四冊目
あの後、九尾苑さんと話し合った僕はこの店で住み込みのバイトと決定した。
「じゃあ先ず、団扇で大分散らかったからね。片付けしよっか」
九尾苑さんは汗をかいたから服を着替えようくらいの勢いで言う。
僕は、あれ程の炎が燃え盛っていたのだから本くらい全て燃えてしまったと思っていたが、これは………………。
「九尾苑さん、ちょっと気になったんですけど、あの羽団扇って大火事になってもおかしくないぐらい炎出てましたけど本って全部無事なんですね」
「ああ―――まああれくらいなら焦げ跡も付かないよ」
「焦げ跡も! 何か特殊な素材でも使ってるんですか?」
質問してみると九尾苑さんはニヤニヤしながら説明してくれた
九尾苑さんが言うからには本が焼けていないのは妖達の使う術、妖術というものが理由らしい。
人間基準で言ってしまえば特技のような物だとのこと。
一族の伝承や有名な言葉などが元になり発現し伝わる物、それから後の修行次第で身につける物や道具で使える物もあるらしい。
この本の場合は、狐に摘まれたという言葉が元になった九尾苑さんの一族に伝わる妖術、狐摘と言う術が使われているらしい。
物資の能力をそれ以上なのだと世界を騙す術で、本を壊れにくくする以外にも槍を長く騙したり刀を鋭く騙すことも可能だそうだ。
余りにも相手と自分の実力差が大きいと意味が無いらしいが、今回の天狗は弱い方だったらしい。
上位の天狗だったら危なかったと笑いながら言っていたが先程の余裕そうな顔を思い出すと、出会ってほんの数分程度の間柄で詳しく知らない相手の筈なのに、九尾苑さんならばなんとかしてしまいそうだと思えてくる。
片付けが終わると無貌木さんがお茶を淹れてくれた。
無貌木さんは古本屋に吸い込まれた直後、僕の胸に手を当てて天狗攫いと言う原因を突き止めてくれた人。
五年前からこの店で働いているらしい。
「お疲れ様―――今日はいきなり天狗攫いにあったり、天狗に襲われたと思ったら住み込みが決定とか疲れたでしょ? 少し休んでな」
「ええ、もう知らない事が多すぎて頭の中がぐちゃぐちゃですよ」
「まあ、いきなり別世界のような環境に飛ばされたんだ。体がぐちゃぐちゃになってないだけ儲けもんだよ」
本当に、情報が多すぎて頭が破裂してしまいそうだ。
そんな事を考えていると、店の奥に消えていた九尾苑さんが戻ってきた。
「一気に情報を詰めすぎても良くない―――続きはまた後でとしよう。先ずは夕飯で腹を満たすなんてどうだい?」
そう言い、九尾苑さんは手招きをする。
僕と無貌木さんがそれについて行くと、そこには僕を含めた人数分の食事が用意されていた。