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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
二章   龍篇
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犯人

 龍に飲み込まれたが、予想通り体内は柔らかい。


「火吹きの左腕、一の指、火遊び」


 言って、僕は龍を体内から焼こうとする。

 瞬間、腹の奥から叫び声。


 まさか、僕以前に龍に飲み込まれた者が?


「おーい、誰かいますか!」


「いる! いるよ! だからこれ消して!」


 慌てて僕は羽団扇の風で炎を吹き消す。


「助かったよ、ありがとう。いや、君に燃やされたから礼の必要はないのかな?」


「すいません、まさか人が居るだなんて」


「まあ、そうだよね。僕もまさか人が来るとは思ってなかったよ」


 そう言いながら現れたのは、ローブを深くかぶっていて顔はよく見えないが、声からして男。

 龍の体内に居るんだ、まず一般人ではない。

 術師だろう。


「それにしてもお互い災難だね。龍に丸呑みにされるだなんて」


「いや、僕は中から焼こうと思って」


「ハハ、それは面白い。宗介くんだっけ? 君は中々えげつないことを考えるね」


「まあそうかも知れませんけど、外からは——————」


「どうしたんだい? 途中で黙って。何をしに入ったか教えてくれよ。ああ、武器まで構えて、また僕を焼く気か?」


「何故僕の名前を知ってる。誰だ?」


「ああ、失敬失敬。君、結構有名人だよ?」


「そうかよ。で、お前は敵か? 味方か? 答えろ」


「急に口が悪いなあ。何安心すると良い。君が強い限り、僕は君を傷つけない」


 肝心の尋ねたことには答えない。

 はぐらかすつもりか?


「で、敵か味方か答えは」


「いや、若いね。すぐに答えを求めようとする。あと五年もすればそんな若さも無くなるのかな?」


「了解、敵だな」


 答えは決まった。

 僕は羽団扇で男の心臓を貫く。

 貫いた、筈だ。


「いやあ、やはり若い。君、今十七だっけ? 僕もあと七つ若ければ君とタメでそんな若さもあったのかな?」


 男は、平然と喋っていた。

 僕は確かに男の胸から刃を入れ、心臓を貫いた筈だ。

 現に刃には血が付いている。

 男のローブも貫いた位置に穴が空いている。


 ならば、何故男は平然と喋り、生きている?


「あーあ、新調したローブに穴開いちゃったじゃん」


 不味いな。

 龍は殺さなきゃいけないし、そのために中入ったら変な奴はいるし。

 厄介すぎる。


 戦うにしても全快しているときが望ましい。


 今は先の炎の玉で右腕は使い物にならないし、詠唱術式を二度も使ったせいで妖力も消費してるし。

 今は短期決戦で済ませたい。


「まあ良いや。そろそろ出ようかな。脱出、頼んだよ」


 言って、男は体内で壁のようになっている龍の腹の内側に触れる。

 それと同時だった。

 龍の妖力が、完全に消滅したのは。


「さあて、落ちるぞ、なんとかしてくれよ! 一般人が潰れて死ぬぞ!」


「まさか、お前がッ!」


 羽団扇を振るう。

 首目掛け、一直線に。

 何も防ぐものは無い。

 刃は男の首を端から端へと通り過ぎて、切断する予定だった。

 しかし、僕は見てしまったのだ。

 男の首が、刃が過ぎた箇所からくっついて、傷が治っていくのを。


「何を突然怒って。何か気に触ることでもあったかい?」


「お前が、九尾苑さんを!」


「ああ、そのことか。あの程度、君は気にしなくて良い。それより、君が気にするべきは今じゃないかい? この龍は現在落ちている。一般人は龍が見えてないし、圧死するんじゃないかな」


 クソ、確かにそうだ。

 今はこいつよりも大勢の命を優先。

 分かってはいる。

 頭では分かってはいるが、理性ではこいつを斬りたいと思っている。

 燃やして、斬って、潰して、すり潰して。

 殺してやりたいと思っている。


 冷静になれ、僕。


「僕は柏崎景だ。またいつか、会おう」


 これ以上は我慢の限界だ。

 世界箱で、突如死に生き物ではなくなった龍を収納する。

 柏崎は、もう消えていた。


「クソォォォォォォォォォ!」


 龍が見つかったり、炎の玉が爆発したり、そんな騒ぎが少し落ち着いた静かな夜空に、僕の絶叫のみが響き渡る。

宗介あんま叫ばないよね。

普段はセリフ以外で叫んでるように書いてるから新鮮

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