契約的裏切り
バスで話を書くと、捗ります。
刃を引き抜くと、刺した位置から血が噴水のように噴き出る。
「急がなきゃ」
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「敵として、はじめましてかの?」
「悪いが、行動の善悪も区別出来なくなった老ぼれを相手してる程暇じゃなくてな―――無駄だろうが、一応言っておく。投降しろ」
「謹んで、お断りさせてもらおうか」
「老ぼれが…………」
荒木寺は、非情ではあっても冷徹ではない。
知らぬ仲ではない屋比久を攻撃するのは、当然躊躇う。
覚悟が、決まらねば。
そしてその覚悟はまさに今、完璧に整った。
「さっき言ったように暇じゃあなくってな、後の用事が詰まってんだ。本業で相手させてもらうぜ」
瞬間―――先程までは革ジャンのポケットに突っ込んでいた手を素早く抜いて、隠し持っていた手裏剣を飛ばす。
「見えておるぞ」
屋比久は床から木を生やして、手裏剣を防ぐ。
すると、手裏剣に貼ってあった札が爆発。
木を木っ端微塵に砕く。
「薄氷、千枚通し!」
「………………ッ!」
薄氷、千枚通しとは、薄く鋭い氷を地面から生やす術。
「おんし、薄いの意味を把握しておらぬな?」
大きな氷の塊。
廃工場の屋根すら突き破る、氷山のようだ。
「いや、覚えてる。しっかし今日は絶好調でな―――この術の名前は名付けた猫宮曰く、俺の調子によって威力が変わりすぎるから、前戦ったときのデータが信憑性薄いらしいぜ」
「通りで―――以前端蔵の手下にやられたときは絶不調だったけえ?」
「ああ、寝起きだったもんでな」
通常時の荒木寺の実力は、全力の沙耶程度。
絶好調時は、一時的に九尾苑をも超える。
そして何より、絶好調時で万全の準備を終えていれば、神尾沙智に傷をつけることすら可能だ。
「無駄口叩いてていいのか爺さん、足元がお留守だぜ」
「薄氷からか!」
「ご名答だ」
薄氷の氷から更に氷を伸ばし、足元を凍らせる。
それが荒木寺の、第一の作戦だ。
「爆ぜろ」
「舐めた真似をしおって」
屋比久の背後で爆発が起きるが、そこは達人。
即座に宙に木を生やし、爆発を包み込む。
その勢いで地面から木を生やして、足元の氷も砕いた。
それを見ると同時―――今度は荒木寺が走り、途中コンクリートの床を手元へと伸ばして、槍を作り出す。
「術が駄目と分かれば次は体術。安直な考えすぎるぞ」
「それじゃあ、その安直な考えに負けたときの言い訳でも考えとけッ!」
荒木寺が槍を一閃するものの、すかさず屋比久も木を生やして防御。
すると防御を逆手に取った荒木寺は、木と槍を思いっきりぶつけて強く弾かせて、振るった反対側から先が尖っているわけではない唯の棒部分を屋比久にぶつける。
「俺が使うのは槍術じゃねえ。棒術だ」
「だからとて、おんしの負けは揺るがぬよ」
荒木寺は手首を利用した槍の半回転を常に続け、攻撃のタイミングを直前まで悟られぬようする。
そして槍の端が屋比久に向かい床に擦れる瞬間、言う。
「……………………火走り」
「それは!」
宗介が生み出した技。
それを何故荒木寺が使えるのか。
そんな疑問が屋比久の老いた脳を過ぎる。
「簡単な術だ。見て試せば真似できる」
「天才が………………」
不意の火走りが命中して左足の膝より下が吹き飛んだ屋比久は、血を噴き出しながらも額に皺を寄せて言う。
呪詛を吐くかのように、羨ましそうに。
「これが終わればその足で柏崎の当主を殺しに行く予定だったから、仕方あるまいか………」
「そうかお前、沙智の敵討ちをするつもりか」
「止めはさせぬぞ! 怪現、霊妙不可侵狭間峠!」
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