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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
二章   龍篇
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世界箱

今回、序盤以外は私好みの胸糞悪い展開となっております。

そのような展開が苦手な方は、****の前のまお読みください。


 全て唐突な方が実力を発揮できる。

 言われてみればそうかもしれない。


 妖具の使い方も、妖力の操作も、怪現も、いつも唐突に覚えろと言われて、短期間で習得していた。

 長い時間をかけてみっちり覚えたものを挙げるとすれば、詠唱術式だけかもしれないな。


 しかしだ、事前に起こると決まっていた戦いを唐突に教えるのは違うと思うんだ。


 まあ、ポールさんが僕の居場所を知ったのは端蔵戦のときだし。

 その直後は僕寝てたし、仕方ないよね。


「具体的に、準備って何をするんですか?」


 室内に戻ってから尋ねると、ポールさんは一つ掌サイズの箱を取り出す。


「これは妖具、世界箱。君には一晩でこの箱を使えるようになってもらう」


 言って、ポールさんはその世界箱を僕に向かい放り投げる。


「これから、飛び道具での攻撃は全てその箱に入れてごらん。一面だけ宝石が埋め込まれている面があるだろう? そこの宝石で入れる物に触れて妖力を込めるんだ」


「間違えて指とかで触ったまま使ったら大惨事ですね」


「ああ、そうならないように気をつけてくれ」




 ****




 買いたいおにぎりの棚が高すぎて背伸びをしても届かない少女、シェリー・ストゥルルソン。

 彼女は元々端蔵の仲間として宗介と戦う予定だったが、いざ戦うとなったとき即座に気絶させられ、気づいた頃には誰も居なかったのだ。


 シェリーは高すぎる棚にしばらく苦戦した後、一つ決断をする。


「バレなければ、大丈夫だよね」


 呟いて、シェリーは自分の体を浮かせる。

 シェリーの使う妖術は物に触れずに動かしたり、その妖力で自分を浮かせたりなど。

 有り体に言ってしまえば念力だ。


 シェリーが端蔵に昔もらった投げ無しの所持金でそのおにぎりを買って店を出て直ぐ食べようとしていると、突如近くのビルから強い妖力を感じる。

 驚いて振り向くと、シェリーの頰に掠って暴風で飛んだペットボトルが飛び去る。


 強い妖力に驚き、続けてペットボトルにも驚かされたシェリーは、気を取り直しておにぎりへと目を向ける。


「え、うそ」


 思わず声が溢れる。

 シェリーの頰を掠ったペットボトルは、その流れで見事におにぎりを粉砕して過ぎ去って行ったのだ。


 その証拠に、転がるペットボトルの角には米とおにぎりの具が付着している。


 産まれ落ちて八年。

 現在シェリーにはおにぎり買った結果の無一文と、そのおにぎりが眼前で崩れ去るという試練が訪れていた。


 しかし、シェリーの心は動かない。


 それは、これまでのシェリーに降り注いだ悲惨な過去に比べれば、この程度の試練は無いに等しいからだ。


 シェリーは嘗て、イギリスの農村で両親と幸せに、ごく一般的な暮らしをしていた。

 しかし五歳の誕生日の夜、突然両親は失踪。

 シェリーは二人の帰りを一日中待っていた。

 次の晩、扉の開く音がして、シェリーは両親がようやく帰ってきたのかと一日中何も食べずに空腹なことを忘れて音の鳴った方へと駆ける。

 しかし、そこに居たのは両親ではなく、真っ黒の外套で身を包んだ謎の二人組。

 シェリーがその二人組に両親がどこに居るか知らないか尋ねようとすると同時、二人組のうち片方に謎の薬品を吸わされて、シェリーは気絶してしまう。

 シェリーが目覚めると、手足を縛られ、口はタオルを咬まされた状態で椅子に縛り付けられて、廃屋の一室に一人。

 最初は当然泣いたが、一時間もすれば涙も出なくなり、落ち着いて辺りを観察する余裕も出来た。

 室内にはカメラが四台。

 あとは自分の正面には大きなモニターが一台と、部屋の四隅にモニターに繋がるスピーカーが設置されていた。

 観察を終えてしばらく時間が過ぎて、不安や恐怖が退屈に変わり始めた頃、モニターに突然映像が映る。

 モニターに映ったのは、シェリーが両親とよく見ていた子供向けの番組だった。

 その番組はマスコットがコミカルなストーリーで子供に勉強を教えるもので、シェリーのお気に入りの番組だった。

 十分ほどでその番組が終了すると、次にモニターに映った映像には、シェリーの両親が映っていた。

 その両親の表情は恐怖に満ちており、当時五歳のシェリーにもこれから恐ろしいことが始まるのだと即座に理解出来た。

 映像の内容は、両親がひたすら拷問されるものだった。

 シェリー同様椅子に縛り付けられた両親は、シェリーを攫った二人組と同じ格好の者たちに様々な責め苦に遭わされていた。

 部屋の四隅に設置してあるスピーカーからは二人の絶叫が鳴り響き、シェリーの鳴き声と合わさって部屋中に響いている。

 シェリーは目を瞑り映像を見まいとするが、目を瞑った瞬間、全身に電撃が流れる。

 痛みに目を見開くと、丁度片手の爪が無くなった母の姿と、それを見て自分の順番も来る未来に怯える父の姿。

 そんな映像が十分ほど続くと、モニターの映像が切り替わる。

 先程流れていた子供向けの番組にだ。

 拷問の映像が終わったことにシェリーは安堵したが、それも束の間、十分経つと映像は再度切り替わる。

 五歳の少女の心を殺すには、その繰り返しを一晩続けるだけで充分だった。

 しかし、シェリーが悲しみも退屈も恐怖さえも感じることを拒否した頃、引き寄せられるかのように自然に目を向けた、自分が縛り付けられている位置の床を見て、シェリーは更なる絶望に陥る。

 床が、血で汚れていたのだ。

 シェリーは電撃を流されはしたが、怪我はしていなかった。

 シェリーでも分かった。

 映像で両親が拷問されていた場所は、自分が座っているこの場所なのだと。

 深い絶望に陥ったシェリーが再度何も考えなくなった頃、部屋の外から足音が聞こえた。

 それ自体にはシェリーは何も感じなかったが、次の瞬間、部屋の壁を突き破って一人の男が現れたときは、少し驚く。


「随分と待たせたね」


 そう、壁を突き破って現れ男。

 端蔵晴海は言うのだ。

趣味を、楽しんだ故の胸糞展開。

毎回こうってわけじゃないから許して

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