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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
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天狗攫い

 森を歩き続け、しばらく経つ頃。

 一つ自動販売機がポツンと置いてある。


「これって、絶対入口よね」


 猫宮さんが言う。


「ああ、パスワードやらカードやら使うタイプか? 面倒臭えな」


 続けて荒木寺さんが額を掻きながら言うと、それを見た九尾苑さんが入口と思われる自動販売機に手を掛ける。


「なんで態々丁寧に解除するつもりなんだい。こんなもの、壊して進めばいいんだよ」


 次の瞬間、自動販売機の表面がメキメキと音を上げて九尾苑さんに剥がされる。


 しかし、その中身は地下に続く階段やどこかに続くような謎の扉ではなく、ただの無理矢理表面を剥がされた自動販売機だった。


「おい、正規ルートじゃねえとダメだったんじゃねえのか?」


「大丈夫だよ。多分、これは正規ルートで解除したときに妖力が流れて繋がる仕組みだ。だから、こうやって正しい量の妖力を流してやれば——————」


 九尾苑さんが言って、妖力を流し込んだ瞬間、視界が歪む。

 これは初めての感覚ではない。

 嘗て古本屋に飛ばされたとき、天狗攫いに遭ったときと全く同じ感覚だ。

 そう思っている間に、僕が見ている世界は闇に包まれて、明るくなる頃には先ほどとは全く違う場所に。


 慌ててあたりを見渡すと、そこは古本屋の店内だった。

 九尾苑さん達の無事を確認する為にあたりの確認を続けると、お世辞にも良い思い出がある相手とは言えない者が店の入口前に立っている。


「よう餌。そんなに目を見開いて、儂が生きているのがそんなに不思議か?」


 赤い肌に長い鼻。

 長い一本下駄で器用にバランスを取って立ちながら、片手に持つ団扇で自分を仰ぐその相手。


 僕を古本屋に飛ばした天狗だ。


「儂の羽団扇、贋作では少々役不足と見た。それを返してもらうとするかの」


 言い終えると同時、天狗は僕もよく知っている武器、羽団扇を振るう。

 瞬間、業火が現れる。


 前回とは違い、九尾苑さんの狐摘がないので自分の妖装で熱を防ぐ。


「お前、なんで生きてる」


「良い思いがなくとも、久方ぶりの再開で第一声がそれとは礼儀がなっとらんなぁ。儂直々に教育し直そうか」


「九尾苑さんに呆気なく負けたお前に何が——————」


 言い終える前に、天狗の姿が視界から姿を消す。


「さて、儂では役不足かの?」


「後ろかッ!」


 勢いよく迫る羽団扇に、こちらも羽団扇を振るう。

 羽団扇同士が当たる瞬間、僕も天狗も風を放つ。


 天狗の放った風は僕の出した風を貫通して、圧倒的な爆発力で僕の手から羽団扇を攫う。


「姿は変わっているが、やはり馴染む。餌には勿体ない武器よ」


 天狗はケタケタと笑いながら言う。


「おい、もうこの景色は飽いた。元の景色に戻せ!」


 続けて天狗が言った瞬間、辺りは何処までも続く平原に早変わりする。

 不思議に思うが、それを気にしている余裕はない。


「火吹きの左腕ッ!」


 僕は奪われた羽団扇の代わりに火吹きの左腕を発動させて、いつでも攻撃できる体制を整える。


「それが、あの端蔵が警戒していた腕か。確かに危険ではあるが、見たところ使いこなせてはおらんようだし、まだ戻っておらぬようだの」


 言って、天狗は僕から取り戻した羽団扇を一閃。

 炎を三日月型にしてこちらに飛ばす。

 その様子は宛ら飛ぶ斬撃だ。


「三の指、獄壁!」


 僕は即座に壁を作り出し、炎を防ぐ。


「緩い! その程度で儂が止まるとでも思うたか!」


 瞬間、真上から水滴が勢いよく降り注ぐ。

 炎を纏った左腕で全て弾き、体にも出来る限り強い妖装を纏わせる。


「終わらぬッ! 気を抜くでないぞ!」


 次の瞬間には背後から雷。

 それも左腕で弾き、なんとか打開策を探る。


「火走り五連!」


 相手の隙を作ろうと術を放つが、天狗はそれを軽々と回避。

 火走りは僕の使う術の中でも速度が二番目に速い術だが、これが届かぬならば残る手段で最も逆転の可能性が高い術はただ一つ。


「何か企んでおるな? 面白い、使えるかどうか、試してみると良い!」


 天狗は声高々に言う。


「企み? ないよ、そんなもの」


 僕はあくまで猿芝居。

 不必要な嘘をついて言葉を返した直後、親指を一閃する。


「一の指、火遊び!」


 勢い良く飛び出した炎の玉を天狗は全て羽団扇で打ち消す。


「それも届かぬわ。餌め」


 圧倒的な実力差。

 笑えてくる。


 僕はただ、それだけを思った。

この天狗は、石化して可燃ゴミに出されていたところを端蔵に拾われていました

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