで日本のテーマパークにいるような気がする。異世界村みたいな?

女性はみんなだいたい長いスカートに靴はブーツのようだ。ワンピースの人もいれば上はブラウスの人もいる。アデルは騎士見習いだからかリカルドと同じように白いシャツにこげ茶のズボン。男性はだいたいそんな感じだった。

私は黒の丈が長めのスカートだったけどさすがにこの国ほどではないから、ふくらはぎまでの寸足らずなスカートをはいているように見えるのだろう。上は薄茶色のブラウスとこげ茶のカーディガンだ。季節は晩秋だったから上下ともに暗い色合いだ。髪も黒だから1人だけ全体的に黒い。この国は木の葉の色からすると秋なんだろうけど、日本より暖かい気がする。日差しもまだ強くて、みんな私より明るい色の服で薄着だ。


2人に守られるように大通りを通り、王城の門をくぐった。アデルとリカルドが衛兵たちに挨拶をし、少し私を見て驚きながらも衛兵たちも挨拶を返していた。王直属の騎士の制服はモスグリーンが基調らしい。目につくものに対してアデルが説明をしてくれる。基本的にリカルドは寡黙で話さない。アデルがどんどん話すから任せているようにも見える。


そんな風に歩きながら説明を受け、男性使用人に案内されて控えの間まで来た。王様は今会議中らしい。広い部屋に通され真ん中に置かれたテーブルに座ると、女性がお茶を淹れてくれた。アデルとリカルドは私の横に護衛のような形で立っている。

ふわっとお茶の香りが漂ってくる。色合いは薄い黄色だけど香りは紅茶のようだ。ハーブティーのようなものかもしれない。ゆっくり一口飲むと甘い香りが鼻に広がる。この国に着いて初めてほっと一息つけた。


数回のノックの後、「失礼いたします」と男性の声が聞こえた。使用人が扉を開けると立派な白髭の老年の男性が入ってきた。なんだろう、魔法学校の校長先生のような人だ。


「宰相様よ」


アデルとリカルドが揃って礼をし、アデルが小声でささやいて教えてくれた。とても優秀な方で若いころから国王を補佐しているらしい。私も席を立ち軽く会釈をする。2人が軽く私の紹介をしてくれた。


「初めまして。私はこの国の宰相をしておりますオルランドと申します。結界の魔法使い殿にこうしてお目見えするのを大変喜ばしく存じます。陛下はただいま会議を終え、魔法使い殿との謁見の準備をされております。もう少しお待ちいただけますかな」


テーブルの空いている席に座ると女性が素早くお茶を淹れた。


「あなたは漆黒の魔法使いなのですな。もう聞かれましたか」


いいえと答えると、白いあご髭をなぜながらオルランドは説明を始めてくれた。


「今まで結界を強化するために何十人も魔法使い殿が来られましたが、髪と瞳が黒い漆黒の魔法使いは3人。他の魔法使いに比べて3人とも強大な結界を張ってくれております。どの魔法使い殿も初めは魔法を使えないため半年から1年練習をされ結界を張りますが、3人とも1年ほどかけてくださっていたはずです」


なんと。髪と瞳が黒いのは日本人だろうか。昔から何人も来ているのだ。というか、昔の日本人なら侍とか軍人とか、現代日本人より真面目で努力家だったのだろう。さすが日本人、異世界でも際立って真面目なようだ。


「ここ2年ほどで魔法使い殿はあなたを含めて4人来られております。そのうちの1人が結界を強化してくれましたが、まだまだ力が足りず再強化が必要な状況です。このままでは10年以内に結界が消失するでしょう。今でもかなり弱くなってきているため魔物の侵入が増えてきております。この国では結界がないと魔物の国内侵入を許してしまうこととなり、現在の国力から考えると結界がなくなればこの国は滅んでしまいます」


思っていたより責任重大な話だ。結界を強化って気軽に考えていたけれど、強化できるようになるまで半年から1年。どうやらできない人もいるようだし、できても足りないこともあるみたいだ。なんとなく自信がなくなってきた。


「結界を強化するのがお仕事だというのはわかりました。あの、お仕事が終わった後、私はちゃんと家に帰れますか」


一番心配なことを聞いてみた。アデルたちも帰れるようなことを言っていたけど、運が良ければ、とかだと困るし。


「ええ、もちろん帰れます。結界を強化する、しないに関わらず、神殿で神に願うことにより皆帰っております。結界の強化は強制ではないのです」


少し寂し気にオルランドが言った。「あくまで私たちはあなた方に願うだけなのです」

私たちにとっては何のメリットもない結界の強化。だから魔法使いが来たとしても必ず強化してもらえるわけではないのだろう。きっとボランティアという位置づけであり、王国の民はその好意にすがらねばならないらしい。だから私に対してもこの好待遇なのかと納得できた。

アデルとリカルドも私が来た時には驚いたものの、喜びの方が大きそうだった。その割には私にぺこぺこするわけではなく、頭をぐりぐりなぜられたりしたがそれは2人が大物だからだろうか。それとも私の背が小さいからか。会ってすぐに「友達!」な雰囲気はアデルの性格によるものの気もする。それはそれで楽しいからいいのだけど。


扉から使用人が入ってきて宰相に耳打ちする。どうやら王様の準備ができたようだ。「それでは参りましょう」とオルランドが立ち、私、そのあとにアデルとリカルドが続いた。


「結界の魔法使い殿には、後で紹介する専任の研究者があなたに指南役として付きます。わからないことがあればその者に聞いてください。魔法指導も付きます」


陽の光の差し込む回廊を進む。そこから見える中庭には噴水があり、とても穏やかな雰囲気だ。魔物がどうとか全く実感できない。


「こちらです」


ぼーっと歩いていたらいつの間にか大きな扉の前にいた。私の身長の2倍ほどの高さだ。衛兵が左右から扉を開けると中に大きな広間が見えた。進むと左右に数人ずつ身なりのよさそうな人たちが立っており、正面には数段上がったところに玉座があり、王様と王妃様がかけていた。

うわぁ、緊張する。

中学校の卒業式を思い出した。今から卒業証書を受け取りに行くような気分だ。そういえば卒業式の練習では先生に「うつむくな、胸を張れ!」と皆たびたび怒られていた。あの時言われたように大股でゆっくり歩き、あごを引き王様を見て前に向かった。これは結婚式の時にも役に立つぞ、と言われ皆真剣に取り組んだものだ。


「こちらが結界の魔法使い、アヤ殿です」


玉座の前まで来てオルランドが私を紹介した。アデルとリカルドは後ろで跪いている。


「よく来た、アヤ殿。私はこの国の王、フラヴィオだ。こちらは王妃のヴィオラ」


そう言いながら王様と王妃様は立ち上がり段差を降りてきて、私の前まで来た。


「オルランドから聞いただろうか。私たちはあなたに結界の強化をお願いしたいと思っている」


柔らかく微笑む王様はとても優しそうだった。40代くらいだろうか。柔らかい金色の巻き毛に緑の瞳。いかにも王子様といった雰囲気だ。若い時にはきっとモテモテだったに違いない。王妃様も同じように金髪碧眼。おっとり系の美女だ。2人とも上からお願いすることができないから段差を降りて同じ高さに立ったのだろう。


「この国には10の領地があり場所により気候や土壌の差はあるが、どの領地も豊かだ。国民は飢えることなく、自分の幸せを追求できる。一致団結し魔物に立ち向かう勇敢な者も多い。とても素晴らしい国なのだが、すぐ近くの島で魔物が大量に沸き、この国を侵略しようとするのが難点だ。ぜひとも我が国を知っていただけたらと思う」


国のことを話す王様はとても柔らかい表情をしている。この国をとても大事に思っているのだろう。そして私にこの国を知ってもらい協力してほしいという熱意が伝わってくる。


「こちらとしてもできる限り協力をさせていただく。生活に必要なものはすべてこちらで用意するし、暮らすのはこの王城内の魔法使い専用の客室となる。指南役と魔法指導もつけるし、常時護衛もつけ身の安全も保障する。結界を強化した時には褒賞も授けよう。もし他に希望があれば何なりと言ってほしい。宰相から聞いたと思うが、結界を強化するのは強制ではない。もしあなたが望まないのであれば神殿で神に願うことにより今すぐ帰ることも可能だ。ただ結界はあと数年で消失し、そうなるとこの国は魔物に飲まれ滅びることになるだろう。あなたには大変申し訳ないのだが、できたら結界を強化してほしいと思う。今すぐの返答が無理であればあなたが考える間待つこともやぶさかではない」


この世界の人たちはとても誠実だと思う。結界の魔法使いに選択の自由を与え、帰る方法も教えている。その上で協力を請うている。切羽詰まっているならば結界の強化に成功した場合にのみ帰る方法を教えるなど、いくらでも結界強化を強制できるだろうに。こんな異世界から来た少女に対しても配慮されている。見たところ元の世界ほど科学は発展していない。だけど思想は高尚なのだろう。城下町の人々の様子もとても明るく豊かで、着ているものは私の世界より質素だけど表情はとてもよかった。この世界には魔物はいるけれど、人の中に魔物のような人は少ないのかもしれない。


私は覚悟を決めた。今までそんなことをしたことがないから、覚悟というものがどんなものかよくわからない。その覚悟がどれほど揺らがないかなどわかるべくもないけれど、自分にできる限りのことはしようと決めた。この素敵な世界を守れる力があるなら、それを行使するのが私の運命なのだろう。

そう、きっとこれが私の運命!


「私、結界を強化します!ミッションの達成を目指してやる気満々です!そのための努力も辞さないつもりです」


周囲がどよめいた。ひょっとして私また先走っちゃった?調子に乗っちゃった?もう少し考えてから返事をした方が信ぴょう性もあったかな。

不安になって周囲を見回したら後ろでアデルが「アヤ、かっこいい!」と親指を立てている。リカルドも笑顔だからきっと同様に思っているのだろう。王様と王妃様は驚いた表情をした後「ありがとう」と私の手をそれぞれが握ってくれた。王妃様はうっすらと涙がにじんできている。よほど嬉しかったのかな。それほどこの国は切羽詰まっているのだろう。王様も感極まったのか、なかなか手を離してくれなかった。


「それでは」と言って少し落ち着いたころ、王様と王妃様は周りの人を紹介し始めた。

まずは王族から。嫡子の第一王子と王子妃、そして第二王子。もう1人王女がいるが嫁いでいて王都にはいないらしい。

宰相は先に私に会っていたから軽く名前だけ。そして指南役と魔法指導係を紹介してくれた。指南役はフレイと言って私の前で跪いて紹介されていたが、とてもきれいな女性だった。20代半ばくらいだろうか。肩までの茶色の髪、やさし気な切れ長の目。背も高くすらっとしていて、神官の服だろうか、裾の長い青を基調としたローブがとても似合っていた。こんな美人と一緒にお仕事できるなんて素敵な職場だとご機嫌になっていたら、「初めまして」という声が低くて私は動揺した。あまりに驚いた顔をしてしまったのかフレイが困惑した表情を見せた。


「何かお気に障るようなことが?」

「あ、いえ、あの」


私はあたふたしてしまったが、仕方なく素直に「女性だと思ったので」と伝えるとオルランドが大笑いして、フレイがさらに困った顔をした。


「ほっほ、こいつは見目がよいからの。女性からはよく言い寄られているようだが、女性に間違えられたのは初めてではないか?」

「女性と間違えられたのは子供の時以来です」


かわいらしい子供は女の子に見えることが多い。きっとフレイもそういったかわいらしい子供だったのだろう。

「以後お見知りおきを」フレイが少し目を細めて笑み、私を見つめた。おもむろに立ち上がって下がると、次は魔法指導担当のアンドレアという男性が私の前に跪いた。魔導士団長を務めているらしい。見た目は初老のためシルバーグレイの髪で短く切りそろえられ、フレイとは対照的でなんだか体育会系の雰囲気が出ていた。

いつでも気合の入っている元テニスプレーヤーの男性のようだ。黙っていてもギラッギラした目に勢いがあり気圧される。笑顔すら全力だ。なんだか熱い。でも私は元テニスプレーヤーのガッツの出るカレンダーとか好きだったから、結構この人とは気が合いそうだと思った。

他にも騎士団長や大臣たちが紹介されたが、直接私のお仕事に関与することはなさそうだ。面白かったのは騎士団長よりも魔導士団長の方がいかにも戦う騎士という雰囲気だったこと。騎士団長と言って紹介されたのは難しい顔をした口ひげの立派なビスマルクのような人だった。これはこれで騎士団長としてもありかなとは思うけど、どちらかというと騎士よりも指揮官という感じだ。剣を使うのは馬上から「行け―っ」と号令をかける時だけのような気がする。


一通り紹介が終わり、私は自室へと案内された。夕食は急であったから簡素にはなるそうだが歓迎会が開かれるらしい。それまで休むようにとのことだった。


フレイは美人な男性です。

後日フレイ視点もあるのでお楽しみに~。5/13夕方くらいです。

次は夕方に投稿します。

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