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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
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敵襲

 猫宮と沙耶が女子会で喋り疲れて眠った頃、店の外で、一枚の札に妖力を込める女が一人。


 深い赤紫の髪を腰まで伸ばした女は、先日自分が落ち着かせた少年、小豆が覗いていた相手がこの店にいるのかと、少し顔を見るのを楽しみにしながら札を店の扉に貼る。


 すると、本来この小さなボロアパートの一室に収まらないような古本屋が、女と共に突如として姿を消す。


 アパートには、なんの変哲もないこじんまりとした部屋だけ残して。


 古本屋は消滅ではなく、別の場所に転移しただけであった。


 札の術式だ。


 店は店内に繋がる扉だけとなり、その扉から転移の際の妖力で目が覚めた店員全員が出てくる。


 その様子はかの有名などこでもドアのようだ。


 出てきたうち一人、荒木寺が辺りを見渡して現在位置が森であることだけ把握。


 女は出てきた者たちから、事前に端蔵から容姿を教えられている、長髪黒髪の男、九尾苑を探す。


 見つけると、未だ自分に気づかない様子の者たちを意識から消し、九尾苑に掌を向けて、意識を集中させる。


「鬼の骨で錬えるは鎖。

「八つの錠で地を閉じ、二つの天蓋で空を閉ざす。

「縛術、鎖鬼( さき)!」


 女が唱え終えると、九尾苑を中心に強い妖力が発生する。


「詠唱術式だ、総員退避!」


 一番に気づいた荒木寺が言う。


 各自妖力が発生した位置から即座に離れる。

 ただ一人、九尾苑を除いては。


「九尾苑さん、逃げて!」


 猫宮が叫ぶが、九尾苑は動く様子がない。


「ごめん、体動かない」


 九尾苑は平気な様子で言った。

 発生した妖力の量は増え続け、女の目的量に達するころ、猫宮が九尾苑を救出しようと駆ける。


 しかし、もう遅い。

 猫宮が九尾苑の元にたどり着くとほぼ同時、二人の周りに大量の妖力を纏った鎖が現れる。


「馬鹿、突っ込むな!」


 荒木寺が叫ぶがこれも遅い。

 鎖の内側には、大量の妖力を纏う紫色の天蓋が現れ、鎖の内側に幕を下ろす。


 すると、その幕を覆うように鎖は伸び始め、軈て中の様子は見えなくなる。


「詠唱術式、鎖鬼の檻、完成」


 女は言う。

 その声で、沙耶と荒木寺は女に気づく。


「あら、まだ気づいてなかったの。

「やっぱり、暗殺部隊の経験は役に立たないことがなくていいわね」


 そう言う女に荒木寺が尋ねる。


「誰だ、晴海の手先か?」


「あら、少しは勘が良い人もいるみたいね。

「私はシルフィンドール、シルフィーって呼んでいいわよ」


 言い終えた瞬間、女改め、シルフィンドール改め、シルフィーの頭上で爆発が発生する。

 その爆発は、シルフィーをも飲み込み、半径五メートル以内を焼き尽くす。


「手先なら、死ね」


 即決即断の行動に、沙耶は思わず目を丸めて荒木寺の方を見る。


「若さ故の油断ね」


 沙耶の背後で声がする。

 慌てて振り向くと、そこには無傷のシルフィーがおり、沙耶は即座に蹴りを繰り出す。


 シルフィーはそれを紙一重で躱し、蹴りのあとにガラ空きになった腹に蹴りを入れ返す。


「縛術、破苦」


 荒木寺が言った瞬間、シルフィーの足元に転がる石が変形し、シルフィーの身の丈程度ある即席の檻になる。


「これなら、坊主でも倒せたな」


 そう言って、荒木寺は宗介を脳裏に思い浮かべる。


「おい、お前ら生きてやがるか」


 そう言って荒木寺は、猫宮と九尾苑の入っている詠唱術式の檻、鎖鬼に寄る。


「よし、妖力の反応は消えちゃいねえから生きてるな」


 そう呟き、鎖鬼に触れた瞬間、荒木寺の視界に赤が映る。

 次第に体の力が抜け、寒気が襲う。

 腹に触れると、いや、触れることは出来なかった。


 大穴が空いているのだ。


 視界が滲む中なんとか振り向くと、破壊された破苦と、左腕を自分の血で真っ赤に濡らしたシルフィーの姿があった。


 足から力が抜けきり、膝から崩れ落ちる。


 寸前だった。


「今度は、間に合いましたよ」


 ついさっき思い浮かべたばかりの男の姿が、そこにはあった。


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