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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
50/164

大荒れ

祝、五十話目です

 お菓子なのどの買い物を終え、二人で猫宮の部屋に向かう。


 扉を開けて沙耶の視界に飛び込んできたもの。

 それは、かつて宗介も苦戦した魔境だった。


「どう、最近は部屋を綺麗にしてるのよ!」


 自身ありげに猫宮は言った。


「猫宮さん、これじゃあ二人で寝れませんよ。

「それどころか猫宮さん一人でも寝てる間に飲み込まれそうな積み方ですよ」


 猫宮は驚いたような顔をして、大きく空いた口をなんとか手で隠す。


「嘘、私は部屋を綺麗にしてる方なのよ?」


「そうですか、それじゃあ私と一ノ瀬が二人で使ってる部屋を見に行きますか?」


 言うと、またもや猫宮は自信ありげに、胸を張って応える。


「ええ、見てやろうじゃないのよ!」


 五分後、猫宮は打ちひしがれていた。

 自分の部屋が綺麗ではないことを知ってしまったからだ。


「猫宮さん、片付けましょう。

「頑張れますか?」


 沙耶が尋ねると、猫宮は震えた声で涙を浮かべながら応える。


「沙耶ちゃんが手伝ってくれるなら頑張る」


 そう言って猫宮月下は立ち上がるのだ。


「頑張りましょう、猫宮さん!」


「ええ、頑張ろうね、沙耶ちゃん」


 そうして、沙耶の人生史上最難関のミッションは開始したのだ。


「まずは必要な物と必要じゃない物の分別です」


 沙耶が言うと猫宮は、あれも必要これも必要と、何でもかんでも必要と言いながら指差しを始めた。


 沙耶はため息を一つ零し、店からある物を持ってくる。

 段ボールだ。


「猫宮さん、ここ二ヶ月以内に使った物は右の箱に、二ヶ月以上使っていなければ真ん中の箱に、使ってなくても思い出なんかで捨てられない物は左の箱に入れてください」


 猫宮は頷き、箱に荷物を詰め始める。


 沙耶は叩きで棚などの埃を払い、部屋の中はみるみる片付いてゆく。


「ふう、これでなんとか床は見えてきましたね」


「これなら沙耶ちゃんの部屋にも匹敵しうる綺麗さじゃないかしら!」


 猫宮は再度胸を張って言う。


 しかし、沙耶は無情だった。


「いや、ぜんぜん」


「え、嘘」


「本当です」


「な、何故」


「今まで積んであった荷物に埋もれてた埃やらがあるじゃないですか。

 これを綺麗にしたら完璧ですよ」


 あ、猫宮はそう一言だけ零した。


 掃き掃除で埃を全て取り終えたのは、それから三十分後だった。


 猫宮は灰のようになっている。

 床が見えたら終わりという、勝手に自分の中に作り上げた目標が間違いだったことに大いに傷ついたのだ。


「ほら、片付け終わりましたよ猫宮さん」


「でも、もう時間が、お菓子が」


 猫宮は、泣き出しそうだった。

 まるで幼女のように、大号泣の手前だった。


 片付けが長引き深夜、猫宮の女子会したい度と眠気のパラーメーターは、現在マックス状態だ。


「とりあえず、今夜は一緒に寝ましょうか」


「でも、お菓子とか」


「女子会は、明日の夜やりましょう」


 瞬間、猫宮は花が咲くように、笑う。


「うん!」


 そうして、宗介のいない夜は明けてゆくのだった。

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