愛の行先
「襲撃! 敵一人、神の子です!」
「やっと来たか、少し遅かったの」
小太りした中年が身につけた金属類を鳴らして下品に笑う。
この男、柏崎家当主の柏崎宜嗣はずっと二人を見ていた。
序盤こそ沙智に妨害されて失敗ばかりだったが、最近の沙智はすっかり油断し切っており、十キロも離れれば気付かれなかった。
そして漸く決行に移す。
己の悪事を何年にも渡り密かに破壊され続け、挙げ句の果てには粗悪品と思い暗殺しようとした子を助けられた、憎き相手の殺害計画を。
「さて、恋人同士が命を賭す遊戯の、開始じゃあ――――――!」
「景は、どこ!」
侵入から二十秒も経っていない。
それにも関わらず、宜嗣が仕掛けた罠や迷路を全て破壊してやって来た。
沙智の通って来た道には、消滅していない木などが自然ならば絶対あり得ない形で幾つも生えている。
「汚れを知らぬ純情な乙女がここまで惚れ込むとは、あの粗悪品はどの様に誑かしおったかのう―――ッ!」
「うるさい、景の場所以外喋ることは許さない」
喋る最中に床から伸びる木。
先が鋭くなっている他、込められた妖力は一般的な怪現に使われる以上。
通常の武器や妖具などでは破壊できない、世界一位強力な凶器だ。
それを突きつけられて諦めたのか、宜嗣はさっきまで沙智の襲撃を知らせていた者に指で床を突いて景をこの場に連れてくる様命じる。
景は即座にやって来た。
誰に連れられる訳でもなく、一人で歩いて。
「景!」
「おっと近づくな。お前、奴の首に付くもんがが見えるじゃろ?」
下品な笑みを浮かべ、宜嗣は示す。
「アレは特殊な仕組みの爆札じゃて、ほんの少しの衝撃か妖力が近づきさえすれば即座に爆発して首を吹き飛ばす!」
「ふざけるな!」
食い気味に、沙智は叫んだ。
沙智がこれまで体験した事のない程の怒りを露にして、叫んだ。
「自分の子供に、景になんでそんなことが!」
「うるさいぞ小娘が、沈黙以外許さぬ」
次声に割り込んだのは、宜嗣の方だった。
宜嗣は、景の首に装着された爆札を指差しながら言った。
逆らえはアレを爆発させるとでも言わんばかりの態度で、言うのだ。
「粗悪品の体には妖力を出す機械を仕込んどる。儂の言葉一つで開くが、まだ続けたいなら好きにするがいい」
半々の確率で、沙智は声を出す間もなく宜嗣を殺して、それと同時に景の首に付けられた爆札を剥がすことも出来た。
しかし、僅かな衝撃も与えずになるとそれは別だ。
「よし、敵対しないのは賢い選択じゃの。賢さに免じて、先の質問に答えてやろう。途中で黙らせたが、大体の予想は出来る。大方、己の子にあのような仕打ち、心が痛まないのか? 何故出来るのかというところだろう」
「いやあ、面白い。お前は、儂がアイツを子と認めていると思っておるのか? そんな訳なかろう。アレは偶然儂の血筋で生まれた、唯の粗悪品じゃ! ガラクタで、ゴミじゃよ! 誰かゴミを子と思うか? 頭のいかれた科学者でもそんな考えはしまい!」
黙らせるにも、景の命がかかっている。
沙智も景も拳を握りしめ、耐えに耐える。
そして、その末に覚悟を決める。
「バイバイ、景」
「――――――沙智、やめろ!」
恋は盲目というか、この結末を見つけたのは果たして盲目が故なのだろうか、目が冴えていたからだろうか。
今となっは誰にも分からない。
「貴様、何をするつもりで――――――!」
沙智は己の根を景へと写し、妖力の全てを譲渡。
その瞬間に爆札は作動するが、膨大な妖力はその身に宿るだけで、身から発せられるだけで妖装と同等、いや―――それ以上の効果を発揮したのだ。
爆札は正常に発動した。
宜嗣が予想した通りに、発動したのだ。
一つ違う点があるとしたら、それは死んだのが妖力を持たぬ景ではなく、全ての妖力を失った沙智だった事。
屋敷全体に爆風が広まるほどの爆発を、宜嗣は己の妖装で防ぐ。
恋は盲目というか、この結末を見つけたのは果たして盲目が故なのだろうか、目が冴えていたからだろうか。
今となっては誰にも分からないがしかし、一つだけ分かることがある。
この行動は確かに、愛に満ちていた――――――。
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