天撃
「三の指、獄壁!」
天狗の放つ技をときには防ぎ、ときには回避して、なんとかダメージを受けずに戦い続ける。
それを可能にするのは僕自身が羽団扇を使っていた経験があるからこそだろう。
どの位置からどのタイミングで術が出るか。
どの量の妖力でどの程度の威力が出るか。
それがある程度分かっているのがこの戦いに大きく影響している。
「防戦一方ではないか、餌よ。攻撃せねば蟻も殺せぬぞ?」
「意外と罠貼ってるかもだよ?」
「その罠は儂に傷をつけうるか、よう考えて使うと良い」
言って、天狗は羽団扇を一閃。
鋒から放たれた雷を紙一重で回避して、天狗からは見えないように左腕の親指で空に小さく線を引く。
「一の指、火遊び」
天狗の視界の外から火遊びを飛ばして、それを回避している隙に、先ほどまで僕が持っていた羽団扇に右手で触れる。
「触れたぞ。今度は僕が返してもらう」
瞬間、羽団扇の刃から妖力を流して、風を放つ。
天狗の握る柄から高出力の風噴射。
僕の想定通り天狗は羽団扇から手が離れる。
「武器の安心感、偉大だね」
僕は天狗を煽るように言う。
これに怒って冷静でなくなってくれると戦いやすくなるが、天狗は僕の思っていた反応とは全く別の反応を見せた。
「再度儂からそれを盗むとは、面白い、面白いぞ!」
腕を広げ、空に向かい天狗は叫ぶ。
声は平原に響き渡り、その叫び声には圧すら感じた。
「もういい、それはくれてやる。餌の分際で儂を楽しませるとは、褒めて遣わすぞ」
「それはそれは、有り難くもないし幸せでもないねっ!」
言い終えると同時に天狗に左腕を向ける。
先ほどのこともあり、天狗は警戒。
それを利用する。
「せっかく取り返したしさ、使おうと思うんだ」
天狗に向かい羽団扇で炎を放つ。
「また引っ掛けか、その小賢しさ、良いぞ! 人間は脆い。その分知恵を絞ることこそ、人という餌の魅力! 称賛に値することよ!」
僕は勢い良く跳ね上がり、天狗の真上から術を放つ。
「炎柱、セット」
瞬間、僕の周りに炎の柱が二十本発生。
左腕で天狗に狙いを定めて、叫ぶ。
「炎柱、射出!」
瞬間、炎の柱は天狗目掛けて一本ずつ撃ち放たれる。
「遅い、遅いぞ! その程度で儂の動きを封じられると思うたか!」
「誰が、それが炎柱だと言った」
「なにっ!」
地面から炎の柱が四本。
先程の炎の柱はただ棒状に形を整えた炎だった。
僕が発動させた術の炎柱は今現れた四本。
「この程度、飽きるほど目にしてきた!」
そう言って、天狗は炎柱を破壊。
しかし、隙は作れた。
僕は左腕を天高く掲げ、唱える。
「雷鳴轟くは我が名の下。
「巨石を砕くは風。
「大海を裂くは火。
「天貫くは我が雷と知れ!」
「詠唱術式か! しかしそれも遅い!」
天狗は手元に残る贋作の羽団扇で僕に炎を放つ。
天狗が言う通り、僕が放とうとしている術は詠唱術式だ。
この炎を回避すれば、この術の発動のために貯めた妖力が集中が切れたことで霧散しかねない。
結果、僕は甘んじて炎を好みで受けて、その状態で術を発動させる。
今の天狗は炎を放った直後でほんの少し回避に時間がかかる。
逆転のタイミングは今しかない。
僕は胸の焼ける痛みに耐え、叫ぶ。
「攻術詠唱術式、天撃!」
言うと同時、左腕を振り下ろす。
瞬間、雷より早く、炎より熱い青の閃光が天狗目掛けて天より降る。
更にその二秒後の大爆破。
天狗は息絶える寸前まで弱っていた。
「我が炎を受けてなお術を続けるその心意気……見事なり。もうお前のことは餌とは呼ばぬ………最後に、名を聞きたい」
天狗は息絶え絶えで言う。
「僕は、宗介だ。一ノ瀬宗介。お前は?」
「儂の名か。長年生きると名乗ることも多いが……これが最後だと感慨深いのう」
そう言ったあと、天狗は続ける。
「儂の名は、天永貴景。一ノ瀬宗介、お前の進む道筋に儂という妖がいたということ、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
そう言うと、天狗改め天永貴景は贋作だと言っていた羽団扇をこちらに差し出す。
「これを持っていけ。宿敵からの、土産よ」
最後にそう言い残して、天永貴景は息絶えた。
僕は受け取った羽団扇を握り、先に進む。
進むべき道は、僕を誘導するかのように妖力が一本の線となって続いていたのでそれを辿る。
僕の今の記憶でははじめての敵対した妖であった天永貴景には、思い返せば感謝する必要があったのかもしれない。
敵ということには変わりないが、あいつが僕を古本屋に飛ばしたからこそ自分の記憶が正しい記憶でないことが分かったり、沙耶との再開などがあったのだから。
いや〜やっと使ったね。
長かった。
いや、そうでもねえな。