門番
この話の森率は高い。
「なんでこんなところに………………」
見渡す限り森と深い霧と壁。
昨日話を聞いて、すぐに準備を始めるよう言われた。
そして今日、まだ日も出ぬ頃に店を出て、今己龍家へ到着だ。
最近ここまで攫われたばかりなので、悪いが良い印象が微塵もない。
「えっと、着いたら玄関まで回って…………って玄関どこ!」
森の奥も奥にある豪邸、玄関がまるで見当たらない。
歩いても歩いても、壁しかない。
裏口とか作って門番とか置いておいて欲しい。
そしたら案内して貰えたのに。
「んだよ朝っぱらから、うっせえぞって………………お前、なんでいんだよ」
「ん? 誰かいるのか?」
壁の向こうから声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
誰の声か思い出そうとしていると、その声の主は壁を突き破って現れた。
「しばらく見ねえ間に、マシになったみてえだな」
「お前…………千輝か!」
僕を攫った張本人、運が悪い。
「身構えんな、ちょうど俺もお前を待ってた。案内してやんよ」
そう言うと千輝、己龍千輝は破壊した壁を抜けて外へ、僕の前を歩き始める。
「何突っ立ってんだ、ついてこいよ」
「あ……ああ」
ひとまず、警戒はしなくてもいい…………のか?
ついてくしかないからついてくが、荒木寺さんが余り説明をしてくれなかったので情報が足りない。
「玄関はこっから真逆だ。朝っぱらから野郎と散歩する趣味はねえんでな、走るぞ」
瞬間、土煙が巻き起こる。
「凄まじいな………………って、待て!」
置き去りは、案内ではないだろ!
一応ついて行ける速度ではあるが、それでも早い。
地面が泥濘んで走りにくい、昨晩雨でも降ったのか?
「遅え、置いてくぞ!」
「マジで、なんなんだよ!」
走った、走った、そして暫く経つと、急に千輝が足を止めた。
「どした、疲れたか?」
「それはお前だろ? 違げえよ、到着だ」
壁を見るとそこには、大きな扉があった。
扉というより門、門というよりは、やはり壁のようだ。
「千輝様、お疲れ様です」
「おうよ、お前らもな」
千輝が話しているのは、恐らく門番。
筋骨隆々という言葉がよく似合うであろう二人だ。
「そんじゃ俺は中行ってるから、お前らはこいつの足止めな」
ん?
「この者、当主様の御客人では?」
「ここを力尽くで通れねえようならどっちにしろ明日には死んでるだろうよ」
「承知致しました―――手加減は?」
「不要だ」
僕の目の前で、僕に都合の悪い話が進んでいる。
「おい、待て!」
「ここを通りたくば、我々を倒して――――――」
「うっさい!」
術も要らない。
「ッハ! 少しはマシみてえだな」
千輝は言った。
僕が倒したかも知らぬ門番二人を見下ろして。
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