爺
宜嗣はよく喋った。
壊れた蛇口ぐらいの勢いで情報を喋った。
柏崎景は柏崎景長男で、現在二十四歳。
二年前に突然莫大な妖力を手に入れ、その力を試そうと、母と全ての兄弟、召使いを殺害。
宜嗣はそれら全員を残して逃走し、財産を守った。
術の内容は分からないが、掌で相手に触れた瞬間、触れられた対象が即死したことから、相当の威力がある術だということを予想。
「新情報はあまりなかったですね」
「ああ、時間を無駄にした」
新しい情報といえば、柏崎景は柏崎家の長男だったことと、年齢だけ。
昔から家族とは仲が悪かったらしく、写真の一枚もなかった。
「しかし、過ぎたことを気にしても仕方がない。次を考えよう」
言って、ポールさんは机に資料を広げる。
「これは柏崎景の遺した痕跡と、目撃情報。それと現在確認した潜伏場所だ」
「こんなに、相手が分かって一晩ちょっとで」
「ミア達が頑張ってくれてね、本来三日かかるはずの作業を、僅か一晩で終わらせてくれた」
部屋の隅で紅茶の用意をしているミアさんが胸を張っていると、ポールさんが咳払いで仕切り直すようにして言う。
「まず、現在の潜伏場所は不明だが、己龍家や龍との関係性はない」
そう言ったポールさんが資料を捲ると、悪い笑みを浮かべて続ける。
「次は交友関係だが、面白いことが分かった」
「へえ、恋人でもいました?」
「正解! 彼には神尾沙智という同い年の彼女が――――――」
「今何と言いおった!」
瞬間———ポールさんの言葉を遮って、先生が言う。
嘗て見たことのない程驚いた表情で、言った。
「恋人の名を、もう一度」
「はあ、神尾沙智です。神様の尻尾に泥沙の沙、あとは叡智の智ですね。もしや彼女とお知り合いで?」
ポールさんが言うと、先生はゆっくりと語り出す。
重い口を開けて、忌々しそうに語る。
「神尾とは儂の元妻の姓………そして、神尾沙智とは二年前に突如として失踪した、孫の名よ」
百話まで後二話!
本当に後少しすぎて怖い