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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
57/164

器用

「よし、じゃあ場所も分かったし攻めようか」


 九尾苑さんが言う。


「賛成だ。相手に居場所を知られて、こっちも知ってる。そんな状況で相手さんの戦闘準備が整うまで待ってやるなんざアホのすることだ」


「そゆこと。流石は荒木寺だ。よく分かってる」


「雑に褒めるんじゃねえ。野郎に褒められて喜ぶのはガキだけだ」


「つれないねえ」


 そう呟いたあと、九尾苑さんが自分の頭を指で何度か叩いてから言う。


「まず、今夜は無理だ。

「沙耶ちゃんと荒木寺の傷が治ってないし、宗介も妖力を消費している。

「明日も同じ。

「宗介は平気でも二人の傷が大きい。

「そうすると、三日後の早朝がベスト。

「今から地下に移動して引き伸ばされた時間の中先生に二人の治療をしていただき、三日後の早朝に店を出る。

「敵地についたら、即座に二人組に分かれて侵入開始だ。」




 ****




 僕たちは地下に向かった。


 沙耶は足の骨に罅が入っているらしく、僕がおぶって、荒木寺さんは先生の術で傷を塞いではいるが、腹の大穴に応急処置として術を使用しただけらしく、猫宮さんが肩を貸していた。


 地下に着くと、九尾苑さんが前に見せてくれた人をゲル状に溶かすソファーから様々なものを取り出す。


 飲み物や食料、寝床。

 その他諸々の道具だ。


「今から地上で三日分、この空間で一ヶ月程度過ごす予定だ。

「傷を治しながら、突入前の修行に励むよう」



 そう言って九尾苑さんは荒木寺さんと沙耶の治療の手伝いに向かった。


 僕は久しぶりの猫宮さんと久しぶりの手合わせだ。


「それじゃあ宗介くんは消耗してるし、妖力抜きでいいかな?」


「一応聞きますけど、妖具じゃなくて刀としての羽団扇の使用は?」


「ぜーんぜん平気」


「じゃあ大丈夫です。早速僕からッ!」


 言う途中で、地を蹴り駆ける。


 羽団扇の間合いに猫宮さんが入る頃、僕は地面目掛けて拳を振るう。


 先のシルフィーとの戦いで感じだが、僕の身体能力は界門に入る前より高くなっているのだ。


 界門とは、僕と先生が修行のために入った九尾苑さんの部屋にある門のことだ。


 界門の内側にある世界は、この地下よりも妖力の濃度が濃いらしく、それに比例して引き伸ばされる時間も長く、更には高密度の妖力を吸収して、身体能力が上がりやすいのだ。


 この地下の引き伸ばされた時間は地上の十二倍。

 界門の内側の引き伸ばされた時間は二十倍だ。


 妖力の濃度が倍近い空間に界門の内側の時間で一ヶ月と少し居たんだ、身体能力は上がって当然だろう。


 まあそんなわけで、僕の拳はコンクリートの床を抉り、宙に浮いた元床の破片を猫宮さんに向かい蹴飛ばす。


 猫宮さんは素早く全て避け、反撃に移らんとするが、猫宮さんの速度で動き回られると厄介なため、動きを止めさせてもらう。


 先ず、頭目掛けて羽団扇を振るう。


 猫宮さんはそれを身を屈めることで回避し、立ち上がることなく足払いを繰り出す。


「炎槍!」


 羽団扇の鋒を猫宮さんに向け、僕は叫ぶ。

 この技の範囲と威力を先の話し合い時に話していたのを聞いていた猫宮さんは、慌てて鋒の直線上から姿を消す。


 しかし、その回避行動の後に、猫宮さんは気付いたようだ。


「妖力、使わないですよ?」


 そう、技の名前を叫ぶだけのハッタリ。

 普通に考えればつい数秒前に自分で確認したルールなのだから反応することのないハッタリのはずだった。


 しかし、僕はこの手合わせ開始と同時に界門で上がった身体能力を披露して、猫宮さんの冷静さを僅かに欠かせることに成功したのだ。


「小賢しいことするようになったね宗介くんよ。

「あたしゃ二日間での成長が恐ろしいよ」


「妖術の使用で使ってた分の頭が空いてるだけですよっと!」


 言いながら羽団扇を横に一閃。

 跳び上がって回避されたが、下から更に切り上げる。


 しかし猫宮さんは空中で体制を変え、羽団扇の刃を摘んでその状態からバク宙。

 猫のような軽やかな動きを見せたのだ。


 九尾苑さんとの手合わせでは見たことのない動きだ。

 恐らく、身軽さは猫宮さんの方が九尾苑さんよりも上回っているのだろう。


 跳躍のからの落下。

 その最中に猫宮さんが蹴りを繰り出す。


 回避は間に合わず、切り上げたままの腕で防御する。


 蹴りは防げたが、僕にとって最悪の展開だ。


 猫宮さんが狙っていたのは蹴りの命中ではない。

 羽団扇だった。


 僕の手元から羽団扇は消えている。


「足で取るとか、行儀悪いですよ」


 強がってはみるが、負けそうだ。


読んでいただきありがとうございます!

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