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2話 漫研部の仁義なきジャンル戦争

 さて、物資の搬入を終えて、私たちは普段使っているスタッフルームの作業部屋でコーラとスナック菓子片手に集まっていました。


「うぱうぱ」


 うーぱさんは床の犬用の小皿に入れられた観賞魚用のふりかけのような餌を美味しそうに食べています。この餌が正解なのかは知りませんが気に入ってるのなら多分正解なのでしょう。


「さて、早速編集会議をしたいと思うけど……今はいわゆる終末の世界よね?」

「そうですが」


 部長はそんな当たり前の事を言ったあと机に両肘を置きアゴを手の甲で支え、謎の機関の関係者のように悪い顔をしました。


「次回作は思い切って二次創作をして見ようかと思うの。版権がなんぼのもんじゃい!」

「はあ。まあ訴える人もいないと思いますが」


 私たち漫研部はオリジナルの作品が多いです。二次創作自体そもそもグレーゾーンではありますが、この終末の世界では通報もされなければ版権元から訴えられる恐れもないのです。この世界では自由に創作活動が出来るのでそこは便利であるのですが。


「いいわね! なら思い切って小○館を、もしくはデ」

「アウトォォッッ!!」


 松河原さんがセリフを言い終わる前に私はダン、と机を叩き絶叫して止めました。


「ど、どうしたのよ、関金」


 彼女は困惑した顔を浮かべ、部長も不思議そうな顔をします。


「松河原の案、私はいいと思うけど。訴えられないし」

「連中は世界が滅んでも恐ろしいんです! なおその魂は生きているんです!」

「いいじゃない! 版権なんて気にしない、最高の芸術作品を作ってありのままの姿を見せるのよ!」

「止めぇいッ!」


 調子に乗った松河原さんを制止するため私は陰キャという設定も忘れて絶叫してしまいます。


「この話は止めましょう。奴らの話をするだけで滅びが忍び寄るのですから」

「はあ。別にいいと思うけどそこまで言うならそうしましょう。けど版権モノ自体はいいわよね。同じ鳥取県って事でうちを舞台にした水泳部の奴があったでしょ。アレに手を出そうかと」


 なんとなくそれもアウトな気もしますが、私は言葉を飲み込みました。


「それは構いませんがどうせなら軽音部の奴にしませんか? 男がキャッキャウフフしているのを描いても。時代は百合ですよ」


 BLに興味がない私は妥協案としてそう提案しました。ちなみに軽音部の作品は別に百合ではないです、公式では。


「ならメイドなドラゴンのにしましょう。あ、人型じゃなくてドラゴンの形態で」


 そして松河原さんは同じところの別の作品を提案しました。同じ制作会社でも、BL、百合、ケモナー。趣向が見事にバラバラになりましたね。


「いやいや、一番需要はあるのはボーイズラブだよ。イケメンとイケメンがごっつんこすれば、ごっつええ感じになるのわかるよね?」

「野郎を描いてなにが楽しいんですか。多感なお年頃で悩み成長する少女はそれだけで芸術作品なんです。それがイチャイチャしたらもう凄いんですよ?」

「わかってないわね。種族を超えた愛こそが最高の芸術作品なのよ。そして創作物でしか表現出来ない芸術なのよ。それが理解出来ないなんて頭が固いんじゃないかしら」


 それぞれがそれぞれの意見を言って、


「あ?」

「あ?」

「あ?」


 と、見事にハモる。まあ編集会議の時、漫研部のいつものお約束のやり取りです。


 ただいつもはここで大喧嘩して毎回毎回解散の危機になりますが、今回の展開は違いました。


「またこの展開なんだね。いい加減白黒決着をつける時が来たわ。BL、百合、ケモナー、どれが最高なのか」


 顔が劇画風になった部長がそんな事を言って同じく画風が変わった松河原さんがずい、と身を乗り出し闘志を滾らせます。


「そうね。いつまでもこんな不毛な争いをするのは建設的じゃないわ」


 そんな啖呵を切られたら……私も熱くならないわけないじゃないですか!


「ええ、ここは決戦の時です。さて、どう勝負しますか?」


 私も愛を取り戻したい御大をパロッた顔でドスの利いた声でそう言うと、部長は不敵な笑みでこう言いました。


「それぞれがそれぞれのジャンルで短編マンガを仕上げて静画にあげる。ジャッジは閲覧数の総数にしましょう。製作期間は二週間、閲覧数が一番多いのが勝ち、簡単でしょう。公平を期すため今回は作品そのものの人気に左右される二次創作じゃなくてオリジナル。それでいいわね?」

「ふむ、私は構いません。あとで閲覧数が少なすぎて吠えても知りませんよ」

「ケモナーこそが最高の芸術よ。それを証明してあげましょう」


 ゴゴゴゴゴ、と地鳴りの音とともにお互い闘志を燃やします。


 この戦いに負けるわけにはいきません。百合の素晴らしさを普及するためにも!


 だけどそれはお二方も同じ。思想は違えどそれは理解出来る。これは絶対に譲れない戦いなのです!


「うぱー」


 そんな私たちには目もくれず、うーぱさんは餌を食べ尽くして可愛らしいげっぷをしました。たくさん食べ満足なようで幸せそうな顔をして目を閉じましたけど、南国原産のウーパールーパー的なこの子にとって日本の初春は寒いですし二度寝をするんでしょうか。


 さて、とにもかくにもこうして漫研部の命運を決める仁義なき戦いが始まったのでした。

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