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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
四章   秘術篇
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感謝だけ

「驚いた、ここは地下だったのか」


 そう、ポールさんを寝かせていたのは地下空間に存在する幾つかの部屋のうち一つ、もし訓練中に酷い怪我や消耗をしたときに休んだしるる場所だ。

 その他にも、以前地下に何日も籠って端蔵戦に備えていた際はこの部屋に寝泊まりしていた。


「地上に戻るぞ、この空間には長居したくねえ」


「はい!」


 そう言って歩く。

 ポールさんは全然の治療によって、普通に歩ける程度には回復したが、この階段を何時間も歩かせるにはまだ早いので、荒木寺さんが左肩に荷物のように担いで歩いている。

 荷物というか、脱いだ上着かもしれない。


 しばらく歩いていると、僕は一つ思い出す。

 ミアさんのことを考えながら歩いていたから、ふと頭に過ったのだ。


「すいません―――先行きます。後からでいいんで、少し急ぎでお願いしますね」


 全力疾走―――最悪の事態を想定して、ほんの一秒にも拘る。

 地下に居てポールさんの治療やらで大分時間が経ったあたりもう手遅れかも知らないが、ほんの少しの希望を手放さない。

 今地上に居るのは誰だ、先に戻った沙耶だけか?

 タイミング的にまだ先生が残っている可能性もあるが、望み薄だ。


 あと僅か、あと少しで地上へ辿り着く。


 間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合え――――――。


「久しぶり、遅かったね」


 そこには、ぱっと見無傷で倒れている沙耶と端蔵。


「よりにもよって、運が悪いな」


 端蔵晴海―――明確な敵であり、以前殺した相手。

 それが、何でここに。


「生きてたんだな、死んだと思ってたよ」


「死んださ、いや―――死んでいると言うべきかな。未だね」


「そうか、それじゃあ何で態々ここに来た? 生前の怨みでも晴らしに来たか?」


「いやあ、凝り固まった考え方をするもんだね―――殺された相手を怨むのが普通だと思ってる。僕という物語は、あの瞬間綺麗に終わったんだ。美しい完結、感謝はあっても、怨みなんてないに決まってる」


「それはここに来た理由になってねえよ、あれか? 感謝状でも渡しに来たか」


「面白いことを言うね、用意してくればよかった―――つまりハズレだ。正解は蛇足編でね、樋口沙耶、この子に返すものがあったんだよ。おや? 渡すものと考えれば、感謝状も惜しいのかもしれないね」


 違和感はない、本物の端蔵か?

 軽い口調に、こんな余裕そうな雰囲気。

 今の僕が直接出会った端蔵とも、昔の記憶に出てきた端蔵とも違いない。


「渡したいもんって、なんだよ」


「もう渡したよ―――よく見るんだ、今の君はそれが分からないような男じゃ…………ないだ……ろう」


「おい、ふざけた喋り方をして僕を油断させようってつもりじゃあ……………………おい、どうした?」


 心配したわけじゃない。

 ただ単に、不審だ。


「何黙りこくって……………………ッ畜生仕込みか」


 苛ついて、肩を掴んだから気づいた。

 とても、冷たいのだ。

 脈なんて感じないし、これじゃまるで、死んでいるみたいじゃないか。


再登場と同時に死する

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