鉄拳
「おはようございます」
「ん…………ここは」
まだ意識がハッキリとしないか。
「水持って来ますね、少し待っててください」
そう言って僕は、目が覚めたポールさんの元から離れる。
あの後僕達はすぐに全然を呼び、ポールさんを治療。
先生は治療が終わって直ぐに次の用事があると帰ってしまった。
幸い命に別状はないが、骨は所々砕け、内臓にも激しい損傷があった。
なんで……………………一体、何があったんだ。
「すまないね、迷惑をかけた」
「いえいえ、迷惑だなんて」
水を取って戻る頃には、完全に目が覚めた様子。
「少し待っててくださいね、荒木寺さんを呼んできます」
「いや、聞こえたから必要ねえよ」
「流石ですね」
耳がいいのか、外で聞いてたのか。
どちらにせよ、手間が省けた。
「さてポール、何があったか話せ」
「ああ…………………未だ信じられないがね、ミアに裏切られた」
「なっ! ミアさんがですか!」
「そうか、誰の元へ行った」
「恐らく、柏崎景だろう」
信じられないな。
ミアさんはポールさんに従順に使えているように見えた、あれは演技?
「そして更に…………僕は今君を疑っているよ、一ノ瀬宗介」
………………………………は?
「待ってくださいよ、無礼を承知で言いますが、今冷静じゃないですよポールさん」
「いや、僕は冷静さ。ミアが消えたのは君を送り届けてから直ぐに、一度も社に戻らずだ。それならば、君の関与を疑うのは当然のことだ」
「あなたは冷静じゃないですよ、ミアさんに僕を送るよう言ったのはあなたじゃないですか、それも忘れるなんて、混乱してるんですよ」
「それだけじゃない、前に己龍の者と君が戦ったとき、柏崎景は自らの姿を晒してまで君を助けた。それって、君が仲間だからじゃないのかい? 他にも、龍の体内で君に会ったとき、彼は君が僕に伝えた以上の情報を君に伝えたんじゃないのかい? 例えば、ミアから聞いた僕に信頼される方法とかね」
「そんなわけ――――――ッ!」
「馬鹿野郎、お前がそんな戯言でストレスを発散するやつだったとは、知らなかったなあ」
僕の言葉を遮ったのは、荒木寺さんの言葉と、勢いのある鉄拳だった。
その拳はポールさんの頬に直撃して、更にはそのポールさんが寝ている鉄パイプのベッドすらも破壊した。
「信頼してた女に裏切られたお前の気持ちなんざ知らねえし知りたくもねえ。だが、お前が貶してる相手は誰だ! お前の親友が、九尾苑が信頼して次の店長まで任せた男だ! そんなコイツに皮肉を浴びせるなら、この店に何で来た! 俺を頼ってか! そんななら、二度とこの店のドアを開くんじゃねえ! 九尾苑と、俺がそれを許さねえ!」
声を荒げる荒木寺さんを、初めて見た。
しかし、これ程に怒る姿は見たことがある。
無貌木さんが端蔵に殺されて、少し遅れて駆けつけたときだ。
あのときは、戦いの場だからこそ冷静に見せかけてはいたが、それでも怒っていた。
そうかこの人は、仲間の為に怒るのか。
「考えが変わらねえなら、怪我が治り切ってなかろうが出てけ。俺は俺の仲間を信用しねえようなやつからの情報なんていらねえし、そんなやつの命なんざ捨て置ける。お前もそうだろ、盗み聞きなんて、趣味が悪い」
荒木寺さんがそう言うと、部屋の扉が開く。
「バレてたんだ―――まあ、大体一緒かな。一つ違うとしたら、許さないのは私もだよ」
入って来たのは、猫宮さん。
さっきまで寝てたはずだが、ベッドの準備などをしている音で目を覚ましていたのかもしれない。
「まあ…………ありがたいですけどポールさんも疲れてると思いますし、まだ混乱してるんですよ。だから僕は………………」
「いや、荒木寺の言う通りだ。すまない」
今度僕の声を遮ったのは、ポールさん。
「確かに冷静じゃなかった。荒木寺に言われて気づいたよ。本当に申し訳ない」
「いいんですよ、裏切られたなんて、誰でも混乱します」
ポールさんも落ち着いた。
さっきの口ぶりからして、ポールさんが考えを改めれば荒木寺さんもこれ以上は怒らないはずだ。
しかし、冷静なポールさんがこんなに荒れるなんて、来た際の傷も気になるし、一体何が。
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