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日暮れ古本屋  作者: 楠木静梨
一章   古本屋篇
13/164

十二冊目

「お早う」


目が覚めたと同時にそんな声が聞こえた。

そこは昨日の晩借りた部屋、などではなく、30分程前に僕が大敗北を経験したコンクリートの空間であった。


今改めて見ると、自分がここで攻防していたとは思えない破壊後だ。


九尾苑さんが僕の肩をコツンと何かで突く。

それは一般的には打刀と言われる刀の柄だった。


「ほれ、君の羽団扇だ。

「もう団扇なんて形状じゃあないけどね。

「君が気絶した瞬間、あの纏ってた風が鞘になってちょっと笑ったよ」


あの扇子の形から、こんな刀の形になるなど想像出来ない。

しかし、柄頭の羽の絵にほんの僅か、羽団扇の名残が残っている。

それに、先程僕の腕に纏わりつく用に発生した風は、僕の腕より先にもこれくらいの長さがあった気がする。


「この羽団扇や僕の仕込み杖など、これらは以前君に妖術の説明をした時に少し話した、妖術を使える道具さ。

「まあ名は体を表すと言うべきか、ネーミングセンスがないと言うべきか、名を妖具と言う。

「妖具はね、使用者が望んだ様な形に変わるんだよ。

「勿論、扇風機の形にならんかな、なんて思ってなる訳ではない。

「軽い気持ちなどではない、強い望みが必要だ。

「今回の君の場合は僕に勝ちたいと言う君の強い思いが羽団扇をこの形にしたみたいだ」


強い思い、確かに僕はあのとき九尾苑さんに勝ちたいと思い、願っていた。

しかしだ、戦闘狂でも長年戦い続けた猛者でもなんでもない僕の思いで形が変わると言うのは、いくらなんでも強い思いの判定が雑すぎやしないだろうか。


そんな事を思っていると、九尾苑さんがそれを悟ったかの用に僕に語りかける。


「自分の思いを過小評価するんじゃないよ。

「人間の思いはときに当人の意識の範疇を超えて成長する物だ。

「今までの人生でなかったかい、気づいたら思っていた以上にストレスが溜まり胃が荒れたなんて経験」


確かに納得だ。

学校で近くの席の者が騒ぎ続けている事で気付かぬうちにストレスが溜まり胃が痛くなることはたまにあった。


「僕、五時間以上九尾苑さんに挑んでましたもんね、無意識に闘争心でも芽生えたのかも」


「そりゃあいいことだ。

「闘争心は人を強くする」


軽い会話を済ますと、九尾苑さんは僕の体力が回復したと見たのだろうか、再び僕に羽団扇を握る様に言う。


「風や炎などを出すのに必要なのは強いイメージだ、具体的であればある程良い。

「今から君はその訓練をしてもらう。

「さっきの戦いで意識せずとも風を出していたんだ、全く出ないなんてことはない筈だよ」


そう言うと九尾苑さんは立ち上がって構えをとる。

仕込み杖は持っていない。


「今度君に必要なのは感情を爆発させる様な危険じゃない。

「その今よ君には有り余る道具を使いこなす技術だ。

「ある程度使えるまで、上に帰れると思わないでね」

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