ただ一人
なんか、今日信じられないくらい読んでもらえてて、びっくりして満足したら更新遅れちゃいました。
すいません
「完治いたしました、今から一時間は激しい動きをなさらずに、ゆっくりと直った傷口を慣らしてください」
己龍家の医療部隊。
足を貫いていた筈だが―――ほんの十数分で完治。
凄まじいな。
「はい、ありがとうございます………………」
千輝と戦って実感した。
僕は変わっていない―――何一つ、変われていない。
使える術が増えて強くなった気でいたが、所詮強いのは昔の僕だ。
今の僕はそれの一部を使えるようになったに過ぎない。
昔ならきっとさらに先の手まで考えて、更に大量の術が使えて、更に上手く術を使ってきっと、今だって負けてないんだ。
それなのに、上澄みだけ見て自分が強くなった気でいた。
成長したつもりでいて、脚立に登っていただけだ。
その脚立を降りてしまえば、所詮こんなもの。
こんなものの、僕。
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「ありゃダメだ、歪に自信がついて変に曲がってる。あの鉄を打ち直すには時間がねえな」
「そうか―――それは何とも、良い知らせじゃの」
二人は縁側から森を眺め、一人の男について語る。
「自信を一度全部へし折ってやってもいいが、面白くねえし、それで更に変な曲がり方しちゃあ面倒だ。爺はあいつのこと、どう見る?」
爺と呼ばれた雁圭は、己の禿頭を摩りながら応える。
「奴は、元は針金よ。それを突然盧に焼べて一振りの刃として、まあまともに出来上がるわけがないのお。良くて少し鉄が残る程度じゃ。それにも関わらず針金の周りからベタベタと別の粘土を貼っていき、なまじ切れる刃となった。しかしそれも、傷付けば簡単に折れるような諸刃じゃった。今必要なのは新たに貼る粘土か、針金から抜け出すか、分からぬお主じゃなかろうよ」
「めんどくせえが―――姉貴のガキだからな。俺が引っ張るしかねえか」
「あの子と美也子はよく似ておる。故にお前とは、合うじゃろうよ」
「うっせえ、余計なお世話だ」
二人は語る―――一人の男について。
二人は語る―――一人の女を思いながら。
一ノ瀬美也子、雁圭の娘であり、千輝の姉。
そして―――宗介の母である彼女を思う。
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