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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
二章   龍篇
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形状変化

 僕も忘れていた現象が。

 奇跡とでも称したくなるような現象。


 妖具の、形態変化だ。


 世界箱は杖状に、先端に箱の名残と宝石が付いている。


 これならば、とどく。

 命を、救える。


 僕は再度、世界箱を炎の玉へと伸ばし、妖力を込める。


 これでもしダメなら僕は罪なき人を死なせてしまう。

 それだけは避けるべきだ。

 避けなければならない。

 そんな持論があるわけではないが、そんな気がする。

 そうしろと心が叫んでいる。

 守れと、僕の意思が言っている。


「無事、守り切ったかな」


 大きな溜息を零し、言う。


 地上の人たちは僕の右腕を焼いた爆発の火花が数人当たったらしく、軽く驚いている人はいるものの死傷者はいないようだ。


「二回目は無理かな」




 ****




流星炎故(りゅうせいえんこ )が消えた? 鉄心を殺したやつか」


 男は呟く。

 この神主のような服を着た、服とは似合わない目つきの悪い男の名は己龍源氏。

 己龍家護龍部隊の一人である。


 己龍家とは嘗て龍の名の下に繁栄した名家であり、術師の世界では御三家に次ぐ権力と、それらを超える武力を有している。


 彼らの多くは龍の復活を望んだ。

 一部己龍千輝などの例外もいるが、大抵の己龍の者は龍の復活による恩恵を求めたのだ。


 龍の名に宿る妖力は膨大。

 遥か昔に名に龍の文字を込めて妖力を使うことを龍自ら許された家系である己龍家は、皆龍の名に宿る妖力により並みの術師を遥かに凌ぐ能力を手に入れていたのだ。


 そして、彼らは思った。


 龍が長き眠りから解放され、妖力の枯れ切った今の状態より復活したら、自分たちに分け与えられる力も増すのではないかと。


 百年前の己龍家当主である己龍小景は、思い立ったが吉とでも言わんばかりに龍の復活に向けて準備を始めた。


 すぐさま起こすことも可能だが、その場合は回復に必要以上に時間を要する。

 そのための、準備だ。


 そして百年の時を経て今日、龍の完全復活を遂げる予定であった。


 しかし、そこに現れたのが一ノ瀬宗介という男。


 宗介は昔から無断で龍と名の付く術を使っていたが、昔は上手いこと龍に気づかれないよう妖力を自分の手の内で完結させていた。


 だが今は違う。

 龍と名の付く術である手龍を使う際、今の宗介は龍に自分の妖力を悟らせない技術を知らないのだ。


 そんな一人の術使用によって、百年の準備は意味を失う。

 宗介の妖力による龍の目覚め。

 それは彼らの目指す結果には、弊害でしかなかった。


 しかし彼らとて妖術と戦闘と、そして龍のプロだ。

 即座に龍の完全復活から、弱った状態で復活を遂げる龍の護衛へと任務を変更。

 そして、現在へと至る。


「さて、隠れてるつもりなら無断だぜ? 出てきてくんねえかな、かくれんぼは面倒くせえ」


「んだよ、分かってんなら先に言えよ」


 そう、源氏を偵察していた男、荒木寺信玄は言う。


「滑稽でついな。で、何の用だ?」


「分かってんだろ、龍の完全復活なんて起きてみろ、お前ら己龍家の権力と他のバランスが崩れるだろうが」


「ああ、それを望んでやってっからな」


「なら交渉の余地はねえな。死ね」


 瞬間、荒木寺の指輪を三つ付けた指輪が源氏へと向き、それと同時に爆発。

 位置は源氏の眼前。


 源氏は瞬時にその場から離脱。

 宙に足場を作って荒木寺の隙を探る。


 しかし荒木寺も攻撃後に油断するようは男では無い。


 即座に隠し持っていた石礫を三つ源氏に飛ばし、破苦を使用。

 動きを封じにかかる。


「惜しい。俺以外なら止められたな」


「空間系の術式が? 面倒な野郎だ」


 そう、源氏の使う術は足止めされるには向いていなさ過ぎた。

 空間と空間を入れ替える。

 それが源氏の術の仕組みだ。


 無論、万能ではない。

 目に見えて、正確に距離を掴んでいる範囲までだ。

 しかし今の場合はその距離で充分事足りている。


 現に源氏は荒木寺の破苦からの脱出に成功していた。


 荒木寺は源氏が抜け出して蛻の殻となった破苦の杭を掴み、一本ずつ投擲。

 源氏は二本を素手で弾き、最後の一本は触れずに離れる。

 直後、最後の一本に貼り付けてあった爆札が発動。

 それを予測していた源氏は無傷だが、爆発が発動した際近くにあったビルの壁は一部酷く損傷しており、外から見えるオフィスは使い心地はともかく風通りは良さそうだ。


 荒木寺は隠し持っていた石礫を一つ取り出して杭へ変形させ、それを持ったまま源氏へと突っ込む。


 間合いに入ると同時に攻撃を仕掛けたりはせずに、ギリギリまで引き寄せ、二人が共に互いの心臓に触れられる距離まで近づいた瞬間、荒木寺は源氏を蹴飛ばす。


 石の杭で作った武器はブラフで、本命は体術。

 これが全力で荒木寺が戦う際の、定番だった。


 宙に足場を作りながら踏ん張ろうとする源氏の背後での爆発。

 即座に自分と荒木寺の位置を入れ替えた源氏は荒木寺に止めと言わんばかりにナイフを両の手から二本ずつ飛ばす。


 当の荒木寺はというと、自分の起こした爆発を妖力の籠った石礫一つで押さえ込み、それを足場として跳躍。

 次の瞬間真正面から飛んで来ているはずが両隣からへと場所の変わったナイフを回避。

 言うまでも無いが、ナイフの位置が変わったのは原子の術。

 これは源氏がよく使う攻撃手段で、感覚で戦わない相手には特に有効だった。

 仕組みはナイフのある位置を別の位置と入れ替えているだけだが、これがよく効く。


 互いに実力は拮抗状態。

 ミスを犯した方が負ける。

 そんな戦いだ。

ベテラン同士の戦いって感じだね

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