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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
24/164

二十三冊目

「落ち着け坊主、お前じゃ勝てねえよ」


 天井が崩れ落ちた瞬間、現れたであろう人物の声が聞こえた瞬間、僕は冷静を取り戻す。


「久しぶりだな、晴海」


「やあ、信玄。

「最近ちゃんと禁煙できてるかい」


「よくもまあ、そんな平気な顔して俺たちのいる街に戻ってこれたな」


「僕の質問は無視かよ。

「まあそれは良いとして、まさか自分達が僕の脅威たり得ると思っているんですか」


 先程までの不気味な雰囲気から、ピリピリと肌に刺さる様な空気に変わる


「僕の脅威になりそうなのは、まあ九尾苑さんとそこの少年だけだよ」


「言ってくれるじゃねえか、あんま舐めてると痛い目見るぞ」


「痛い目ですか、無理でしょうよ。

「信玄、君程度じゃ僕を倒すどころか、傷一つつけられやしない」


 荒木時さんは一つ大きなため息を吐いてから言う。


「いつ、俺が痛い目見せるなんて言った。

「言っただろ、あんま舐めんな」


 瞬間、男の背後に人影が現れる。


「鉤爪」


 猫宮さんの声だ。

 声が聞こえた瞬間、猫宮さんの指から伸びる長い爪が振り下ろされる。

 首を掻っ切られて倒れ込んだ男の真上にある天井が爆発する。


「馬鹿野郎、油断しすぎだ」


 瓦礫で埋もれた男に向けて、荒木時さんが吐き捨てる様に言う。


 圧倒的だ。

 派手な登場で気を引いてから背後からの一撃、最後にダメ押しで瓦礫に埋めて、食らったら一溜まりも無いだろう。


「大丈夫だった、宗介くん」


 慌てた猫宮さんが僕の側に駆け寄る。


「僕は大丈夫です、でも、無貌木さんが」


「あんまり自分を攻めないでね。

「へこむのは当然だけどそれで立ち直れないのは無貌木くんも望んで無いと思うから——————」


 瞬間、先程まで天井だったはずの瓦礫が僕達の目の前を通り過ぎようとして、寸前で砕け散った。


「残念、月下だけでもって思ったんだけどね」


 瓦礫を退けながら、死んだはずの端蔵が再び現れる。


「別に油断したわけじゃ無いよ、警戒する必要が無かっただけだ。

「聞いたでしょ、本気で自分達が僕の脅威たり得ると思っているのかって」


「お前は一々癪に触る喋り方をするな」


「酷いな信玄は、せっかく僕がフレンドリーに接してるのにさ」


「誰がお前なんかとフレンドリーに接したいんだよ」


 荒木時さんが言うと、端蔵はニヤニヤして言う。


「それがさ、以外と居るんだよ。

「今度君達も会うだろうから、覚悟しといてね。

「ああ、あと僕はそいつら達の所に帰る時間だから、今度こそ邪魔しないでね」


「それじゃあバイバイ。

「あ、あと無貌木の体は解剖したいから貰っていくよ」


 待て、そう言って飛びかかりたかったが、僕の腕は荒木時さんに強く掴まれていた。


 端蔵が部屋から出た瞬間、壁や天井に罅が入る。

 すぐにその罅は廃墟中に広がるだろう。


「とりあえず脱出するぞ小僧、話は帰ってからだ」


 瞬間、荒木時さんは掴んでいた僕を放り投げ、掴む場所を腕から足首に変更、僕が床に激突する前には跳躍していた。


 もうあの廃墟に端蔵は居ないのだろうか。

 今からあの廃墟に戻って探した所で無貌木さんの遺体を探し当てる事は出来ないのだろうか。


 そんな無念とあと一つの胸に燃える感情を握りしめて、気づいた頃には僕達は店に辿り着いていた。


「お帰り、宗介くんには悪い事をしたね」


 天が空気でも読んだのだろうか、ぽつぽつと雨が降り始めた。


 この雨が、僕の悲しみを洗い流してくれればどれ程良かっただろうか。

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