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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
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不機嫌

 森の敵本拠地突入前、僕は少し遅れてから皆との待ち合わせに向かう。


「遅いわよ、一ノ瀬。緊張は分かるけど、みんな待ってたんだから」


 すっかり足が治った様子の沙耶が言う。


「ああ、ごめん。ちょっと先生から話があったんだ」


「何よ、それなら叱る必要なかったのね。ごめんなさい」


「いや、遅れたのは事実だし、こっちこそ」


 僕が頭を下げようとすると、沙耶が思い出したように言う。


「あ、その話があるとか言ったらしい屋久比さんはどうしたのかしら?」


「ああ、先生なら来ないよ。あの人は全盛期から実力が衰え過ぎている。小手先の技と有り余る知識量で大抵のことはどうにかなるが、今回の戦いは衰えた能力では少々心許ない。よって、店の警備を頼んだ」


 そう言ったのは、僕を待っていた人たちの一人、九尾苑さんだ。


「そうよね。伝説の人とはいえ、お年を召しているもの。流石に突入まではきついわよね」


 沙耶はそう言って納得。

 荒木寺さんや猫宮さん達の元に戻ってゆく。


「さて宗介や。成功確率は?」


「四割程度までは」


「上出来だ」


 準備は、整った。




 ****




「これより先、全ての地面が僕らの敵だ。微塵も油断しないでくれよ」


 端蔵の居場所間近の森で九尾苑さんは言う。

 装備はいつのもの着物に書生柄の羽織だが、今日の九尾苑さんは真面目具合がいつもとは別人のようだ。


「フフ、地面に警戒か。街中なら正解であり、この森においては不正解。警戒するならば木だ」


 突如、どこからともなく声が響く。


「気をつけろ、端蔵の手先だ!」


 荒木寺さんが真っ先に叫ぶ。


 声が響き、数秒後には風で揺れた葉の音と誰かが落ち葉を踏む足音のみが響き渡る。


 各々が敵の居場所を探し、自然と皆が背中を合わせて、円形に。

 全員で三百六十度隈なく敵を探せる陣形だ。


 それも僕らの中心、円の内側を除いての話ではあるが。


 敵は、そこにいた。


「敵の言った通り周りの木を見渡す。滑稽よなあ」


 そう言う、正体不明不可視の敵の足音に気づいたのは、僕と荒木寺さんと九尾苑さんの三人だった。


「バレバレだっての」


 気づいてはいたが、そう言った後の荒木寺さんが発動させた爆発は、焦る。

 そりゃ焦るだろう。

 敵がいた場所で、突如爆発。

 背中が焦げるかと思った。


 液体が散らばる音がする。


 恐らく、今の爆発で敵は死んだのだろう。

 透明のまま、血液も死体も二度と誰にも見つかることなく、ここで白骨となるのだろう。


 透明になる術なんて、こんな突入序盤に出てきて良い能力ではないと思うが、割とあたり一面爆発させれば倒せるのかもしれないな。


 荒木寺さんの爆発から慌てて離れたおかげで血を被らなかった僕は、名前も顔も知らない敵を少し憐れみながらも荒木寺さんに目を向ける。


 荒木寺さんは、少し不機嫌そうな顔で爆発を発生させて辺りの位置を見ていた。


 ああ、これはアレだ。


 端蔵といい、シルフィーといい、逃げられたり負けたりと続いて不機嫌なんだ。


 なんだか、今は端蔵よりも味方が怖い。

爆発のほうれんそう(報告、連絡、相談)が出来ない男、荒木寺でございます

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