柏崎家
「落ち着いたかい? 大変だったね」
ポールさんの会社の一室。
僕の座る席の正面にある席にポールさんは座り、ミアさんの入れた紅茶を飲む。
「いえ、失敗ばかりでしたしすいません」
「謝らなくていい。確かに龍が世間に見つかったのは不味かったが、僕がなんとか隠蔽してみせよう」
ポールさんは優しい笑みを浮かべ、言った。
「それより、君の話に出た男、柏崎景についてだ」
早速、本題を切り出された。
「そいつは、九尾苑を殺した奴なんだね」
「ええ、ほぼ間違いなく。掌で触れた対処が死ぬ情報が一致しましたし、奴でしょう」
「そうか、見つかるのが早かったな」
そう言うポールさんは拳を固め、静かに怒っていた。
「しかし柏崎家か、また厄介な敵だな」
「何か問題のある家なんですか? それとも知り合いとか」
尋ねると、ポールさんは違うんだと否定してから言う。
「君、御三家を知っているかな?」
「ええ、沙耶がたしか樋口家の一人娘です。一度荷物を取りに行っただけですが、家に行ったこともありますよ」
「なら話が早い。柏崎家というのはね、その御三家の一つなのさ」
それはまた、厄介すぎるな。
九尾苑さんに聞いたことがあるが、御三家というのは術師界隈で権力が最もある三つの家系で、世間には余り広まっていない術師だというのにも関わらず、その権力は国をも動かすという話だ。
「それってあいつを殺したら不味くありません?」
「ああ、だから明日会いに行こうと思うんだ」
「……………」
「会いに行こうと思うんだ」
「……………」
「会いに行こうと思うんだ」
「え、そんな気軽に会えるんですか?」
しばらく思考停止してから、思わず尋ねた。
「まあ、僕だけじゃ無理だろうね。殴り込んでもいいが後々面倒だし、権力や金で勝ち目はないから、僕は名声を使う」
直後、ミアさんが部屋に入るや否や頭を下げて言う。
「お客様がご到着なされました。隣室でお待ちです」
「来たようだ。行こうか」
言って、ポールさんは立ち上がる。
「必要無い。おんしらがあまりにも遅いでな、儂自ら来てやったわ」
そう言って室外から現れたのは、僕に詠唱術式と怪現を教えてくれた、自然と敬意を払いたくなるようなオーラを放つ老人。
「せ、先生!」
屋比久童磨、その人だったのだ。
柏崎って、近所にそんな名前の人おるんよね