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ごっど・ぶれす・ゆー  作者: 雪愛。
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私はいとをはくを覚えた! なんで?!



 新たな家族……すあまがやって来た翌日の朝の事。両手の指の腹にちょっとした違和感を覚えた。

 極々細く、キラキラと輝く白銀の糸の塊が指の腹の丁度真ん中にちょん。とくっついてる。糸の塊は硬くてちょっと高めのビーズみたい。すあまの悪戯かな?と私室の窓際の天井に器用に繭をぶら下げてその中で眠るすあまに目を向けた。耳を澄ますと「ぷしゅぅ……」という寝息が聞こえる。悪戯だとしても可愛いものだ。部屋中の物を糸まみれにするわけじゃないし、この指に着いた糸の塊もきっと私にはしらないすあまの生態なのかもしれない。キラキラして綺麗だけど落としたら嫌だし、取っておこっと。後でモトカミマーケットを開いて可愛いガラス瓶でも買うかな。ビーズみたいなコレを中に入れたらきっとおひさまの光に反射して綺麗だろうし。

 つぴーーーーー。

 ……あれ?おかしいな?指に着いた塊を取ろうとしたのに糸がどんどん伸びてくる。ゴムみたいな伸縮性のあるものなのかとも思ったけれど引っ張れば引っ張っただけ伸びてくる。っていうか、終わりがみえない。どんどん伸びてくる。糸を引く手を止めるけれど引っ張り続けて勢いがついたのか糸は勝手にどんどん指先から伸びて伸びて……大分厚みのある掛け布団のようになってきた。隣で寝てたキキはすでに糸に埋もれている。

[うふふふふ……あったかぁい……]

寝心地がいいのか熟睡なのは幸いだけれど。起きた後が怖い。急いでプレシーから出ないと糸まみれになっちゃう。

「すあま!すあま!起きて!助けて!」

糸の塊を抱えて眠るすあまに声をかける。むにむにとおもちのような顔をしかめ、ぱちりと目を開けたすあまは私に目をむけるとわらび餅のような前足をぷるぷると上下に振って喜びの声を上げた。

[ますた。ますた。すごぉい]

「そうでしょう?すごいでしょう?どうなっているか解んないけど糸が止まらないの!おいで!すあま!プレシーから一旦出よう!」

「ぁぃぁぃますたっ」

その短い足で敬礼のポーズ?をしたすあまは勢いよく私の頭の上に飛び乗った。ぽすん。と軽くやわらかい感触に悶えそうになるけれどそうもしていられない。糸はすでに掛け布団3枚分程の大きさになっているから。幸いそれくらい沢山出ているにもかかわらず羽根のように軽くてやわらかいのに驚いたけれど。そのお陰でプレシーからも出れたからよしとしよう。


 「で……まだ出続けるんだけど、何でこうなっちゃったんだろ……すあま、解る?」

 [わかんないけどすあまもいっぱいできるよぉ。つむぐものだからぁ]


 「だよねぇ……つむぐものって昨日すあまが教えてくれたスキルだよねぇ」


 つむぐもの。確か昨日、すあまから聞いた。すあまの持っているスキルだ。

今日の私は糸を出した。まあ今現在のコレだけど。もちろん、今まで指から糸が出てきた事は無かったし、昨日の朝だって糸が出るなんて予感も前兆も全くなかった。昨日と今日で違う事と言えば……すあまが私の使い魔になった事くらいかな。まさか、原因はそれ?!

 タブレットで自分の所持スキルを確認しようにもプレシーの中には戻る事が出来ない状態だ。寧ろ指からどんどん溢れ出てくる糸は大きな玉のようになってきている。え?キキ起きたとして出られるの?

 「キキディオ!」

 おいで!とそのままストレートに告げると勢いよく飛び出てきてしまうかもしれないと思ったから「おいで」を逆さ言葉にして魔法を使う。「でいお」がうまく言えなくて噛んでしまったけれど、それが良い力加減になったらしい。光を纏って現れたキキがふわり、と着地をし、大きなあくびをした。

 [なぁに?巨大なベッドでも作る魔法でも勉強してるの?]

 のんきなやつめ。そんなに寝心地がいいのなら私だって中に入って眠りたいよ!

 そう恨めしそうに見つめる私をよそにキキは顔を洗うとプレシーの中へ駆けて行く。おトイレに行くのかな。落ちないように気を付けるんだよ。出来たら流してほしいけれど。

 プレシーの中に走っていったキキにタブレットを頼めば良かったとか一瞬おもったけれどその考えは即座に却下した。というかする他なかった。小柄なトラ猫がタブレットをどうやったら運べると思う?テーブルの上に置いてあったら前足で床に落とすとか。冷蔵庫にくっついてたら飛びついて床に落とすとか。悲惨すぎる。すあまに頼もうかとも最初おもったけれど、すあまの移動スピードはカタツムリより少し早くて亀より少し遅い。運ぶのも糸でタブレットを取るまではいいけれど……ずるずると引きずって持ってくるんじゃないかな。

 「っていうか、さっきキキを出したみたいに、ステータスでろーって念じながら唱えたら出ちゃったりして。ステータスオープン!」


 ―にょわんっ


 出ちゃったよ。出ちゃったよ。四角い画面が目の前に浮かびあがりステータス一覧が表示される。





 <ステータス>

・名前:アイミ

・年齢:17(33)

・性別:女

・Lv:5

・HP:410

・MP:500

・攻撃力:10

・魔力:120

・素早さ:60

<所有スキル>

・にゃおにゅーる召喚

・まものつかいの才

・魔法の才

<使い魔>

≪キキ:種族タイニージャガー≫

・急所突き

≪プレシー:魔機哭≫


≪すあま:マユムシ≫

・つむぐもの



私の所有スキルはなにも変化が無い。とりあえず今のところ気になるのはまものつかいの才の詳細なので糸を出してない左手でそれに触れる。多分指先のビーズっぽいものが外れれば右手の人差指みたいに糸が溢れだして止まらなくなっちゃうと思うから。

 まものつかいの才に触れるとポップアップが表示される。どれどれ内容は……?


≪まものつかいの才≫

・モンスターと意思疎通が可能。

・使役しているモンスターが所有するスキルを使用できる。

・使用できるスキル数はスキル所持者のレベルにより上限が解放される。


 あーはーん?つまりどういうことだってばよ?

 私の考える「まものつかい」は魔物を使役して一緒に戦うってのだった。でもコレをみると「まものつかいの才」はモンスターと意思疎通が可能であり、使役……つまりは仲間になったモンスターの持っているスキルを使えるようになると。そういうことらしい。スライムを杖で突いたら倒してしまったのは恐らくキキの持つ「急所突き」というスキルが常時発動状態だったのかもしれない。レベルが知らない間に5になっているのはスライムを倒したのとツノシャモをキキが倒した時の経験値、すあまが仲間になったり、魔法諸々を勉強したのも経験値として蓄積されていたのかもしれない。

 まあ、この未だに溢れ出る糸はどうしたもんかと思うし、隣にいるすあまはずっと「ぅぁぅぁぅぁ~」と興奮しているし。誰かこの状況を説明してくんないかな。

 とりあえずつむぐもののスキル詳細もついでに開く。

 ≪つむぐもの≫

・糸を体から紡ぎ出す事が出来る能力。個体により糸の種類は異なる。


なるほどなるほどぉ、私のこの止まらない糸はやっぱりこのスキルが原因だったわけね?いつの間にか人差し指以外の指についてるビーズっぽいアレが取れちゃってどんどん糸の塊が大きくなっているんだけれど。プレシーの3倍くらいになっているんだけれど。左手でステータス表示を触るのって使いづらくて地味にストレスが溜まるよね。いらいら。こんなことなら最初から左手の人差指から糸を出せば良かったよ。

なんて事を思うんじゃなかった。左手から出せばよかった~なんて思うもんじゃない。すぽぽぽぽんと左手の指の腹にあったビーズっぽいアレは5つ外れ、そこから勢いよく糸が噴出した。残りの右手の指達も負けじと糸を出す。私の体の一体どこから出ているんだろう。髪の毛とかだったら嫌だな。っていうかこんな状態じゃマユムシの詳細情報も見る事ができないじゃん。

諦めた私は私からつむがれた糸の塊にもたれた。あぁ……これはいいね、気持ちいい。人をダメにするソファよりも体が沈む感覚が気持ちいい。あぁ……このまま寝ちゃいそう。いや、寝ないけど。

人差し指から糸が出て3時間くらいが経った頃、ようやく糸は出なくなった。体感時間が3時間ってだけで時計を持ってないからもっと時間がかかったかもしれないし、かからなかったかもしれない。「退屈なんだけど」と文句を言うキキがお腹の上に乗って、2人でウトウトとした位で今回の騒動は落ち着いた。すあまはずっと踊ってた。ちょっとした大木サイズになった糸の塊の前で今も踊ってる。何でだろう。

このタイミングでステータスからすあまの。もとい、マユムシの情報を開く。




≪マユムシ≫


キラキラと光に輝く糸を吐く。

糸は様々な加工品の材料として重宝される為、沢山糸を吐くマユムシはマユムシ達から尊敬される。

他モンスターから捕食される為野生の数は少なく、たまにスライムにも溶かされる。




この説明によるとマユムシはスライムよりも弱いらしい。不憫。不憫可愛い。不憫過ぎてマユムシちゃんの楽園を作りたくなる。

まぁ、そんな気の迷いは置いておいて。多分だけど、マユムシが歓喜の声を上げてよちよちとむにむにしながら踊っていたのは私が沢山糸を吐いたからだろう。

[すあまのますた。すごい~ぃ]と喜ばれてしまったら頬が弛んじゃうじゃん。キキの視線が痛いけど。マユムシ達から尊敬されるのも悪くないね、うん。次に糸が出ちゃった時どうすればいいのか解んないけど。この沢山出た糸もどうすりゃいいのか解んないけど。加工って事はすあまみたいに布にしちゃえば良いのかな?とりあえず外でごろんと日向ぼっこできるようにベッドにでも……いいや、ロングソファにでもしちゃおうか。座ってよし、ごろ寝してよし。だもんね。

ぶちぶちぶち。と糸を引きちぎり、ふわふわとした綿みたいな糸を均していく。ぎゅっとおさえれば糸の内側が絡み合い、圧縮されていく。綿菓子をつぶしていくとかたくなるでしょう?その感覚に近いかな。結構楽しい。大まかな形を作って、ぎゅっぎゅとくっつけて行くところはちょっと羊毛フェルトに近いかも?綿みたいな糸で肉付けしていくと中心の糸が硬い芯のように変わっていく。切られた糸の断面が粘着質になっているようで、その粘着面同士が繋がり固まると丈夫になるみたい。成程、マユムシの糸についてちょっとだけど解って来た気がする。


―糸の性質を理解した!アイミは糸を吐くを覚えた!


テッテレー♪と脳裏にファンファーレが響く。てってれー♪じゃないよ!

吐くって何だよ……と思ったけれど、確かにこのスキルの持ち主のすあまは口から糸を吐いていたし、マユムシの糸を出しているわけだから、マユムシ基準だと糸を吐く。なのかもしれない。私は指先から出すんだけれどね。と人差し指を立てて「ちょっとだけ糸よ出ろ~」と念じてみた。にゅ、と1センチくらいの長さの糸が出てきた。「もどれ~」と念じるときちんと戻る。なんてお利口。さっきのは一体何だったんだと思うくらい聞き訳が良い。自分の体の一部みたいだ。まぁ、そうなんだけれど。

指の腹にもビーズのようなものが残る事もなかったから、あのビーズ的なものはきっと絶縁体のような役割を持っていたんだろう。それで私の「やばいいとがどんどん溢れてくる!」っていう衝撃が強すぎて止めようと思っても「止まらない!どうしよう!」という焦りに繋がってしまったのだ。

憶測だけど、とりあえずそういうことにしておこう。魔法同様に想像力がない為に起こった事故のようなものだ。

とりあえず、この大量の糸でロングソファと物干し台を作ってみた。ついでに洗濯紐も。まだまだ糸の残りはありすぎるほどあるからマイホームが建った時にでも家具とか作れたらいいよねって思ったりもしちゃう。

踊っているすあまを回収しようと思ったけれどまだ踊り足りないらしくてとりあえずプレシーの中へ戻る事にした。結界の中は他のモンスターが入る事も無いから安心だもんね。勿論、結界から出ないようにと言いつけてあるから大丈夫なはずだ。


とりあえず今のところの目標は魔法の勉強をしつつ、お家をどうやったら建てられるか、ということ。

モトカミマーケットで建築関係の項目が追加されていたけれど資材や道具の表示のみで家を建てる技術諸々は自力でどうにかしろということか、もしくはプレシーが家として機能しているのだから問題ないだろう。と言いたいのか解んないけど、プレシーにお世話になっている身としてはプレシーには屋根のあるところで寝てもらいたいと思う。ちっちゃな水晶玉に収まるけれども。こっちのお気持の押し売りになってしまうかもしれないけれど。家族だから同じ食卓を囲みたいと思っちゃうんだよね。

空間魔法の応用でプレシーの小型化は出来そうだからこっちは時間の問題かもしれないけれど。


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