日暮れ古本屋
最終回。
「先生〜今日こそ返事貰えますよね!」
「悪いけど今日も無理だ。明日出直してくれ」
「そんな〜」
この男―――夢屋小豆を先生と呼ぶ女は、弟子志望の柊皐月だ。
「昨日は知り合いの結婚式で、こないだは墓参り。大事なのは分かりますけど、いいかダメかの返事くらい欲しいっす!」
「墓は僕の恩人の墓で、結婚式はただの知り合いのものじゃない。昨日見せた僕の書く話に出てくる主人公、彼だよ」
「あのキャラって実在するんですか!」
「本人の迷惑にならない様に名前は変えてあるけどね」
「さすが先生! 気遣いまで完璧っす!」
「褒めても今は答えを出さないよ」
「そんな〜」
目論みが外れたようで、柊は体をくねらせて残念がる。
「墓参りも世話になった人って、金髪の綺麗なJKとご飯食べてからちょっとお墓に顔出して、その後遊んでただけっす!」
「彼女は一緒に世話になった人だよ。僕も、彼女も、あの人に守られてたのかも知れない」
「わけがわからないっすよ!」
「いいよ、そのままで」
あの戦いから九年。
先日、宗介達は漸く金が貯まったからと、知り合いを多い呼んで、入籍九年越しの豪華な結婚式を行った。
「何で今日はお返事貰えないんですか!」
「今日は大事な仕事があってね、ポールさんに会いに行くんだよ」
「ポールさんって…………ポール社長っすか! 二年前まで先生が秘書してた!」
「詳しいね、君。ストーカーかい?」
「先生のこと好きなんで!」
恥ずかしげな様子もなく言う柊に少し小豆は困り、頭を掻く。
「でも、何でお仕事があるとお返事貰えないのかはやっぱり謎っす!」
「僕は不器用なんだ。仕事の日に別のことをちゃんと考えられるほど賢くない」
「そんなぁ」
「さて、今日はどうやって帰ってもらおうか」
「本人の前で声に出して読む台詞じゃないっす」
「失敬失敬―――そうだな、じゃあ昨日見せた、アレのタイトルを決めたんだ。教えたら今日は帰ってくれるかい?」
「くっ、悔しいけどそれは知りたいっす!」
「扱いやすくて助かるよ」
「それも本人の目の前で言う台詞じゃないっす!」
「まあまあ、いいじゃないか」
面倒くさがりはするが、小豆は柊の事を少なからず気に入っていた。
だから、仕事前にこんなくだらないやり取りをして、緊張を解したりしている。
「それじゃ先生! 作品のタイトルを!」
修正に修正を重ね、漸く出版レベルに達した物語。
どこにでもいるような平凡な青年。
ある日突然、彼は妖や術師との壮絶な戦いの日々へと足を踏み入れてしまう。
そんな物語。
「タイトルは――――――」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
最終回、まさかの主人公不在で御座います!
明日からも新しい話を投稿したりするので、自分が投稿時間に間に合わなかったりして汗汗するのは変わりませんが、日暮れ古本屋はこれで終わりです。
一年にも満たない更新期間でしたが、一生忘れないくらいに楽しかったです。
少し前に最終回を書き終わってからは、新しい話の主人公の名前を間違えて宗介と書いてしまったり、予測変換に日暮れ古本屋のキャラの名前が出てきたりして、少し寂しくなっていました。
ここまで読んでくださった方々が自分と同じように、終わっちゃったんだなあなんて気持ちになってくれたら、作者冥利に尽きます。
当然、最後まで面白かったって、スッキリ終わってもらえても、喜びます。
その楽しかったなんて思いを、感想なんかで送ってもらえたりすると、更に喜びます。
さて、名残惜しくて今までに無いくらい後書きを書いていますが、そろそろ終わりにしたいと思います。
私が車で思いついて、衝動で書き始めたお話を読んでいただき、ありがとうございました。
日暮れ古本屋、完!