犯人
龍に飲み込まれたが、予想通り体内は柔らかい。
「火吹きの左腕、一の指、火遊び」
言って、僕は龍を体内から焼こうとする。
瞬間、腹の奥から叫び声。
まさか、僕以前に龍に飲み込まれた者が?
「おーい、誰かいますか!」
「いる! いるよ! だからこれ消して!」
慌てて僕は羽団扇の風で炎を吹き消す。
「助かったよ、ありがとう。いや、君に燃やされたから礼の必要はないのかな?」
「すいません、まさか人が居るだなんて」
「まあ、そうだよね。僕もまさか人が来るとは思ってなかったよ」
そう言いながら現れたのは、ローブを深くかぶっていて顔はよく見えないが、声からして男。
龍の体内に居るんだ、まず一般人ではない。
術師だろう。
「それにしてもお互い災難だね。龍に丸呑みにされるだなんて」
「いや、僕は中から焼こうと思って」
「ハハ、それは面白い。宗介くんだっけ? 君は中々えげつないことを考えるね」
「まあそうかも知れませんけど、外からは——————」
「どうしたんだい? 途中で黙って。何をしに入ったか教えてくれよ。ああ、武器まで構えて、また僕を焼く気か?」
「何故僕の名前を知ってる。誰だ?」
「ああ、失敬失敬。君、結構有名人だよ?」
「そうかよ。で、お前は敵か? 味方か? 答えろ」
「急に口が悪いなあ。何安心すると良い。君が強い限り、僕は君を傷つけない」
肝心の尋ねたことには答えない。
はぐらかすつもりか?
「で、敵か味方か答えは」
「いや、若いね。すぐに答えを求めようとする。あと五年もすればそんな若さも無くなるのかな?」
「了解、敵だな」
答えは決まった。
僕は羽団扇で男の心臓を貫く。
貫いた、筈だ。
「いやあ、やはり若い。君、今十七だっけ? 僕もあと七つ若ければ君とタメでそんな若さもあったのかな?」
男は、平然と喋っていた。
僕は確かに男の胸から刃を入れ、心臓を貫いた筈だ。
現に刃には血が付いている。
男のローブも貫いた位置に穴が空いている。
ならば、何故男は平然と喋り、生きている?
「あーあ、新調したローブに穴開いちゃったじゃん」
不味いな。
龍は殺さなきゃいけないし、そのために中入ったら変な奴はいるし。
厄介すぎる。
戦うにしても全快しているときが望ましい。
今は先の炎の玉で右腕は使い物にならないし、詠唱術式を二度も使ったせいで妖力も消費してるし。
今は短期決戦で済ませたい。
「まあ良いや。そろそろ出ようかな。脱出、頼んだよ」
言って、男は体内で壁のようになっている龍の腹の内側に触れる。
それと同時だった。
龍の妖力が、完全に消滅したのは。
「さあて、落ちるぞ、なんとかしてくれよ! 一般人が潰れて死ぬぞ!」
「まさか、お前がッ!」
羽団扇を振るう。
首目掛け、一直線に。
何も防ぐものは無い。
刃は男の首を端から端へと通り過ぎて、切断する予定だった。
しかし、僕は見てしまったのだ。
男の首が、刃が過ぎた箇所からくっついて、傷が治っていくのを。
「何を突然怒って。何か気に触ることでもあったかい?」
「お前が、九尾苑さんを!」
「ああ、そのことか。あの程度、君は気にしなくて良い。それより、君が気にするべきは今じゃないかい? この龍は現在落ちている。一般人は龍が見えてないし、圧死するんじゃないかな」
クソ、確かにそうだ。
今はこいつよりも大勢の命を優先。
分かってはいる。
頭では分かってはいるが、理性ではこいつを斬りたいと思っている。
燃やして、斬って、潰して、すり潰して。
殺してやりたいと思っている。
冷静になれ、僕。
「僕は柏崎景だ。またいつか、会おう」
これ以上は我慢の限界だ。
世界箱で、突如死に生き物ではなくなった龍を収納する。
柏崎は、もう消えていた。
「クソォォォォォォォォォ!」
龍が見つかったり、炎の玉が爆発したり、そんな騒ぎが少し落ち着いた静かな夜空に、僕の絶叫のみが響き渡る。
宗介あんま叫ばないよね。
普段はセリフ以外で叫んでるように書いてるから新鮮




