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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
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「悪かったな、最後の最後まで到着が遅れて」


 荒木寺さんは言う。


「いや、最後あの壁がなければ僕は死んでたんですよ。感謝してますし、怒ってなんてないです」


 横たわった状態の僕の脇で胡座で座る荒木寺さんに言う。


「ところで、荒木寺さん以外はどこに?」


 聞くと、荒木寺さんは一つため息を零して言う。


「己龍家のやつなら雑魚蹴散らしてとっくに帰ったらしい。沙耶は走るのが遅いから後から来る」


「そうですか、何事もなくて良かった。九尾苑さんと猫宮さんも後から合流ですか?」


 尋ねた瞬間、荒木寺さんは気まずそうな顔をする。


「荒木寺さん、九尾苑さんと猫宮さんに何があったんですか、教えてください、今どこにいるんですか!」


 尋ねると、荒木寺さんは眉間に皺を寄せて言う。


「猫宮は、無事だ。九尾苑は………………九尾苑は、死んだ」


 瞬間、僕は駆け出していた。

 全身に穴が空いた痛みなど忘れ、怪現で妖力を使い切った疲弊など忘れ、駆け出していた。

 荒木寺さんの来た方向へと、全力で駆けていた。


 こんな状態で走れていると言う事実は信じられないが、それ以上に信じられない。

 九尾苑さんほどの人が死ぬなど、思いもしなかった。

 頭では理解出来ていても、心では理解出来ていなかった。


 実は悪質なドッキリで、今にも木の影から飛び出してくるのではないかと、そう思っていた。


 僕は駆ける。木が生えていない僕が戦っていた範囲を超えて、完全な森の中に。

 駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、そして反対方向から同じように走る人物にぶつかる。

 沙耶だ。


「あ、一ノ瀬…………」


 声が漏れるように言った沙耶の目元は赤く腫れており、涙を拭っていたであろう手の甲は水の中に手を突っ込んだのではないかと思うほどに濡れていた。


 それだけで、悟る。

 本当に、九尾苑さんは死んだのだと。

 あの何が起きても死なないだろうと思っていた人物に、彼も対処出来ないような脅威が降りかかったのだと。


「一ノ瀬……九尾苑さんが、死んじゃったよ」


 沙耶は僕のボロボロの服にしがみつき、嗚咽をこぼしている。


「沙耶、九尾苑さんはどこに」


 服にしがみつく沙耶の背中を摩りながら、自分も涙を堪え尋ねると、沙耶は震える指で元来た方向を指差す。


 僕は当然九尾苑さんの元に向かおうとするが、流石にこの傷で沙耶を支えながらは無理だった。

 というより、ここまで走るので、限界だった。


 僕の意識は、ぷつりと途切れた。


ひとまず一章は終わりです。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

時間からは閑話や番外編など挟むままなく二章でございます。


いや〜それにしても戦力激減エンド。

敵を倒したのにこんな悲しいエンドあるかね?

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