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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
31/164

三十冊目

「沙耶ちゃんね、通いのバイトになったから」


 九尾苑さんがそう言ったのは、沙耶が現れた次の日直ぐだった。


「沙耶ちゃん毎日来るらしいから、ちゃんと仕事とか教えてあげてね」


 沙耶が店に来ると、僕が教える事なんて無いのではと思う程慣れた手つきで清掃を始める。


 数日前から猫宮さんと荒木寺さんが仕事で店にいない為、本の整理などを手伝ってくれる人が居ると助かる。


「三列目終わったわよ〜」


 そう言いながら沙耶が此方に駆け寄る。


「梯子の埃は払いました?」


「あ〜忘れてたわ! パパッとやってくるわね!」


 仕事で動き易いように纏めたポニーテールが、犬の尻尾の様に見える。


 それに、僕の記憶は正しくないので分からないが、沙耶が僕を探していて封じられていたスキンシップが、現在全て解放されている気がする。


 終わったら箒で床を掃く様に頼み、自分も残りの本棚を掃除する。


 掃除を続けていると、九尾苑さんが向かい手招きをしている。


「宗介くんさ、沙耶ちゃんと妖退治して来てくれないかい?」


「妖退治ですか、それって危険ですか?」


「いや、微塵も危険は無い。

「端蔵もしばらく出てこないはずだし、万が一があったとしても、僕の結界を無視して店に入って来た沙耶ちゃんが居れば平気だろう。

「強いよ、あの子。

「荒木寺と同じくらいにはね」


 言うと、九尾苑さんさんは五種類のお札を取り出す。


「敵が多ければ白のお札。

「道に迷ったら緑のお札。

「少し梃子摺るなら黄色いお札。

「沙耶ちゃんが対処不可能な状況と判断したら、この青いお札。

「そして、二人の命が危険になったらこの黒いお札だ。

「状況に合わせて使ってね」


 言うと、僕にお札と行く場所を記したメモを渡してから、九尾苑さんは店の奥に消えていった。


 僕がその事を沙耶に言うと、着替えなどはせずに、モップを片付けて準備は終わりだと言った。


 念のため、小刀を二本押し付けたが不服そうだ。


 準備を整えて店を出る。


 未だ凍える程では無いが、少し肌寒い。


 風に吹かれ転がる落ち葉を、横目に流しながら歩く。


 川の間を繋ぐ大きな橋を渡っていると、沙耶が僕に聞く。


「ねえ、今って何処まで記憶が戻ってるの?」


「今は、自分の下の名前と両親の声ぐらいしか」


「そっか、いつか私の事も思い出してね」


 僅かに気まずい空気が流れるが、それは次の瞬間の目的地到着で断ち切られる。


「メモの場所的にも、妖力の量的にもここで間違いなさそうね」


「ええ、しかし、これは」


「ええ、流石にこれは」


 臭いですね、そう二人でハモった。

読んでいただきありがとうございます

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